
日が長くなった夕方から夜にかけて、心を和ませてくれるのは「フィー、フィフィフィ」と聞こえるカジカガエルの鳴き声。梅雨に入ったこの時期は、産卵期の真っただ中だ。生息している渓流や河川の上流域で耳を澄ませ、夏の訪れを知る。
警戒心が強く、なかなか人前で姿を見せてくれないが、その神秘性と、鳴き声を聞いて人が優しい気持ちになれるのか、生息域として知られる鳥取県中部・三徳川沿いの三朝温泉では「恋のキューピッド」として重宝されている。
島根県でその存在がクローズアップされたのは、島根半島にかつてあり、今は廃校となった旧平田市の鰐淵小学校猪目分校の研究活動。1987年から近くを流れる猪目川にいるカジカガエルの成育調査や、子ガエルの放流などを長年続け、大学とも連携した研究の精度は、全国の教育界で高い評価を受けた。
子どもたちの感性を育んだその猪目川は、おととし7月のゲリラ豪雨で氾濫した。濁流が山あいを縫う狭い道路に容赦なく乗り上げ、普段とは全く違う表情を見せた。突然の増水を、身を隠すのが得意なカエルたちはどうやり過ごしたのだろう。
昨今の気候変動は、日本列島に住む私たちにとって当たり前だった、人と自然の程よい距離感を失わせつつある。カジカガエルが鳴くこの季節、子どもたちに呼びかけるのが「雨が降ったら、川に近づくな」ばかりではやるせない。