【日薬要望全文】既卒薬剤師の病棟等での研修推進なども/令和6年度予算要望

【2023.06.07配信】日本薬剤師会は6月7日に定例会見を開き、「令和6年度予算及び税制改正に関する要望」を公表した。本稿ではそのうち、予算要望を掲載する。改定財源の確保のほか、医療計画に基づく対人業務強化、地域医薬品提供計画の実現についても記載。既卒薬剤師の病棟等での研修推進なども掲げている。

1. 診療報酬・介護報酬改定に係る必要な財源の確保

【重点】 ① 物価・賃金高騰および薬価の中間年改定による薬局への影響を踏まえた診療報酬・介護報酬改定に係る必要な財源確保
今般の光熱費等を始めとする物価高騰の中、 公定価格による診療報酬・調剤報酬では価格に転嫁することができず、 特に中小規模の保険薬局では経営状況が悪化している。さらには2018年から6年連続で実施された薬価改定により、薬剤費の比率が報酬全体の75%超である保険薬局では、より大きな影響を受けており、物価・賃金等の上昇に伴う薬局従事者への処遇改善の対応が困難な状態が続いている。
令和6年度の診療報酬・介護報酬の同時改定にあたっては、診療報酬・介護報酬の改定に係る財源と、地域の医薬品提供を担う薬局がその機能を発揮し、国民・患者が適切に医療・介護サービスが受けられるよう、十分な予算措置をお願いしたい。

2. 第8次医療計画に基づく医薬品提供体制の構築

【重点】② 医療計画に基づく5疾病に関する対人業務の強化
医療計画における5疾病 (がん、脳卒中、心筋梗塞等心血管疾患、糖尿病、 精神疾患) について 関係する医学・薬学系学会との協力の下作成した薬学管理・指導のための e-learning コンテンツおよびガイドラインを全国的に展開し、 対人業務強化・薬剤師の資質向上を図るための支援をお願いしたい。

③へき地・離島等に係る諸課題把握・問題解決のための調査等の実施
へき地・離島等、薬剤師・薬局が不足している地域における薬剤師サービスの実現のため、薬剤師の確保や偏在解消はもとより、医療需要をもとに無薬局地域等解消に向けた調査や必要なモデル事業等の実施のための予算措置をお願いしたい。

④ 災害薬事コーディネーターを活用した医薬品提供体制の構築
大規模災害発生時や新興感染症等の感染拡大時における関係者間の連携強化のため、災害薬事コーディネーター、各自治体および都道府県薬剤師会の災害担当者等を対象とする研修会の実施に係る予算措置をお願いしたい。また、発災時の医療提供体制の迅速な確保・情報共有において有効な EMIS (広域災害救急医療情報システム) に、 医療機関に加え薬局を登録するための予算措置をお願いしたい。

⑤ 新興感染症等の感染拡大時における医薬品提供体制の維持
新興感染症等の感染拡大時の医薬品提供体制を維持するため、 都道府県と協定を締結した 薬局(協定薬局)を整備することが求められている (目標 2.7 万施設超)。協定薬局には、最新の知見に基づく適切な感染防止対策が可能であること、 都道府県知事の要請を受け発熱等患者の医薬品等対応(調剤・医薬品等交付・服薬指導等)を行う体制整備が求められており、これらの水準を向上・均てん化するための予算措置をお願いしたい。

【重点】 ⑥ 地域医薬品提供計画 (仮称)の実現・体制整備
都道府県・二次医療圏・日常生活圏等それぞれの区域における医薬品提供体制の構築に向けて、それに必要な薬局の分布状況や提供される薬剤師サービスの実態把握とともに、 小児を含む「在宅医療」や「周産期医療」の体制の充実に関する諸課題の抽出のための支援、さらには地域における薬局間連携・多職種間連携の体制確保、麻薬調剤や無菌調剤等の高度な薬学管理が可能な薬局の整備、24時間対応可能な薬局の充実を図るための予算措置をお願いしたい。

3. 薬局・薬剤師の機能向上および確保

⑦ 薬局・薬剤師の機能向上、薬剤師確保に資する調査研究等
薬剤師が臨床現場で得た経験等をもとに、 薬局の機能を向上させるために必要な多職種・多施設との連携やスキルアップをはじめ、病院・薬局における臨床研修のあり方や、薬剤師確保のための調査研究や研修実施に係る支援をお願いしたい。

