井之脇海が考えるリアルな芝居「どれだけ真実に近づけられるか」

数々の映画で存在感を残すほか、最近では連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK)での好演も記憶に新しい俳優・井之脇海。6月〜7月には、舞台『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』にも出演が決まっている。

M&Oplaysプロデュース『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』に出演する俳優・井之脇海(写真/阿部章仁)

7月の大阪開幕に先立ち、井之脇に本作への意気込みを訊くと、リアルな演技を追求する自身の「こだわり」、そして彼の強みとも言える作品に対しての「解像度の高さ」が垣間見えた。

■ 舞台出演で「変わった意識」とは?

代表作は『トウキョウソナタ』(2008年)や『告白』(2010年)、大河ドラマ『平清盛』(NHK/2021年)など、子役時代を経て数々の映像作品で活躍する井之脇。日常に溶け込むような繊細な演技力は多方面で称賛されており、2022年には舞台作品『エレファント・ソング』で初主演をつとめあげた。

現在27歳の井之脇。30歳という新たなフェーズを前に、映像作品と平行しながら舞台経験も積めていることは大きな糧になっており、「舞台出演は今回で3回目ですが、『初めての舞台』という気持ちで演じられたら。去年『エレファント・ソング』に主演させていただいたことにより変わった意識もありました」と井之脇。

「『井之脇くんに任せたら大丈夫だよね』という存在にならなきゃ。いろんな映画・舞台に呼ばれる俳優になりたいですね」と今後の展望を語る井之脇 (写真/阿部章仁)

その「意識の変化」は、舞台空間ならではのライブ感にあるといい「映像の芝居だとお客さんがリアルに見えないですが、舞台だったら『ここでこういう反応してくれるんだ』と手応えを感じ、芝居の奥深さを再認識しました」と新たな気付きを明かし、「根本は役として生きることが大事なんですけど」とも。

■ 「分からない」からおもしろい、岩松作品の魅力

今回井之脇が出演するのは劇作家・岩松了が作・演出をつとめる舞台。出演者からは「難読」と称されることもある岩松の作品に、どう挑んでいくのかは見ものだが、井之脇ははっきりと「分からない」と言う。「岩松さんの作品を初めて観たのは12歳のとき。『恋する妊婦』という作品だったのですが、まったく分からなかった(笑)」。

「今回も分からないことが多いと思うのですが、その『分からない』というのは・・・岩松さんの作品は明確な答えを提示しないからこそ、こちらに想像の余地がある。ただ2時間観るだけではない、観終わったあとに考える時間も含めて岩松さんの作品の強みだと思っています」と分析する。

公演数の多い舞台に挑むうえで、井之脇は「決して毎日同じことをしているわけではない、という感覚は忘れないようにしたい」と意気込む(写真/阿部章仁)

12歳で岩松作品に出合って以来、いくつかの作品を観てきたというが、その「余白」こそ自身が惚れ込んでいる部分でもあり、観客にも感じてもらいたい部分なんだとか。「舞台の上の空間があまりにも虚像すぎると見ているお客さんが現実に持って帰り辛くなると思うので、その場でどれだけ真実に近づけた芝居ができるか。どれだけ血の通った会話ができるか」と、役作りについての意識を明かす。

■ テーマは赦しの物語「僕なりの答えを」

今回の作品『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』では、両親を亡くし寄り添いながら生きてきている兄弟のアキオ(井之脇)とイズミ(黒島結菜)が、ある日街で2人の若い放浪者、そしてかつてアキオとイズミの父親の愛人であった葉子(松雪泰子)に出会う。そしてそんな葉子にアキオは惹かれていき・・・と、交錯した人間模様が描かれる。

ドラマや舞台が同時進行するなかで、「30分でも仮眠すると脳がリセットされるので、意図的に取り入れてみようかな」と自身の切り替え方法を明かす井之脇(写真/阿部章仁)

そんな同作を井之脇は「テーマは赦しの物語になると思う」と一言。「赦す・赦さない、赦される・赦されないというのは普遍的でありながらも意外に考えたことのないテーマな気がしていて。稽古を通して僕なりの答えを見つけていけたら。観てくださる方にとっては何か考えたり、成長するきかっけになるのではないかなと思っています」と語り、本作において「カタルシス」は大事なメッセージとなることを匂わせる。

M&Oplaysプロデュース『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』は、東京・富山を巡回したのち、7月1日・2日に「梅田芸術劇場シアタードラマシティ」(大阪市北区)で上演。チケットは8500円(現在発売中)。

写真/阿部章仁

M&Oplaysプロデュース『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』

会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(大阪府大阪市北区茶屋町19-1)
期間:7月1日・2日
料金:8500円

© 株式会社京阪神エルマガジン社