鍋の中で食べ物が煮えるときどんなことが起こっているの?【すごい物理の話】

鍋の中で生じる物理学

熱を伝える方式には、「伝導」「対流」「放射」の3通りあります。鍋で料理をする場面を考えてみましょう。ガスコンロの炎の熱は、電波のように空間を飛んで放鍋の底に伝わります。たとえば、焚たき火び の炎に直接触れていなくても顔が熱くなりますよね。これを放射熱伝達といいます。金属の棒の一端を火にかざしていると持っている側がそのうち熱くなりますが、これは伝導熱伝達といいます。

仮に鍋がアルミでできていれば、鍋底に伝わった熱は薄いアルミの板を通して鍋の中に伝わります。鍋底に接している水は、鍋底から熱を受けます。水は温まると密度が小さくなり、軽くなって上昇します。それが水面に到達するとそれ以上は上昇できないので、鍋のふちに沿って下がり、鍋の中をぐるぐると回ることになります。

そうして水全体が混ざり温度が高くなっていきます。このような流れが対流です。対流によって水全体に熱が伝わるのを対流熱伝達といいます。ちなみに自然に起こる対流を「自然対流」、スプーンやお玉でかき混ぜて起こる流れによって生じる対流を「強制対流」といいます。通常、大きな対流は小さなセル(cell)状の対流で構成されるようになります。身近なところでは、味噌汁の味噌が図2のようにセル状に対流しているのが見られます。これを「ベナール対流」といいます。実は、崖などで見られる六角形の柱が並ぶ柱ちゅう状じょう節せつ理り も溶岩のベナール対流の結果です。

熱伝導で伝わる熱量は、高熱源と低熱源の温度差に比例し両者の距離に反比例します。また、熱を伝える物質によって、伝わりやすいものや伝わりにくいものがあります。ちなみに、鍋の中の具材は、熱伝導によってお湯と同じ温度になるまで熱が伝わるのです。対流熱伝達で伝わる熱量は、鍋底の温度と水の温度との差に比例します。放射伝達で伝わる熱量は、高温源の温度の4乗に比例します。その放射してくる熱をどのくらい受けとれるかは受取側の熱吸収率に依存しているわけです。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』著/望月修

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』
著:望月修

物理学は、物質の本質と物の理(ことわり)を追究する学問です。文明発展の根底には物理学の考えが息づいています。私たちの生活の周辺を見渡しただけでも、明かりが部屋を照らし、移動するために電車のモーターが稼働し、スマートフォンの基板には半導体が使われ、私たちが過ごす家やビルも台風や地震にも倒れないように設計されています。これらすべてのことが物理学によって見出された法則に従って成り立ち、物理学は工学をはじめ、生命科学、生物学、情報科学といった、さまざまな分野と連携しています。……料理、キッチン、トイレ、通勤電車、自動車、飛行機、ロケット、スポーツ、建築物、地震、火山噴火、温暖化、自然、宇宙まで、生活に活かされているもの、また人類と科学技術の進歩に直結するような「物理」を取り上げて、わかりやすく図解で紹介。興味深い、役立つ物理の話が満載の一冊。あらゆる物事の原理やしくみが基本から応用(実用)まで理解できます!

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