松木玖生の右手と若手Jリーガーのプレー強度/六川亨の日本サッカーの歩み

[写真:©︎J.LEAGUE]

Jリーグは6月5日、FC東京のMF松木玖生を1試合の出場停止処分にすると発表した。正直、厳しい処分だと感じた。

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問題となったシーンは6月3日のJ1リーグ第16節、FC東京対横浜FM戦の後半24分に起きた。マルコス・ジュニオールのドリブルに対し、松木は横からスッと身体を入れてマイボールにするとドリブルで突進しようとした。これに対しボールを奪われたマルコス・ジュニオールは背後から松木にアタック。こうしたシーンでは、ボールを奪われた選手は焦りや腹立ちから、アタックが激しくなるのはよくあることだ。

そんなマルコス・ジュニオールに対し、松木は右手でアタックを抑えようとしたものの、その手がバランスを崩して倒れかけていたマルコス・ジュニオールの顔面に当たってしまった。主審はプレー続行を指示したが、VARとオンフィールドレビューの結果、松木には一発レッドの判定が下った。

この判定自体も、厳しいものだと思った。マルコス・ジュニオールがバランスを崩していなければ、松木の右手は顔面ではなく腹部を抑えていただろう。もしも松木が肘を上げて右手を後ろに振ったなら退場は当然だ。しかし右手は相手の突進を抑えようとしたテクニックに1つである。マルコス・ジュニオールのアタックに松木も苛つき、右手に力がこもったかもしれないが、それでもイエローカードが妥当なところではないだろうか。

松木も出場したアルゼンチンでのU-20W杯で、日本は2001年以来となるグループリーグ敗退という屈辱を味わった。現地で取材した記者のレポートによると、選手は「プレー強度」の不足を痛感したそうだ。松木の右手には力がこもっていたと思うが、国際舞台でアフリカ勢やヨーロッパ勢と対等に戦うには、Jリーグの「プレー強度」を若年層から高めていく必要があるのではないだろうか。

そうした観点からすると、レフェリーの果たす役割も重要と言わざるを得ない。VARと3Dの採用で、オフサイドかオンサイドかはかなり正確に判定できるようになった。ハンドかどうかも主審はオンフィールドレビューで再確認できる(だからといってミスジャッジが減ったわけではないが)。そこで逆に難しいのが、今回の松木のプレーのように故意ではないものの、両選手の精神的なストレスからくる感情的(?)なプレーも含めて、その強度をどう判断してジャッジするかということだ。これはリーグのレベルアップや選手の育成にもつながるだけに、審判委員会(JFA)とJリーグで意見をすり合わせて欲しい。

去る5月14日、国立競技場での鹿島対名古屋戦で、前半29分に先制点を決めたFW鈴木優磨が主審を睨みつけるシーンがあった。鈴木は前半12分にも同じような形の右CKからゴールを決めたが、その前に反則があったとして取り消されていた。鈴木にしてみれば、「このゴールに文句あるか」といった心情だったかもしれない。しかし試合中にレフェリーを睨みつける行為は、海外ではほとんど目にしたことがない。これは日本の反社会的勢力が見せる「恫喝」、「脅迫」と同じレベルの行為であり、扇谷審判委員長も「これは非常に大きな問題だと思っています」とレフェリーブリーフィングで問題提起した。

そんな鈴木に対し、イエローカードかレッドカードを出していれば、彼の行為は許されないものだと周知させることができただろう。しかし主審はどちらも出さなかった。「弱腰」と取られても仕方がないし、「レフェリーがピッチの上でしっかり対応しなければいけなかった」(扇谷審判委員長)問題であり、対応していればそれですんだ問題でもあっただろう。

今シーズンのJリーグは開幕からミスジャッジが目に付いた。「ああしていれば」というところでできずに問題となっている。これはあくまで個人的な感想だが、ここ数年、経験豊富なレフェリーの引退により、レフェリーの質が落ちているような印象がある。もしかしたら過渡期を迎えているだけかもしれないが。


【文・六川亨】

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