羽田空港、東武との直通特急も乗り入れへ? 国が〝期待〟するアクセス利便性の向上とは「鉄道なにコレ!?」【第45回】

By 大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

東武の「リバティ」500系=2017年10月26日、福島県南会津町で筆者撮影

 7月15日から浅草(東京)―東武日光・鬼怒川温泉(栃木県日光市)間を結ぶ新型特急「スペーシア X」N100系がデビューすることでも脚光を浴びている東武鉄道。実は、2031年度開業予定のJR東日本の新路線「羽田空港アクセス線」に乗り入れる可能性が国の諮問機関によって〝期待〟されている。自動車などの工場が集積する群馬県南部と羽田空港新駅が、東武とJR東日本の直通特急列車で結ばれるかもしれない。(共同通信=大塚圭一郎)

羽田空港に着陸する日本航空のボーイング777=2020年10月18日、東京都大田区で筆者撮影

 ▽JR東日本〝等〟の対象となる鉄道会社は…
 今年6月2日に起工式が執り行われた羽田空港アクセス線を高く評価し、実現へと背中を押したのが国土交通相の諮問機関、交通政策審議会が鉄道整備の方向性について2016年にまとめた答申「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」だ。羽田空港アクセス線を「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」と評した。
 答申では「意義」の一つとして「JR東日本等の既存ネットワークとの直通運転による多方面と羽田空港とのアクセス利便性の向上」を挙げた。「JR東日本等」とJR東日本以外の鉄道会社との直通運転に言及したところに含意がある。
 将来的には東京臨海高速鉄道りんかい線に乗り入れる臨海部ルートの建設を目指しているため、東京臨海高速鉄道がJR東日本以外に入るのは自明だ。
 ただ、手始めに2031年度から運行が始まる予定の「東山手ルート」(新橋、東京、上野経由)でも他の鉄道会社との直通運転が始まる可能性を秘めている。
 というのも、答申では「課題」の1項目として「久喜駅での東武伊勢崎線と東北本線の相互直通運転化等の工夫により、さらに広域からの空港アクセス利便性の向上に資する取組についても検討が行われることを期待」との一文が盛り込まれており、JR東北線と東武伊勢崎線が乗り入れる久喜駅(埼玉県久喜市)を経由した直通運転を検討するように促したからだ。

東武博物館に展示されている「デラックスロマンスカー」1720系=2012年3月30日、東京都墨田区で筆者撮影

 ▽なぜ東武なのか
 答申が東武との相互直通運転を例示した背景には、JR東日本と東武は線路幅が同じ狭軌(1067ミリ)で、直流1500ボルトの電化なのも一致している事情がある。両社が現在、相互直通運転している関係なのも「検討」の現実性を高める。
 しかし、かつてJR東日本の前身の日本国有鉄道(国鉄)と東武は、日光東照宮や中禅寺湖などの名所を抱えた栃木県日光市を訪れる観光客の輸送で激しく火花を散らしていた。旧国鉄は日光線(宇都宮―日光間)の電化後に伴い、ビジネス特急「こだま」(東京―大阪間)に使っていた151系に準じた高級感のある車内空間にした157系を1959年9月に投入。急行に比べて料金を抑えた準急「日光」(東京-日光間)などに運用した。
 金城湯池だった日光への観光客輸送を奪われる危機に直面した東武は、切り札として当時の私鉄特急では類を見ない豪華仕様の新型車両「デラックスロマンスカー(DRC)」1720系を特急「けごん」(浅草―東武日光間)などで1960年10月に営業運転を始めた。
 DRCは座席間隔が1・1メートルと広く取った背もたれの倒れるリクライニングシートを設け、ライバルの157系に当初はなかった冷房を搭載。客室とデッキを仕切る通路部分の自動扉「マジックドア」は人が前に立つとセンサーが感知して開き、登場時は「子どもたちが珍しがって何度も行き来していた」(当時を知る鉄道愛好家)とされる。
 レコードを聴けるジュークボックスを置いたサロンルームも備え、東武は「日光・鬼怒川エリアへの快適な旅を提供するアクセス特急として不動の地位を築いた」と振り返る。

