長かったリーガもようやく終わった…/原ゆみこのマドリッド

[写真:Getty Images]

「きっと明日から完全に補強FW候補の話ばかりなるわね」そんな風に私が溜息をついていたのは月曜日、リーガ1部最終節のあった怒涛の日曜の余韻に浸る間もなく、アセンシオがもうPSGと契約するためにパリにいる、ベンゼマはアル・イティハドとの2年契約にサインしたというニュースをネットで見つけた時のことでした。いやあ、今季最後となるサンティアゴ・ベルナベウでの試合を目前にして、レアル・マドリーの選手退団comunicado official/コムニカードー・オフィシアル(公式発表)ラッシュが始まったのは、バルデベバス(バラハス空港の近く)での土曜に最後のセッションが済んだ直後からで、第1弾は契約更新をしないことにしたアセンシオが自身のSNSでお別れビデオを流すのと同時だったんですけどね。

それに続いた契約満了となるマリアーノはともかく、残りの1年をまっとうする意志を示していたアザールが契約解消でクラブと同意したというのも驚かされたんですが、爆弾はアスレティック戦当日にやって来ることに。そう、先週は木曜にマルカのレジェンド授賞式で残留を匂わせる発言。更に土曜の記者会見でアンチェロッティ監督も「Benzema tiene un año más de contrato. Nosotros no tenemos dudas/ベンゼマ・ティエネ・ウン・アーニョ・マス・デ・コントラトー。ノソトロス・ノー・テネモス・ドゥーダス(ベンゼマにはまだ1年契約が残っているから、疑いは持っていない)」と言っていたフランス人エースが土曜の夜、いきなり気を変えたんですよ。

それこそ当日、合宿に来てから、「Hablé con él esta mañana y me dijo que se despedía. Que era una decisión tomada/アブレ・コン・エル・エスタ・マナーニャ・イ・メ・ディホ・ケ・セ・デスペディア。ケ・エラ・ウナ・デシシオン・トマーダ(今朝、彼と話して、退団すると告げられた。もう決めたことだと)」(アンチェロッティ監督)という急展開だったようで、それに応じて、クラブも試合前にベンゼマの退団公告を掲載。いえ、まだチームには契約延長するかどうか不明のセバージョス、ナチョ(月曜に延長)、出場時間がほとんどなかったバジェホ、オドリオソラといった、今季限りでマドリーを離れる可能性のある選手たちはいるんですけどね。それでもいきなりトップチームのFW4人にお別れすることになったファンの気持ちや如何ばかりかと。

だってえ、いくらアンチェロッティ監督は「En estos momentos, que tengamos sólo dos atacantes, me preocupa cero/エン・エストス・、オメントス、ケ・テンガモス・ソロ・ドス・アタカンテス、メ・プレオクパ・セロ(現時点でアタッカーは2人しかいないが、私はまったく心配していない)。時間があるからね」と言っていたとはいえ、残っているのはビニシウスとロドリゴだけなんですよお。2部に降格したエスパニョールからホセルが古巣に戻って来るのはアテにできるとしても、こうなったら、来年夏にハーランド(マンチェスター・シティ)やエムバペ(PSG)が来る前にハリー・ケーン(トッテナム)だけでなく、ハバーツ(チェルシー)クラスのFWも絶対獲っておかないと来季が乗り切れないのでは?

おかげでこのオフシーズンは久々にマドリーの補強関連情報を真剣に分析しないといけないような気がするんですが、それはともかく、リーガ最終節でマドリッド勢の順位にどう決着がついたか、お話ししていくことにすると。マドリー以外がアウェイゲームだったこともあり、日曜はもちろん、サンティアゴ・ベルナベウにアスレティック戦を見に行くことになった私ですが、2位争いをしているお隣さんと、ラージョを含む複数のチームが争うコンフェレンスリーグ出場権7位を懸けた試合は午後6時30分と早い時間に揃ってキックオフ。よってまた、オンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)の多元中継の力を借りて、ビジャレルvsアトレティコ戦、マジョルカvsラージョ戦も追っていたところ、最初に動きがあったのはこの日を限りに12月末の新装オープンを目指して再び、集中工事期間に入るベルナベウでした。

ええ、オサスナより多い勝ち点を取らないと7位になれないため、勝利を目指して、イニャキとニコのウィリアムス兄弟に加え、グルセタ、サンセットと4人もFWを入れてきたアスレティックでしたが、前半8分にウィリアムス兄のヘッドが背中を向けてジャンプしたクロースの腕に当たったのをハンドと主審が判定し、PKをゲット。先制点の絶好のチャンスをもらったんですが、マドリーにもいたんですねえ。一人だけまだバケーション気分になっていない選手が。それはGKクルトワでベスガのPKを渾身の横っ飛びで弾いてしまったから、ビックリしたの何のって。

