【今週のサンモニ】忘年会騒動は番組の「貴重なネタ」|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。今週も相変わらずやらかしてくれる番組です。

サミットの成果を忘年会騒動が打ち消す?

今週のサンモニのトップニュースは首相公邸の忘年会騒動でした。

これは国民生活には何の影響も与えない報道価値が皆無の事案ですが、G7サミットを見事にオーガナイズしてリーダーシップを発揮した岸田内閣の支持率が上昇傾向を示す中、政権批判を目的化している番組にとっては貴重なネタであったと言えます。

アナ:まずは政治についてお伝えします。岸田総理の秘書官を務める長男が月曜日更迭に追い込まれました。きっかけは総理公邸での忘年会。永田町に波紋が広がっています。(中略)

総理秘書官を務める翔太郎氏の進退について事実上更迭を決断した岸田総理。ところが、木曜日に週刊誌が報じたのは同じ忘年会で撮影された集合写真。真ん中にはスウェット姿でリラックスした岸田総理が写っていたのです。

翌朝、問題がなかったか問われると「不適切な行為はない」と述べましたが、バツの悪い事態となったのです。地元広島でのG7の追い風を打ち消しかねない状況です。

公邸の公的スペースにおいて「親族が階段で寝そべる行為」は、特別な地位を利用して稀少性がある公的施設を社会通念から大きく逸脱した形で使用したものと言えます。このような行為に社会が不快を感じるのは無理もなく、【不快原理】に従ってこの行為を批判することには一定の合理性があります。

しかしながら、国家公務員宿舎として法的に貸与されている公邸の私的スペースにおける「親族の会食」や「リヴィングでの集合写真の撮影」を批判することは不合理です。民主主義国家において、国民の一員である首相は、国民から私権を制限される存在ではなく、一般国民と同一の私権を持ちます。他者に危害を与えない限り、この私権は尊重されなければなりません。

そもそも年末年始の老夫婦宅に十数人の親族が集合することは、日本社会では極ありふれた慣習的行動であり、他者からとやかく非難される筋合いのものではありません。これをあたかも問題であるかのように報じることはむしろ公人に対する人権侵害と言えます。

また、「G7サミット広島ビジョン」という世界平和に関わる政治的成果を「公邸における親族の集合写真」という日本国民の生活にも影響しないネタを同等に取り扱って「打ち消しかねない」などと相対化していることは極めて異常です。

このような常軌を逸した価値判断は健全なジャーナリズムとは程遠く、偏向した反政府プロパガンダと捉えるのが蓋然的です。

岸田首相と長男・翔太郎氏

外でやる忘年会の方が高コスト・高リスク

さて、このような不合理な番組の主張を必死で正当化するのが『サンモニ』が誇る御用コメンテーター陣です。

薮中三十二氏:(公的なスペースと私的なスペースというのには)かなり無理がある。総理公邸に入るのは物凄く厳重な警備がある。十数人が忘年会というスペースではない。基本的に総理の公邸は公的なものだ。そこには高い倫理観が求められる。こんな忘年会やるなら外でやればいい。いちいち人が入って来るのをチェックしなければいけない。

首相官邸

公邸の私的スペースを含めた国家公務員宿舎は、法に従って国家が国家公務員に貸与する私的スペースであり、入居者が許可する親族の訪問を国家権力が拒否することがあれば、それは明確な人権侵害です。また、公邸の警備は固定費で運営される維持・管理業務であり、警備員にその主要な用務である訪問者のチェックを行わせることを問題視するなど本末転倒の極致です。

一方、セキュリティが確保されていない外部で国家の要人が親族と私的な生活を営む行為は、オンデマンドに新たな警備費が発生するため、高コストになります。藪中氏のコメントはあまりにも不合理で驚愕するばかりです。何よりも、首相が不特定の人物から生命を狙われている存在であることを全く理解していません。テロリストに安倍総理が殺害され、岸田総理も殺害されそうになった事実をもう忘れたのでしょうか。

なお、合衆国市民は、大統領がホワイトハウスを親族の結婚式や誕生日パーティーなどの場として堂々と私的に利用することを基本的に許容しています。強固なセキュリティの中で大統領の私的生活を保障して執務に集中させた方が市民の利益に適うからです。

「首相は権力を私物化している」?

