【埼玉県川口市 クルドの現場を行く②】地元住民の苦悩|西牟田靖 入管法改正案についての報道が相次いでいる。そのトーンは反対一色。難民を認定しない日本政府や入管は悪、翻弄される外国人は善――という非常に単純化された報道ばかり。その一方、不良外国人の迷惑・犯罪行為に困る地元住民の声はほぼ封殺されたままだ。

取材現場では危険な目に合わなかったが

この連載は、読者の皆さんが入管法改正の是非を考えるヒントになればと思い、はじめたものだ。埼玉県川口市・蕨市を訪ね、地元住民やクルドの人たちに話を聞こうと試みた。

第1回では、ゴミの不法投棄現場や数十人の外国人が集まり騒然となった現場など、不良外国人が問題行動を起こしたとされる場所を訪ねた様子を記した。続く第2回は、実際の地元の人が受けた迷惑行為や起こっている犯罪について記してみたい。

5月15日の午後、埼玉県蕨市や川口市一帯にあるクルド人コミュニティ、通称ワラビスタンを車でまわった。そこで感じたのは「あれ、全然危険じゃないぞ」ということだ。

食品店の前で強い視線を感じたり、改造暴走車を数台見かけたりということはあった。しかし危険な目にはいっさい遭わなかった。中東系の女性たちが歩いているのをちらほら目にすること、ゴミ集積所にトルコ語らしき言葉で書かれていることを除けば、そこはごく平凡な住宅地であった。

だが、地域住民の思いは、通り過ぎただけの僕とは違っており、不良外国人から被る迷惑は、すでに耐え難いものであるようだ。不良外国人から受けた被害についてアンケートを募ると、皆さん、実に細かく記してくださった。

不正改造車による危険運転

多かったのは、不正改造車による危険運転に関するものだ。

「中東の音楽を大音量でかけた車が街中をグルグル流しています。中には昼間からドリフト走行をしている車もいて、とても危ないです」

「運転していて煽られました。バックミラーで確認したらクルド人。一方通行を逆走したり、クラクションで威嚇して走り抜けたりという危険運転を平気で繰り返すんです」

「自転車で横断歩道を走行していたら、一時停止を無視して、SUVが突っ込んで来て轢かれそうになりました」

日常系の苦情に関するものも多かった。

「昨年1月、道路の向かいにクルド人が経営するバーができました。それ以来、睡眠不足に悩まされています。店の前にマフラーを改造した車がアイドリングしたまま何台も路上駐車しているんです。店はドアを開けっぱなしにして深夜まで営業しているので客の声とかもうるさくて仕方ありません」

《バーの前にはアイドリング状態の路上駐車が……》(写真:住民提供)

「近くの公園で夜や日曜の昼、ドンチャン騒ぎをしています。大声でずっと電話してたり、すごく響く指笛を鳴らしたりして、大変迷惑しています」

「どの時間にコンビニに行っても高確率で、彼らがたむろし、ウンコ座りして路上でタバコを吸っています。半年ぐらい前、50歳の男性が大けがを負うという事件もあったので、彼らがいるだけで怖いです」

「駅前を歩いていたら、ナンパなのか、話しかけて来て付きまとわれました。私が無視したら、(逆上したのか)暴言をはかれました」

《蕨駅前でナンパに励んでいる》(撮影:著者)

「ベビーカーに大量の家財道具を乗せてきて捨てていたので注意したら、大声で何か言いながら去っていった」

騒音などの迷惑に耐えかねて、警察に通報しても、警官は及び腰だ。

「現場に駆けつけて、10秒ほど、形だけ注意して、すぐに帰ってしまいます」

外国人居住者に寛容だった町

もともとここ川口市は外国人居住者を長年受け入れてきた街だ。1990年代初頭には、入国にビザが必要なかったイラン人やパキスタン人が多く住みついていた。渋谷や上野の駅前や繁華街で、偽造テレカや大麻を路上で売ったりする彼らのことを記憶している読者も多いだろう。

クルド人は後発組。入国にビザが義務づけられるとイラン人やパキスタン人の大半が帰国。その後、20年ぐらい前にクルド人が川口市に住みつくようになった。

とりわけクルド人が多く住んでいるエリアの一角が川口市上青木である。そこで生まれ育った奥富精一市議会議員は、クルド人が増えていく経緯をずっと見てきた人だ。

「初期の頃は、難民として逃れてきたクルド人が近所にいて、解体屋さんとして頑張っておられました。すごく真面目で、一生懸命働くその方がクルド人の印象でした」

《不良外国人問題に唯一、声を上げている奥富精一川口市議会議員》(撮影:筆者)

もともと奥富議員は海外好き。若い頃から外国旅行を繰り返しており、地元の多文化共生には積極的だった。そのため当初はクルド人とも多文化共生の道を探っていた。

「近所の世話焼きおじさんといった感じの地元の支援者を介して、クルド人と一緒にゴミ拾いしたりしていました。しかしその支援者の方が活動をしなくなりました。というのもクルドの人たちの態度に疲れてしまったようです。僕たち日本人からすると彼らは『時間を守らない。嘘をつく。急に怒る。指摘すると逆上する』という難しい人たち。打ち解けるまでに至らなかったんです」

