<農家の特報班>モグラ捕獲〝雅ねえ〟直伝のスゴ技 板1枚で生活道あぶり出し

鳥獣害対策講習会で説明する雅ねえ(島根県美郷町で)

「モグラの被害で困っています」

日本農業新聞「農家の特報班」に兵庫県の野菜農家の女性(70)から、こんな声が寄せられた。畑には、モグラが掘った土が盛り上がる「モグラ塚」がいくつもでき、いろいろな市販の器具を使ったが、だんだん捕まらなくなったという。

島根県美郷町に移住した獣害研究家

獣害対策の記事が多い本紙だが、モグラを扱った記事はほとんど見つからなかった。調べてみると、捕獲器の他にも、臭いや音波振動、爆音で追い払うなど、数多くの対策器具がある。何が有効なのか――。モグラ対策の著書がある獣害研究家・井上雅央さん(74)に聞くため、記者は島根県美郷町を訪ねた。

「モグラのことは私に任せて」。井上さんは戸籍上は男性だが、心は女性だ。農研機構近畿中国四国農業研究センターで鳥獣害研究チーム長を務め、退職後に同町に移住した。移住後は、ありのままの自分を出し、町民に獣害対策を教えている。

いつしか“雅ねえ”と呼ばれるようになり、獣害対策の講師として全国各地からも引っ張りだこに。ニット帽に服、靴までピンク色でそろえて記者を出迎えてくれると、雅ねえはこう言った。「板1枚で、誰でもモグラ捕り名人になれる」

えっ、本当に?

捕獲器、仕掛け場所が胆

雅ねえがそう言うのは、板を使えば、モグラの「生活道」を見分けられるからだ。さまざまな対策を試した雅ねえは、「有効なのは捕獲器。他は効かんと思っとった方がええ」ときっぱり。そして、捕獲器は生活道に仕掛けることが重要だという。

モグラは地表から30センチほどの深さに巣を作る。巣から、餌のミミズや昆虫の幼虫などがいる浅い場所に向かって掘るのが「生活道」だ。モグラはこの生活道から枝分かれする形で、餌を探すためのトンネルを掘る。

生活道以外のトンネルを通るのは一度きりのため、捕獲器を仕掛けても捕まえるのは難しい。一方、生活道は毎日通るため、何度埋めてもモグラが再び掘って“復活”する。この違いを利用し、板で生活道を見分ける。

何度埋めても〝復活〟 手順は①土が盛り上がったモグラ塚や足でぼこぼこと感じる部分をくわでならす②板を土に密着させるように置く③翌日、板を上げ、トンネルがあれば埋める④再度、板を置く――という流れ。モグラは板を土の表面だと思って掘るため、板を上げるとトンネルが現れる。①~④を3日間繰り返し、連続で復活したトンネルこそ生活道だ。 ここに、筒形の捕獲器を設置する。中に入ると内側からは開かない仕組みだ。モグラは大食漢で、1日で自分の体重の半分もの量の餌を食べる。そのため、捕獲後は1日も放置すれば餓死する。

板は、コンクリートの型枠用の合板・コンクリートパネル(60センチ×90センチ程度)を使う。ホームセンターなどで買える。平らであれば、育苗箱やトタン板でも代用できる。

「うまく付き合おう」

雅ねえは、モグラは駆除するだけでなく、「うまく付き合おう」とも話す。「モグラがいるのは良質な土の証拠。害虫を食べてくれる良い面もある」からだ。

モグラは作物やその根を食べると思われがちだが実は肉食だ。雅ねえによると、本当の被害は「トンネルによる乾燥」がもたらす。餌のミミズなどを求めて根の近くをモグラが掘ることで空洞が生まれ、根が乾燥して枯れてしまうという。

モグラ対策には強い根づくりが重要だ。雅ねえは、植える前の苗と土の温度差をなくすと、強い根を張ると話す。苗は1週間ほど外気にさらし、畝立ては定植の10日前に終えて、ポリマルチで土を温めると良いという。

畦畔(けいはん)は草刈りを徹底し、刈った草はすぐに処理する。放置するとミミズや虫が集まりやすく、モグラを引き寄せてしまうからだ。

高内杏奈

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