それと時を同じくして、ラ・セラミカから悲報が届いたんです!週中はよく先発組予想されながら、なかなかスタメンになれず、この日、とうとうデ・パウルの出場停止でお鉢が回ってきたカンテラーノ(アトレティコB出身の選手)の19才バリオスがチュクワゼのクロスを正確無比なヘッドでジャクソンの足元に届け、何せ、相手はここ7試合8得点と乗りに乗っているFWですからね。エリア内からのシュートを失敗するはずもなく、ビジャレアルの先制点を挙げられてしまうとは情けない。もしや最後のアウェイゲーム3試合がエルチェ、エスパニョールに続いて、こちらも地中海沿岸への遠征というのが、アトレティコの選手たちの夏休み気分を冗長させてしまった?

その後は在籍14年間で25のタイトル獲得に貢献したベンゼマに花をもたそうとしたマドリーの努力も実らず、アスレティックが恐ろしくシュート精度の低いチームだったこともあり、ベルナベウは0-0のまま、ハーフタイムに入ったんですが、大丈夫。18分にはグリーズマンのFKから、コレアが同点ゴールを決めたという知らせがあったのもありますが、後半4分にはセバージョスのボールロストから、とうとうサンセットが2度撃ちで、アスレティックにリードをもたらしたんですよ。ただ彼らの儚い希望が続いた時間は短く、何せ、やはり前半を両チーム無得点で終えたエル・サダルでは、オサスナのブドミルが後半7分、10分に2ゴールを挙げ、7位争いの直接ライバル、ジローナを圧倒していましたからね。

すると11分、再びオンダ・マドリッドの実況アナの絶叫が割って入り、アトレティコが勝ち越し点をゲットしたというから、今度は私もつい手を叩いて喜んでしまうことに。ええ、エルモーソのロングパスを負ったグリーズマンがまたしてもコレアに繋ぐと、今度はGKヨルゲンセンをかわして、2点目を決めたとなれば、下剋上2位頂きと思ったアトレティコファンは決して私だけではなかったかと。ただねえ、実はその直前には物議を醸すプレーがあって、グリーズマンがゴール右脇からシュートしたボールがマンディの左腕を直撃。それが主審もVAR(ビデオ審判)も当人が地面に腕をつく直前だったとして、ペナルティを認めてくれないとは一体、どういうこと?

これには後々の結果が結果だったたけに、シメオネ監督も「Es muy difícil de explicar algo que se ve muy claro en la television/エス・ムイ・ディフィシル・デ・エクスプリカル・アルゴ・ケ・セ・ベ・ムイ・クラーロ・エン・ラ・テレビシオン(TVでくっきり見えることだけに説明するのはとても難しい)」と文句を言っていたんですけどね。今季33節まで1つもPKをもらえなかったアトレティコにはありがちなパターンですし、大体がして、PKだって、彼らの場合は必ず入る保証はないのだからと、その時は私もあまり真剣に考える時間がなかったんですが…。

というのも後半12分にはマドリーの選手交代が始まり、お別れ組のアセンシオがピッチに登場。そして27分にはユーリ・ベルチチェがエリア内でミリトンの顔を手で払ったとして、今度はマドリーにPKが与えられたからで、もちろんキッカーはベンゼマです。このPKをマドリー最後となる354本目のゴールにして、即座に彼はモドリッチと交代。場内から大きな拍手を浴びていたんですが、まあ、それを見てもこの日のアンチェロッティ監督は試合に勝つことより、長年、クラブに尽くしてくれた選手に花道をお膳立てしてあげる方を優先していたんだと思いますが、ええ、実際、途中出場のアセンシオまで、ロスタイムにはルーカス・バスケスに代わっていましたからね。

そして1-1の引分けで試合が終わり、オサスナもジローナに2-1で勝利したため、「各々があるべき順位にいる。オサスナには7位になるだけのメリットがあって、nosotros para ser octavos/ノソトロス・パラ・セル・オクタボス(ウチは8位となるね)」(バルベルデ監督)という、アスレティックに遺恨を残すこともなかったんですが、え?ラージョはどうしたんだって?いやあ、前節、エスタディオ・バジェカスでのビジャレアル戦に2-1で勝利して、ファンとシーズン仕舞いのお祝いを盛大にしてしまったのが選手たちの緊張感を奪いましたかね。前半は0-0だったものの、後半になると、5分にはムリキ、25分にはコペテ、48分にはアンヘルにもゴールを決められて、3-0で完敗して、最後は11位で終わっているんですから、やっぱりこの辺は1部残留確定で目標達成してしまったチームの限界が出てしまったかと。

まあ、それは同じく7位到達の可能性がありながら、すでにEL優勝で来季のCL出場権をゲットしたセビージャがレアル・ソシエダに2-1で敗戦。レアル・アレナでの10年ぶりCL復帰祝いに花を添えていたところにも現れていますが、眼下のピッチはマドリーの選手たちがベンゼマ、アセンシオ、アザール、マリアーノを次々に胴上げして、お別れしている光景にまったく私は感動できなかったんですよ。というのも後半26分にロ・チェルソに強烈タックルを見舞ったビッツェルが一発レッドで退場しながら。何とか1点差を守っていたアトレティコが、最後の最後に失点しまったから!