⑧ 既卒薬剤師の病棟等での多職種チーム医療研修等の推進
「地域医療の質の向上のためには、薬局薬剤師と病院薬剤師による連携が重要であり、そのためには相互の業務の理解が不可欠となる。 薬局薬剤師が病院薬剤師とともに、入院患者への薬学的介入を経験し、さらには終末期へのかかわりを学ぶことで、薬局における在宅医療の質の向上につながることが期待される。また、病院薬剤師が薬局における地域とのかかわりを経験することで、入院患者の退院後の適切な介入や、病棟とは異なる在宅医療の終末期を経験することによる、より適切な患者家族へのケアにつなげることが期待できる。
薬剤師の薬学的ケアのより一層の向上のため、薬局および病院の薬剤師による相互連携を深めある研修が必要であり、現在検討が進められている卒後研修と併せ、既卒者を対象とする研修の実現についても支援をお願いしたい。

⑨ 病院薬剤師の確保が困難な地域や医療機関への支援
病院に勤務する薬剤師は、病棟等における医師等との協働・チーム医療を通じてその役割が高く評価されている一方、地域や病床機能別の病床数あたりの薬剤師数を見る限り、十分な人員を確できているとは言い難い。 病院薬剤師の不足もしくは偏在は、近年特に厳しさを増しており、地域ニーズに応じた適切な医療提供体制の確保・維持が難しい状況にある
このような病院薬剤師の確保が困難な地域や医療機関への支援を図るとともに、問題の早期解決に向けて、医師・歯科医師・看護師と同様に、地域医療介護総合確保基金を活用する等、薬剤師を確保するための予算措置をお願いしたい。

⑩タスクシェア/シフト等に向けた病院・診療所薬剤師の活用
医療機関において、病棟、集中治療室、 手術室および救命救急センター等での薬剤師の臨床業務(処方提案、プロトコルに基づく薬物治療管理、医薬品の効果・副作用モニタリング等)は、タスクシェア/シフトとして医師等の負担軽減を図り、医療の質・安全性の向上に寄与するものとなる。
また、 外来診察の際の支援業務として、あらかじめ医師が必要とする患者の服薬状況や副作用等に関する情報収集を病院・診療所薬剤師が担うことで、副作用の発現予防・減少をはじめとする医薬品の適正使用につながることが期待される。
こうしたタスクシェア/シフトに向けた病院・診療所薬剤師の活用をより一層推進し、 病棟薬剤師業務を充実させるための予算措置ならびに外来医療における病院・診療所薬剤師業務の拡充を図るための予算措置をお願いしたい。

⑩ 就活イベント等における小規模な薬局等の参画のための環境整備
小規模な薬局は、 大手企業もしくは全国展開の薬局チェーン等に比べて薬剤師採用に関するノウハウやマンパワーが限られている。 小規模な薬局ならびに医療機関が必要な薬剤師を確保する観点から、地域自治体と薬剤師会による連携の下、 当該地域の薬科大学・薬学部で実施される薬学生を対象とする企業説明会等に薬局等に関する情報を提供できる仕組みが必要であることから、地域医療介護総合確保基金等を有効に活用した地域偏在の解消ならびに地域に根差した薬剤師確保が可能となるための支援をお願いしたい。

4、医薬品の安定確保・医薬品産業への支援

【重点】 医薬品の安定供給のためのサプライチェーン・創薬力の強化
医薬品の供給不足は国民の生命維持に直結する問題であり、製薬企業による自主的な取り組みとともに、国としてその供給確保に関与する必要がある。 医薬品を適切かつ公平に医療機関・薬局が購入できる体制を構築するため、製薬企業および医薬品卸売業の製造・流通における在庫状況等の把握と、それに応じた必要な指導を行える制度構築に係る予算措置の拡充をお願いしたい。
また、頻回な薬価改定は、急速な医薬品価格の下落を招来し、 医薬品の安定した供給体制に影響を与えている。 必要な医薬品の安定的な供給を可能とするためには、適正なサプライチェーンの構築と共に、我が国の製薬産業の創薬力強化が必要であるので、その為の予算措置をお願いしたい。