東武1720系の車内。各座席にフットレストもある=2012年6月9日、墨田区で筆者撮影

 ▽ライバルとタッグを組んだ理由
 苦戦した国鉄は157系を冷房化改造して挽回を狙ったものの、不発に終わった。1966年3月に「日光」が準急から急行へ格上げされ、所要時間もサービスも“据え置き”になったものの料金が上がったことも敬遠された。
 宇都宮駅に停車する東北新幹線が大宮(さいたま市)―盛岡間で部分開業した背景はあったものの、1982年11月に急行「日光」は廃止されて日光線での優等列車の定期運転は終止符を打った。
 圧勝に終わったように映る東武も東京都内の起点が浅草駅のため、東京都西部からの集客では苦戦していた。共存共栄を目指してJR東日本と東武がタッグを組んだのが、2006年3月に始まったJRの新宿駅と東武日光駅・鬼怒川温泉駅を直通する特急の運転だ。
 直通化のためにJR東北線と東武日光線の連絡駅となっている栗橋駅(埼玉県久喜市)の構内に接続線を新設した。

東武鉄道の特急「りょうもう」に使っている200型=2013年8月11日、東京都内で筆者撮影

 ▽東武日光線ではなく、東武伊勢崎線久喜駅に新設する狙いとは
 一方、交通政策審議会の答申が検討を促したのは栗橋駅での東北線と東武日光線の接続ではなく、「東武伊勢崎線と東北本線の相互直通運転化等」と久喜駅経由で東武伊勢崎線沿線の埼玉県北部および群馬県南部とつなぐ構想だった。
 もしも実現した場合、距離が長いのを踏まえると特急電車の直通運転が自然だ。このため東武線内では浅草駅と赤城駅(群馬県みどり市)を結ぶ特急「りょうもう」または「リバティりょうもう」と同じような停車パターンになるのではないだろうか。
 想定されるのは、ブラジル人が多く住む群馬県大泉町へ向かう東武小泉線と接続する館林駅(同県館林市)、中世に設立された史跡「足利学校」に近い足利市駅(栃木県足利市)、大手自動車メーカーのSUBARU(スバル)の主力工場が近くにある太田駅(群馬県太田市)などへの停車だ。

東武500系が分割・併合する連結部分=17年10月26日、東京都台東区で筆者撮影

▽東武のコメントは
 答申の受け止めを尋ねると、東武鉄道は「東北本線から久喜駅経由での伊勢崎線相互直通運転実施により、両毛地域・羽田空港間のみならず、新幹線乗換駅である大宮・上野などへのアクセス機能の強化により両毛地域の活性化につながるものと考えておりますが、鉄道事業を取り巻く環境も大きく変化していることから引き続き慎重に検討をしてまいりたいと考えております」とコメントした。
 「リバティりょうもう」に使っている東武の「リバティ」500系は分割・併合をしやすいのが特色だ。それだけに直通運転が実現して久喜駅などで浅草発着の電車と、羽田空港新駅発着の電車が切り離す、もしくは連結することも想定できるが、東武からは「現時点において決定していることはございません」との回答だった。
 2030年代になって羽田空港新駅のプラットホームに東武500系が止まっているのが見られる日が訪れるのか、それとも「妄想鉄」が思い浮かべる絵空事に終わるのか、構想の“終着駅”はまだ見通せない。

東武500系の車内=2017年10月26日、南会津町で筆者撮影

 【羽田空港アクセス線】東京都心部などと羽田空港を結ぶためにJR東日本が整備する新路線。2031年度開業予定の「東山手ルート」を手始めに、将来は東京貨物ターミナル駅(東京都品川区)の近くで分岐する「西山手ルート」(新宿、池袋経由)、「臨海部ルート」(東京・台場の東京臨海高速鉄道りんかい線東京テレポート駅経由)も設ける計画だ。
 JR東日本によると、終点の羽田空港新駅(仮称、東京都大田区)を羽田空港第1、第2両ターミナルの間にある空港構内道路の地下に建設。長さ約310メートル、幅は最大で約12メートルの1面2線の島式プラットホームを地下1階の深さに設置し、新駅と隣接した第2ターミナルとの間を高低差なく移動できるようにする。

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!
 共同通信Podcast番組「きくリポ」#17では、音声解説もしています。 https://omny.fm/shows/news-2/17

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