社説:首相襲撃の警備 選挙活動の安全、議論を

 警察だけでなく、政治家や政党も選挙活動の安全を考える礎にするべきだろう。

 岸田文雄首相の演説会場で爆発物が投げ込まれた事件で、警察庁が警備を検証した報告書を公表した。指摘したのは、和歌山県警の警護計画の不備である。

 自民党和歌山県連など主催者側との調整が不十分で、対策の実効性も確認していなかったとした。

 背景には、警備の厳格さを求めたい警察と、物々しさを忌避する主催者の温度差があったことがうかがえる。

 奈良県での安倍晋三元首相銃撃事件から1年もたたないうちに、民主主義の根幹である選挙を脅かす事件が、隣の和歌山で繰り返された。改めて事態を重く受け止める必要がある。

 4月15日に和歌山市の漁港で起きた事件は、衆院補選の応援に訪れた岸田首相に向け、約200人の聴衆の中から男が筒状の爆発物を投げ込み、約50秒後に破裂した。首相は無事だったが、警察官ら2人が軽傷を負った。

 報告書によると、首相の来県日程は同6日に県連から県警に伝えられ、漁協関係者も交え協議した。県警は会場での金属探知検査や受付設置を要請したが、主催者側が関係者以外は来ないと強調し、見送られたという。

 出入り口で不審な部外者を見分けていた漁協関係者は、容疑者には気づかなかった。大きな荷物を持った人物への手荷物検査も容疑者には行われなかった。

 身内だけといいながら主催者はホームページで告知もしていたようだ。選挙での警備の難しさ以前に、そもそも危機意識が乏しかったのではないか。

 県警は主催者の説明をうのみにした形だ。さらに警察庁は事前審査で警備計画を追認した。事前審査は安倍氏の事件を受けた再発防止策で、不備を見逃したことへの教訓だったはずだ。

 日常的な警備体制が手薄とみられる地方が狙われている点も含め、十分な検証が求められる。

 主催者の意識変革も欠かせない。多くの政治家は得票につながるとして有権者との街頭での触れ合いや握手を重視してきた。

 警察庁は、今後は屋外ではこうした不特定の接触を避けるよう主催者側に説明するとしている。ただ、やみくもに有権者を遠ざけないよう配慮は必要だろう。

 手製の銃や爆発物が使われたことを踏まえ、要人や聴衆の命を守るための議論を進めたい。

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