宮田莉朋抜擢の理由と、気になる”今後”を中嶋一貴TGR-E副会長に訊く。来季は「海外での実戦的な経験を」

 5月30日にトヨタGAZOOレーシングから発表された、宮田莉朋のTGR WECチャレンジドライバー選出。かねてから海外志向を顕わにし、国内で速さと実績を磨いていた宮田にとっては、夢へ向けた“最初のステップ”が訪れることになる。

 なぜ宮田が選出されたのか。そして、今後彼にはどんなステップが用意されているのか。ル・マンに姿を見せたTGR-E(トヨタGAZOOレーシング・ヨーロッパ)の中嶋一貴副会長に訊いた。

■「乗せてみたい」と思わせれば、チャンスは早く来る

「まずはやっぱり、彼個人のモチベーションですね。海外でレースをするというか、世界のトップレベルで戦いたい、という気持ちを持っていますし、それに対してちゃんと準備をしていますよね」

 一貴副会長は、宮田をチャレンジドライバーに選出の理由をそう説明した。昨年12月にはドイツ・ケルンのTGR-Eに宮田を呼び寄せ、シミュレーターテストも経験させたという。

「そこでのコミュニケーションなどを見ていても、少なくとも『やるべき準備をしている』と感じました。それが一番大きいです。それに加え、スピードという部分を日本でも見せていますしよね。最近ではやっと結果もついてきていますし」

 2023シーズンは、スーパーGT、スーパーフォーミュラともに優勝を飾るなど結果がついてきているが、一貴副会長によればそれらの結果が出るよりも前に、今回の起用は決定していたという。

「(最近の好調は)本人の気持ちとモチベーションがいい方向に向かわせている、と捉えられるかなと思います。単純に『ここ最近、結果が出てきたから彼を選んだ』というわけではありません。本人のモチベーションが一番です」

 他に候補となるドライバーはいたのか、という問いに対しては「そこはノーコメントでお願いします(笑)。日本のドライバーみんなに聞いてみてください」と一貴副会長。

 すでに発表されたリリースでは、今回のル・マン、次戦モンツァでのチーム帯同のほか、TGR-Eでのさらなるシミュレーターテストなどが予定されているが、気になるのは宮田が実際にGR010ハイブリッドをドライブするタイミング。テスト規制などもあってシーズン中の実現は難しそうで、「あまり勝手なことは言えませんが、現実的な機会としては、バーレーンの(最終戦後の)ルーキーテストはひとつの可能性としてあるでしょうし、来年の冬場のテストなどでも、チャンスはあると思います」と一貴副会長は言う。

「あとは今年やれることをやっていくなかで、チームの人間にも彼のことを見てもらって、彼自身の力で『乗せてみたいな』と思わせることができれば、そのチャンスは早く来るでしょうし、こればっかりは本人の努力にもよるところなのかな、と思います」

スーパーGTにau TOM’S GR Supraから参戦している宮田莉朋

 過去に同様の立場にあった平川亮や山下健太はELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズで欧州の耐久レースおよびプロトタイプカーの経験を積んだが、宮田に関しても同様の道筋が想定されているようで、「ちゃんと順序立てて経験をしてもらえるように、ということは考えています」という。

「今年は国内レースをやりながらですが、来年以降は海外での実戦的な経験を積んでもらるように……それが何になるかはまだこれから(の検討事項)ですけど、そういったことは(こちらで)考えたうえで、しっかりと成長していってもらいたいと思います」

 一貴副会長によれば、GT3車両でのレース参戦も選択肢のひとつとして考えられているという。折しも来季は、WECおよびELMSにGT3車両のクラスが新設されるタイミングだ。

「いろいろある選択肢のなかで、ハイパーカーで活躍するためにベストと思われるものをできるだけ選んでいきたいと思います」

 まもなくレースウイークの走行が始まるル・マン24時間で、いよいよチームに帯同する宮田。果たして宮田はどのようにル・マンを、そしてチームはどのように宮田を見るのだろうか。新たなチャレンジが、いよいよ始まる。

© 株式会社三栄