クルド人が定住し始めた約20年前は、地元の人たちと打ち解けなくても、人数が少ないため、問題はなかった。しかし、彼らが次から次へと家族を呼び寄せ、人口が増えれば増えるほど、軋轢が多く生じるようになった。特にここ数年の不良行為は酷く、「目に余る」と地元住民は口を揃えた。

捜査されなかった〝頭蓋骨陥没事件〟

2016年、22歳解体工と16歳という2人のトルコ系住民が集団強姦と強盗の疑いで逮捕された。被害者である30歳女性の臀部に体液が付着していたが、その後、無罪で釈放されている。

このような不可解な結末は他にもある。奥富議員は言う。

「この付近のコンビニ駐車場で、50歳の男性が殴打されて頭蓋骨を陥没骨折するという事件がありました。目撃者もいて防犯カメラにも残っているはずなのに警察は動きませんでした。警察に問い合わせても、『詳細はわからないです』との一点張り。半年経っても、犯人は捕まっていません。このように外国人犯罪というのは、真相が明かされないようになっているんです」

この件が不良クルド人の仕業だとは断定できない。しかし警察が動かないことはいかにも不自然だ。
最近では、4月末、連続空き巣犯が報道されたばかりだ。

それらの犯人は、いずれもトルコ国籍、解体作業員、20代前半という共通点があった。埼玉新聞によると「空き家を狙った同様の被害は県南東部を中心に約30件確認されていて、県警が余罪を調べている」とのことだ。

泣き寝入りするしかない事故

交通事故に関しても、警察はなかなか動いてくれない。昨年末には民家の門扉に車が突っ込むという事故があった。ぶつけたのは隣の集合住宅に住むクルド人だった。

(写真:住民提供)
《2022年12月18日の朝、白のセダンが塀に激突。バックして、逃げて行ったという》(写真:住民提供)

「その後、被害者の男性が警察に行って事故のことを話したんですが、警察は『捜査しない』と明言しました。事情を聞いていた僕が県議会議員に繋いで、県警に『もうちょっと捜査するように』と言ってもらいました」(奥富議員)

その後、警察が捜査したところ、事故車の所有者が宇都宮にいることが判明した。

「『宇都宮の人と示談をしてくれ』とそこで幕引きです。修繕費は払ってもらえず、被害者が自ら修繕費を払って直しました」(奥富議員)

ひき逃げや死亡事故が起こったとき、警察はさすがに逮捕する。しかし人身や物損ぐらいでは警察は捜査すらしない。この門扉破壊事故はその典型例だ。奥富議員は言う。

「無免許、無保険、他人名義の車のケースの場合、書類をそろえたり、名義が誰かを調べたりするのがいろいろ大変だからです。車をぶつけられたけど、相手は無保険だったので何の賠償もされなかったといった今回に似たケース、たくさん聞いています。クルド人は支払能力がないので、結局は被害者が自腹を切るしかないんです」

物損は被保険者の保険で直すことになる。要はやられ損なのだ。

「排外主義者」としてのレッテル

メディアはクルド人の悲惨な境遇ばかりしか扱わない。その一方、地元住民による被害の声はほとんど紹介してこなかった。それはなぜか。

「日本人でも、この近辺に住んでる人は皆さん『外国人に困ってる』と言いますよ。ただ実際に声に出すと『言い過ぎなんじゃないか』『周りから叩かれるよ』と」(奥富議員)

「排外主義者」としてのレッテルを張られることを恐れ、声をあげることすらできない人が大半なのだ。それでも奥富議員は数年前、声を上げた。案の定、影響はあった。

「関連は不明ですが、4月末の川口市議会議員選挙は前回(2019年)に比べ700票、票数を落としました。また、5月初めに石井孝明さんの記事で紹介された後、『ヘイト議員』だとか、『レイシスト』だとか日本語で罵倒のメールがたくさん来ました」

それ以外に彼は、知人であるクルド人から意味深な電話を受けている。

「『取材になぜ協力した? 身の回り気をつけた方がいいよ』と言われました。そして後日、駐車場の白線に小さな字で『死』と書いてあるのを母が見つけて教えてくれました。僕は駅でチラシ配っているんですけど、その日の朝は、防弾チョッキとヘルメットをかぶって配りました。さすがに心配だから」

《「死」と記された写真》(奥富議員提供)

なぜそこまでの危険を冒して、奥富議員は問題提起を行うのか。

「僕は地域に軸足を置いて活動している議員です。だから、皆さんが困っている地域の問題に目を背けることができないんです。他の議員が名前を出して行動しやすくなるんだったら、僕が叩かれてボロボロになってもいいんです」

彼の心意気に打たれた。だからこそ、筆者である僕もこの記事を記名記事で書くことにした。

(つづく)

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西牟田靖

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