さて、青木理氏は、今回もまた国民のルサンチマンを刺激するパワーワードである「権力の私物化」という言葉を使って首相を批判しました。ただし、論理展開はグタグタです。

青木理氏:公邸がなぜ官邸の横にあるのかと言えば、最高権力者たる首相が国家的危機に迅速に対応するためだ。公邸はこの国の究極の公的空間で公的権力の中枢だ。そこに親族を招いて忘年会をしてはしゃぐというのは論外だ。

権力の私物化だ。(少子化対策に)5千億追加して財源を先送りするのも選挙を有利にする権力の私物化だ。自己の都合で全て誤魔化したり、派手に打ち上げたり、その大元は全て我々の税金ということを考えると、権力の私物化が今回のすべてのキーワードだ。

青木氏は無理やりスケープゴートを貶めていますが、危機管理のヘッドクォーターとなる公的権力の中枢はあくまで官邸であり、公邸は官邸に迅速に移動できるよう設置された私的利用のための国家公務員宿舎です。

実際に公務員は、公邸を究極の公的空間とは思っていません。例えば、危機管理を担当していた私の知人は、官邸まで自転車で5分の距離にある国家公務員宿舎に居住していました。彼らの行先は官邸であり、公邸ではありません。

また、法で定められた国家公務員宿舎の宿舎機能を利用することにも、今後国会で議論されることになる少子化対策の具体的な素案を示すことにも、権力など一つも関与していません。

自己の都合でジャニーズ性加害事件の存在を誤魔化したり、限界左翼の政敵に対する非難を派手に打ち上げたりして公共の電波を私物化するテレビと一緒にするのはやめましょう。

LGBT差別禁止法という反リベラリズム

【リベラリズム】とは、他者に危害を与えてはならないとする【危害原理】に従って、多様な人々が希求する目的である【善】【平等】に認めて【正義】を得る理念です。一方、【反リベラリズム】とは特定の人々が希求する善を正義よりも優先する理念です。

『サンモニ』は日本の自称リベラルと同様に「リベラル」とは対極にある反リベラリズムの番組であると言えます。その典型がこの発言です。

浜田敬子氏:今国会ではLGBTに関する理解増進法が議論されているが、元々は「差別禁止」だった。それが「理解増進」に後退し、さらにその中身が自民党などによって後退している。

「理解増進」というのは傲慢だ。多数派である人たちが少数派の性的少数者の人たちを「理解してあげよう」みたいな驕りを感じる。かつて岸田首相が「同性婚を認めることは社会が変わってしまう」と発言していた。

既に当事者の方が社会にいて差別されている現状を放置してはいけないと言うのが政治の役割で立法が必要と考えているにもかかわらず、性的少数者の方に限らず、外国人の方とか、女性に対してもそうだが、この国はいかに少数派に冷たい国なのか。理解増進ではなく差別禁止法を作って進めてもらいたい。

主権者がLGBTに関する理解のないまま、そしてLGBT差別の定義すら認識していないまま、浜田氏のような特定の個人の善を「差別禁止法」という形で法制化して他の人々に強制するのは【リーガル・モラリズム】と呼ばれる反リベラリズムです。

『月刊Hanada』7月号(https://amzn.to/43nhn2m) で書きましたが、海外ではLGBT差別法によって、生理的・肉体的弱者であるシスジェンダー女性(生物学的性が女性で性自認も女性)の権利がトランスジェンダー女性(生物学的性が男性で性自認が女性)に侵害されるケースが多発しています。このため、LGBTに対する社会の憎しみが逆に増長され、殺人を含むヘイトクライムが増加を続けているのです。これはトランスジェンダー女性の権利のみを優先したリーガル・モラリズムの大失敗例と言えます。

浜田氏の発言を見れば一目瞭然ですが、浜田氏は少数派を善、多数派を悪と明確に認定した上で法制化を強制しています。この傲慢な態度こそが、善の多様性を認めず、正義よりも特定の善を優先して法で屈服させるリーガル・モラリズムに他なりません。

ちなみに、LGBTの権利のみを主張して差別禁止法を強制する立憲民主党は反リベラリズム政党であり、LGBTの権利とともにシスジェンダー女性の権利も重視した理解増進を進める国民民主党と日本維新の会はリベラリズム政党であると言えます。

藤原かずえ | Hanadaプラス

© 株式会社飛鳥新社