島で唯一の中学校が消えるとき、島民たちの思いは 76年の歴史に幕を下ろした愛知・日間賀中学校

日間賀中学校として最後の卒業式を終え、校門を出る卒業生ら=3月7日

 愛知県・知多半島沖に浮かぶ日間賀島(ひまかじま)。漁業と観光業が中心の小さな島で唯一の中学校が3月末で閉校し、76年の歴史に幕を下ろした。最後の卒業生は18人。在校生らは4月から統合先の中学校に通う。「消滅する母校」への卒業生、在校生、島の人たちの思いを聞いた。(共同通信=猪狩みづき)

 知多半島先端の師崎港から船で約10分。南知多町立日間賀中学校は島の南側、三河湾を見下ろす高台に建つ。
 3月7日に最後の卒業式が行われた。29人の在校生らの見送りを受け、卒業生18人が校門から出ていく。カメラのファインダーをのぞきながら手を振ると、晴れやかな笑顔が返ってきた。
 鈴木佑梨さん(15)は「(歴史の)重みを感じる。悲しいけど、ここで卒業できるのはうれしい」と話す。河合倫汰さん(15)は「自慢の学校。青春が詰まっている。友達と過ごしてる何気ない毎日が楽しかった」と、しみじみ。
 3月24日の閉校式には多くの島民らが集まり、76年の歴史が詰まった学びやとの別れを惜しんだ。
 式典では校旗を返納し、校歌を斉唱。その後、新1年生も加わり中学校としては最後の「島太鼓」の演奏が披露された。

閉校式の後で「島太鼓」を披露する新3年の鈴木千尋さんら子どもたち=3月24日

 新3年の鈴木千尋さん(14)は「島の人たちに感謝と思い出を伝えられた。自分たちも統合中で前向きに頑張りたい」と話す。20年以上続いた太鼓の授業は、今後も地域のクラブ活動として引き継がれる。
 南知多町は少子化による生徒数減少に伴い、日間賀中学校を含む4校を統合し、新たに「南知多中学校」を開校。部活動では4校合同のチーム編成で対外試合を組み、生徒同士の交流を図ってきた。
 宮地瑠珈さん(14)は「最初統合が決まったときは、まだ日間賀中にいたかった」と言うが、他校との交流会に参加し「いろんな人と話せて、一緒になるのも楽しみになってきた。同じ趣味の友達が見つかるといいな」と期待した。

新年度から統合される師崎、内海、豊浜、日間賀の4中学校の男子バレーボール部員たち。合同チームで対外試合に臨んだ=3月11日

 閉校式の日、かつての卒業生たちも姿を見せた。漁師の鈴木慶一さん(48)は1980年代後半に中学校生活を送った。当時も1学年1クラスだったが、30人前後いたという。小中学生と島の人たちが参加して開かれる「島民体育祭」には、運動場を埋め尽くすように人が集まったと懐かしむ。「子どもが減少しているので、(閉校は)しょうがない。卒業生としても、島に住む人間としても、通学路に生徒がワイワイすることがなくなるのはさみしい」と話す。そして「(生活)全体の流れが変わっていくんじゃないか。嫁さんがよそで働いてると、中学や高校に通う子どもたちも一緒にそっちへ住んで週末に(島へ)帰ってくるとか。いいことなのか仕方ないことなのか、分からないけど」。

駅伝大会で一斉にスタートする生徒たち。4区間でたすきをつなぎ、島内を1周した=2022年12月

 宮地さんの父達さん(45)は島で民宿を営む。今まで当たり前にあったものがなくなる寂しさを感じている。「中学生のうちに友達をつくって、日間賀島の場合は自分しか行かない高校もある中で(統合先で同級生の)人数が増えれば友達と同じ学校に行けるかもしれない。ポジティブに考えてほしい」と、環境の変化に直面する子どもたちを思いやった。
 新年度からは島の中学生は船とバスを乗り継いで南知多中学校に通っている。(年齢や肩書は2023年3月末当時のものです)

日間賀島のサンセットビーチから望む夕日=2022年11月

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