うーん、オブラクが首椎間板ヘルニアで今季絶望となって以来、頑張ってゴールを守っていたゲルビッチがケガして、40分にはカンテラーノのゴミスに代わらないといけなかったのも不運だったんですけどね。ロスタイム2分、彼がジャクソンを止めたのはいいんですが、エルモーソもサウールもそちらにかかりきりだったため、はぐれたボールをジェラール・モレノやモラレスの負傷でセティエン監督に重宝されているビジャレアルCのFW、20才のパスクアルに決められてしまったから、さあ大変!要は2-2と引分けたアトレティコとマドリーの差は勝ち点1のままで、2位3位の順番も変わらないとなれば、いえ、試合前には「リーガでは目標の4位以内を達成できた。Si se queda segundo será muy buena, terceros buena/シー・セ・ケダ・セグンド・セラ・ムイ・ブエナ、テルセーロ・ブエナ(もし2位ならとてもいい、3位ないいシーズンだった)」と言っていたシメオネ監督なんですけどね。

「Nos da la tranquilidad de que no teníamos nada tremendamente importante en juego/ノス・ダ・ラ・トランキリダッド・デ・ケ・ノー・テニアモス・ナーダ・トレメンダメンテ・インポルタンテ・エン・フエゴ(とてつもなく重要なことが試合に懸かっていなかったのは落ち着きを与えてくれる)。優勝を逃すとか、そのせいで降格するとかのね」と試合後、ハンドの判定に皮肉の一つも言いたくなる気分もわかるかと。加えて、ビジャレアルの2点目のプレーの起点ではモラタがパウ・トーレスからヒザ蹴りを受けながら、お約束通り、ファールすら取られなかったということもありましたからね。それでもヨーロッパの大会から完全撤退した昨年のW杯前を思い返せば、まあ、シーズン後半のアトレティコは奮闘したと言えるんじゃないんでしょうか。

そして午後9時からは残留争い組の5試合が一斉スタートとなったんですが、いやあ、これがまた、直接ライバル、バジャドリーのホーム、ホセ・ソリージャに乗り込んだヘタフェではガチのボルダラス監督流サッカーが炸裂。ええ、あと勝ち点1で残留が決まる彼らは最初から最後まで、スコアレスドロー維持の専守防衛を貫き、いえ、並行してプレーしていたエスパニョールvsアルメリア戦のスコアがよく動いたため、バジャドリーの方は18位から17位に上がったり、また下がったりを繰り返していたんですけどね。

アルメリアが後半42分にエンバルバのPKゴールで3-3に追いついた時など、ここでバジャドリーに1点取られたら、18位となって、ドボンするのはヘタフェという危ない時間もあったものの、焦った相手がシュートを15本も撃ちながら、1本も枠内に飛ばせないというのも幸いしたんでしょう。ボルダラス監督も「Hemos neutralizado a un equipo que como local es complicado/エモス・ネウトラリサードー・ア・ウン・エキポ・ケ・コモ・ロカル・エス・コンプリカードー(ウチはホームチームとしては厄介な相手を無効化した)」と言っていた通り、やっとこ0-0で終わらせて、地元から応援に駆け付けた600人のファンと共に15位で来季も1部でプレーできるのを祝っていたから、どんなにホッとしたことか。

実際、バジャドリーに負けていれば、アルメリアがエスパニョールに負けるか(最終結果3-3)、セルタがバルサと引分け以下(同2-1でセルタ勝利)でないとヘタフェは残留できず。この日はどちらの条件も当てはまらなかっただけに、キックオフ直後からの時間稼ぎやファールの多用といったサッカーは決して美しくはないものの、背に腹は代えられませんからね。一歩間違えれば、同じ場所で2021年にアトレティコがリーガ優勝を遂げるのと引き換えに、19位で降格した悪夢をリピートしたバジャドリーと立場が逆転していたのかと思うと、ちょっと寒気がしなくもありませんが、まあ、今季終盤は緊急事態での指揮官交代。契約延長予定のボルダラス監督が最初から舵を取れる来季にはもっと、強くなったチームを見せてくれるのを期待しています。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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