5. 医療DXの推進

【重点】⑬ 薬局における医療 DX への対応
薬局における医療 DX への対応については、電子処方箋の応需システムの導入やHPKI(Healthcare Public Key Infrastructure) の普及定着に向け、全国的な取り組みを進めてている。また今後は、オンライン資格確認等システムの在宅患者へのモバイル端末を活用した追加能の導入についても、 積極的に推進していく必要がある。
これらの体制整備に加え、電子カルテの標準化等における医療機関と薬局を結ぶための基盤システムの導入や、診療報酬改定 DX への対応は必須であることから、これら一連の体制整備に係る継続的な予算措置をお願いしたい。

⑭電子版お薬手帳のさらなる活用
マイナンバーカードの普及、オンライン資格確認等システム及び電子処方箋の導入により、マイナポータルを通じた使用薬剤情報の共有の仕組みが開始されている。 薬剤情報とともに一般用医薬品やサプリメント等の服用情報が、生涯を通じた生活の記録として電子的に保管され、国民自身が健康維持増進に活用できるよう、 電子版お薬手帳の有用性も高まっている。
しかし、電子版お薬手帳の閲覧は、同システムを導入している薬局以外の場では不可能であることから、医療機関や在宅医療の現場でも有効に活用できるよう、内容を閲覧できるシステム等の実現・提供のための予算措置をお願いしたい。

6. 薬学教育・生涯学習

⑮薬剤師養成教育の充実
令和4年度改訂版薬学教育モデル・コア・カリキュラムにおける実務実習の充実と円滑な実施に
向けて、認定実務実習指導薬剤師の養成と継続的な研修への支援及び受入施設への支援等に
関する一層の予算措置をお願いしたい。

⑯薬学生に対する奨学金制度や経済的支援の拡充
6年制薬学部の学生は修学に係る費用負担が4年制学部と比較し大きく、経済的理由等で修業が困難となる学生が増えている。経済的理由から薬剤師を目指す学生が就学の機会を逸することは、薬剤師の偏在解消にも影響するものと考える。 修学資金を必要とする薬学生を対象とした地域医療介護総合確保基金を活用し、奨学金対象の拡大や返済支援等、制度の充実をお願いしたい。

⑰生涯学習の推進
日本薬剤師会では、「生涯学習支援システム JPALS」の運用を通じて薬剤師の自己研鎖を支援している。また、令和4年度薬剤師の資質向上等に資する研修事業により、 全薬剤師を対象とした研修プラットフォームを構築し、 令和5年度から運用を開始している。
かかりつけ機能の強化、 薬局 DX の推進、 感染症拡大時の医薬品供給、緊急避妊薬への対応等、様々な要因により変化する社会の中で薬剤師が求められる役割を的確に果たすためには、研修を通じた質の担保が不可欠となる。
薬剤師に必要な能力の更なる充実・向上にむけた支援策を推進するため、生涯学習の推進に係る予算措置をお願いしたい。

7. 薬事衛生活動

⑱薬物乱用防止対策およびアンチ・ドーピング活動の充実強化と薬剤師の活用
大麻使用による健康被害や、 若年層を中心に深刻化・社会問題化している一般用医薬品の乱用による薬物依存症を防止するためには、 学齢期から適切に指導・教育を行い、 医薬品の正しい使い方や知識を伝達することが肝要である。
医薬品の適正使用の確保の観点から、これら指導・教育を小学校から実施するための予算措置とともに、 中学校・高等学校に義務付けているくすり教育をより充実・強化するための更なる予算措置をお願いしたい。
また、意図しないドーピングを防止し、公正で公平なスポーツ競技が損なわれることのないよう、ドーピング防止活動のさらなる充実・強化を図るための予算措置をお願いしたい。

⑲全ての認定こども園における環境衛生活動への支援
現在、保育所型・地方裁量型認定こども園においては、学校保健安全法の規定が及ばないため、学校薬剤師の配置や学校環境衛生基準に基づく環境衛生検査が十分に行われていない。
国が進める子ども・子育て支援の観点も踏まえ、すべての幼児らが平等に快適・適正な環境での教育・保育を受けることができるよう、学校薬剤師の配置ならびに環境衛生活動に必要な検査器具等の購入・整備のための予算措置をお願いしたい。

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