社説:入管難民法案 疑義を残し採決強行するな

 立法の根拠を揺るがす疑義に頰かむりし、押し通すことがあってはならない。

 在留資格のない外国人の収容・送還ルールを見直す入管難民法改正案を巡る与野党の攻防が、国会の焦点となっている。

 審議は不十分とする野党に対し、与党側はきょう、参院委員会で採決し、あすにも本会議で可決、成立させる構えだ。

 しかし、根本の難民審査を巡って浮上した恣意(しい)的な運用の疑いは拭えず、人権保護に大きな禍根を残すものだ。

 法案は、難民申請中は本国への強制送還を停止する規定を、原則2回までに制限する内容を柱としている。法務省は、送還を免れるために難民申請が乱用されているためと説明する。

 その根拠とするのが、認定に関わる「難民審査参与員」であるNPO法人「難民を助ける会」名誉会長の柳瀬房子氏の「申請者の中に難民がほとんどいない」という発言だ。一昨年に国会に参考人出席して述べ、出入国在留管理庁が法案を解説した資料にも引用されている。

 参与員は、入管の審査で不認定とされた人の不服申し立てを再審査する。有識者111人が選任されているが、担当数や認定すべきと意見を出した数に極端な偏りのあることが判明し、波紋が広がっている。

 柳瀬氏は昨年、再審査全体の4分の1を超える1231件に携わり、突出して多い。国会では、過去に担当した約2千件のうち認定すべきとしたのは6件と話している。

 これに対して他の参与員6人が記者会見し、担当件数は年平均50件未満だったと説明。4年間で49件を担当した弁護士は、9件で認定すべき人がいたと反論する一方、次第に「配分を減らされた」とも証言した。

 年間千件以上も、申請者それぞれの境遇や本国の人権状況を十分に審査できるとは考えにくい。入管の判断に異を唱えない参与員に集中して割り当てられ、不認定を追認する仕組みとしていた疑いが強い。

 日本の難民認定率は欧米より極めて低く、国内外で問題視されてきた。その手続きの公正さに重大な疑念が生じている。

 参与員の再審査が形骸化している状況であるなら、3回目以降の申請で迫害の恐れのある本国に送り帰し、本来保護すべき人を命の危険にさらしかねないとの危惧は増す一方だ。

 長期の施設収容者の死亡が相次ぐ入管行政のゆがみを正すには、当局の裁量を広げる法改正は立ち止まり、徹底した原因究明に基づいて客観性と透明性ある仕組みを再構築すべきである。

 原発60年超運転やマイナンバーカードへの保険証一体化など重要法案が、多くの欠陥、懸念を不問や先送りにし、議論を深めぬまま次々に成立している。国会が政府に追従するばかりなら、民主国家の名に恥じよう。

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