友人と外食した長女「食べるものない。むなしくなったわ」 アレルギーの娘2人を思い神戸の女性がカフェ開店、評判に

アレルギー対応のスイーツを並べる店舗で「選ぶ体験をしてほしい」と話す武市圭さん=西宮市東町1

 食物アレルギーの人にも、スイーツを楽しく選ぶ体験をしてもらいたい-。アレルギー体質で食事制限が必要な娘2人を育てる母親、武市圭(たけいちけい)さん(40)が、神戸市や西宮市でアレルギー対応のカフェや物販店を展開し、評判を呼んでいる。乳や卵などを使わないスイーツやピザを提供し、今年4月には神戸・六甲アイランドに対応商品を扱う自動販売機を設置。「アレルギーがある人への理解が深まれば」と話している。(竜門和諒) ◆心痛めた娘の姿

 武市さん(神戸市東灘区在住)によると、現在中学2年の長女は生後数カ月の時期から嘔吐(おうと)や湿疹が治らず、「顔中があざだらけのような状態だった」。食物アレルギーを疑い、原因の食材を特定するため、授乳する武市さん自身も食事制限を行い、可能性のある食材を1種類ずつ食べて症状を観察した。

 そして分かったアレルゲン(原因物質)は乳、卵、小麦…。思わず「私のせい?」と自分を責めてしまうほど、武市さんは大きなショックを受けた。

 長女は成長するにつれ、制限の多い食事に慣れるようになったという。それでも、友人と外食し、帰宅した長女が「ホンマに食べるものないんやね。むなしくなったわ」と力なくこぼすこともあった。

 また、小学5年の次女も、別の児童の食事が飛び散ってくることを防ぐため、給食は周囲と席を離し、一人で食べていたという。我慢したり、メニューを選ぶのを諦めたりする娘たちの姿に、武市さんは何度も心を痛めてきた。

 そんな武市さんがずっと心に抱いてきた夢が、カフェの開店だった。アレルギー対応のメニューづくりを決心し、限られた食材の中で、おいしさを知ってもらおうと試行錯誤した。小麦の代わりに白高きびのクッキー生地を使い、レアチーズケーキは豆乳でそっくりの食感と味に仕上げた。

◆「普通の店」

 2017年3月、神戸市東灘区魚崎中町3に「カフェ ムッター」をオープン。店名はドイツ語で母を意味し、飲食店の勤務経験がある知人が、趣旨に共感してスタッフに加わり、ピザやグラタン、ハンバーグなどのアレルギー対応メニューをそろえた。

 22年9月には、西宮市東町1の「コープ西宮南」に、食物アレルギーの原因となる特定原材料7品目(卵、乳、小麦、そば、落花生、エビ、カニ)とナッツ類を除いた商品のみを扱う物販店「ケーキ&デリ ムッター」を開いた。

 意識したのは「普通の店」と違わないようにすること。アレルギー対応という看板はあえて掲げず、冷凍のショーケースに常時約20種類のスイーツなどを並べる。

 「アレルギーがない人と同じように選ぶ体験をしてもらいたいから」と武市さん。評判は兵庫県外にも広まり、「初めて自分のためにケーキを買いに来た」と涙を流す若い客もいたという。

◆物販店、自販機も

 今年4月には、さらに気軽に購入してもらえるようにと、六甲アイランドの商業施設「神戸ファッションプラザ」に自動販売機を設置。バニラアイスやショートケーキ、クリームピザなど11種類を販売している。

 近年は、動物由来の食品を口にしないビーガン(完全菜食主義者)向けの飲食店ができるなど、食の多様性への配慮が徐々に進む。一方で、時に命に関わる重度のアレルギーについては、対応できる飲食店が多くないと武市さん。

 今後は、西宮市の阪急夙川駅構内にも自動販売機を設置する予定で「同じ悩みを抱える人はとても多い。これまで諦めていた体験をうちの店でしてもらいたいし、取り組みをもっと広げてアレルギーが特別ではない社会にしたい」と願っている。

 「カフェ ムッター」TEL080.3111.0424

© 株式会社神戸新聞社