親の声より聴いた「吹替版シュワルツェネッガー」名台詞の数々を玄田哲章『プレデター』&堀勝之祐『ツインズ』で

『プレデター©1987 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.『ツインズ』DVD: 1,572 円 (税込) 発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント © 1988 Universal Studios. All Rights Reserved.※2023年5月の情報です。

吹替によって宿る絶対的リーダー感

アーノルド・シュワルツェネッガーは日本語を喋る際、玄田哲章の声になる。これは空や海が青かったり、または水道の蛇口をひねれば水が出てきたりするのと同じぐらい当たり前のことだ。

映画史、いや人類史に残る傑作『コマンドー』(1985年)におけるシュワルツェネッガーの名言の数々……

「駄目だ!」
「銃なんか捨ててかかってこい」
「死体だけです」

親の声より聴いたこれらの台詞をいま思い出すとき、すべては玄田による日本語音声で脳裏に蘇ってくる。それほどに違和感のない鉄壁のキャスティングである。

また不思議なことに、玄田哲章の吹替によってシュワルツェネッガー演じる数々の役柄に深みと頼り甲斐と、さらにそこから来る安心感が加味される。玄田といってもうひとつ強烈に思い出される『トランスフォーマー』シリーズのコンボイ司令官役のように、その声と演技力から生まれる絶対的なリーダー感が、シュワルツェネッガーにも宿るということだ。

目を閉じれば蘇る、玄田哲章の頼れる声『プレデター』

そうした玄田シュワルツェネッガーの揺るぎなさを堪能できるのが、『コマンドー』と並ぶ肉弾スターの代表作『プレデター』(1987年)だ。宇宙から飛来したハンター異星人の前に、次々に命を落としていく最強コマンドー部隊。そのリーダーたるダッチ・シェイファー少佐(シュワルツェネッガー)を玄田が演じる。

菅生隆之、青野武と麦人、大塚芳忠に大友龍三郎と部隊のメンバーの吹替キャストがまた異常に豪華だ。玄田の声には、それら精鋭を率いていっさい違和感のないカリスマがある。何となれば原語版よりも説得力があるといって過言ではない。

『プレデター』をいままで何度観たか分からないが、おそらくその半分以上は日本語版で鑑賞しているはずだ。目を閉じれば、玄田の異常に頼れる声が脳裏に蘇る。

「邪魔するよ」
「マック!」
「血が出るなら……殺せるはずだ」

『コマンドー』のそれらに負けずとも劣らない、名調子の数々をぜひ堪能してほしい。

といいつつ、日本におけるシュワルツェネッガー担当が玄田哲章に一本化されたのは1999年の『エンド・オブ・デイズ』からのことだった。それ以前は各主演作がテレビ放映されるたび、放送局ごとに異なるキャストがその吹替を担当していた。

もちろん玄田はその筆頭だったが(主にテレビ朝日系「日曜洋画劇場」にほぼレギュラー登板)、屋良有作や大友龍三郎、大塚芳忠に銀河万丈などなど、錚々たるメンバーがシュワルツェネッガー役で鎬を削っていたのである。各局がゴールデンタイムに洋画劇場を持っていた頃の話だ。

おそらく各番組それぞれに異なる特色を出す意図があり、そのために予算を投じて新規吹替を都度制作していたのではないかと推測する。地上波テレビでほぼ毎日洋画が、しかもバラエティに富んだ吹替でもって放映されていた。考えてみれば実に豊かな時代だった。

『ツインズ』の怜悧な堀勝之祐×シュワルツェネッガー

シュワルツェネッガーの吹替に話を戻そう。たとえば1984年の『ターミネーター』第一作に関して言えば、最初に殺人マシーン役を務めた大友龍三郎は玄田ターミネーターとはまた異なる、非常に硬質かつ無機質な恐ろしさを醸し出していた。『ゴリラ』(1986年)などでたびたび登板している屋良版シュワルツェネッガーにも、玄田版とはまた異なるラフで大人っぽい魅力がある。

『ツインズ』(1988年)では堀勝之祐がシュワルツェネッガー役を演じていた。堀といえば野沢那智と並び、アラン・ドロンの吹替で知られた実力派だ。その声には色気がありつつ、また同時に近寄りがたい冷たさもあった。

そんな堀の演じた役柄で個人的に最も強く記憶に残っているのは、テレビアニメ『あしたのジョー2』(1980年~)に出てきたジャーナリストの須賀清。このアニメオリジナルのキャラクターは常にトレンチコートを着て煙草を吹かし、世の中を斜めから見ていた。しかし同時に主人公たる矢吹丈に必要以上に感情移入して、しばしば冷静さを失うという、複雑なキャラクターに堀勝之祐の声が説得力を与えてもいた。

自身初のコメディ作品であった『ツインズ』でシュワルツェネッガーが演じた、無垢なインテリという役柄。常人とは思えない身体とのギャップが笑いを生むが、堀の怜悧な声がまたキャラクターに新たな魅力を与えている。

シュワルツェネッガー/玄田哲章というコンビネーションは、くどいようだがもはや世界の常識だ。が、それ以外にもかつてさまざまな可能性があった……ということに、ぜひ思いを馳せていただきたい。そんなことを考えながら、またシュワルツェネッガー吹替の深すぎる世界の探求に戻らせていただく。

文:てらさわホーク

『プレデター』『ツインズ』日本語吹替版はCS映画専門チャンネル ムービープラス「今月の日本語吹替映画」で2023年6月放送

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