藤間爽子、日本舞踊家から女優になったワケ「自信がなかった」

幼少より祖母・初世家元藤間紫に師事し、2021年に三代目家元を襲名。日本舞踊家として活動しつつ、劇団「阿佐ヶ谷スパイダース」にも所属する女優・藤間爽子(ふじま・さわこ)。2022年のテレビドラマ『silent』(フジテレビ系)ではヒロインの親友役を演じ、その好演も話題となった。

日本舞踊家、女優として活躍する藤間爽子

2023年度後期の連続テレビ小説『ブギウギ』にもヒロイン鈴子の幼なじみ役で出演が決まるなど、まさに二足のわらじを地でいく活躍を見せている彼女。ムロツヨシ主演、宮沢氷魚共演の連続ドラマW−30『ドラフトキング』(WOWOW)でフリーライター・美嶋瞳を演じる彼女に話を訊いた。

取材・文/華崎陽子 写真/木村正史

■「私よりも周りがとにかく興奮(笑)」(藤間)

──未来のスター選手獲得に奮闘するプロ球団の剛腕スカウトを主人公に、スポーツの裏側の熾烈な争いと濃厚な人間ドラマを描いた作品ですが、藤間さんは元々野球の知識はあったのでしょうか?

全然知りませんでした(苦笑)。今回、私は「野球を知らない人」代表だと思って参加しました。ムロさんも氷魚くんもそうですが、キャストもスタッフもみなさん野球が大好きで、本気でやってきた方ばかりなんです。なので、お話をいただいたときは、野球を全然知らないのに大丈夫かな? と思いました。

──なんとなくルールは知っていても、ドラフト(新人選手選択会議)のことまではさすがに・・・ですよね。

基本的なことは知っていましたが、ドラフトというコアな知識までは知らなかったので、いちから勉強しようと野球に詳しい友だちに教えてもらって、実際に神宮球場や東京ドームにも足を運びました。

連続ドラマW-30『ドラフトキング』(WOWOW)(C)クロマツテツロウ/集英社 (C)WOWOW

──野球の知識があまりなくても原作やドラマを楽しむことはできましたか?

この作品は野球が題材のドラマですが、野球のことだけでなく、その裏側の人間模様を描いているので、野球を知らない私でも置いてけぼりにされずに原作も楽しめました。

──劇中に逐一、専門用語の説明が入っているのはわかりやすいと思いました。

そうですよね、私もいいと思いました。どうしても専門用語は難しかったので、詳しい友だちにイントネーションなども教えてもらいました。例えば「ドライチ」とか。スピードガンも最初はなにを持ってるんだろう?って。新しいことをたくさん知ることができた現場でしたね。

──そんな「野球を知らない人」代表の藤間さんが、阪神甲子園球場で伝統の一戦と言われる阪神VS巨人戦の始球式(5月27日)に登壇されたんですね。

そうなんですよ。この日のために、初めてグローブをつけて練習しました。撮影ではスタンドから球場を見てましたが、グラウンドからの風景はまた違って、始球式は本当に楽しかったです。

始球式に登場した藤間爽子(5月27日・阪神甲子園球場)(C)J:COM 超速ネット光デー

──伝統の一戦だけに、周囲からは羨ましがられたんじゃないですか。

野球好きの友だちは、「これってすごいことだからね! 覚悟して行ってきて!」と熱弁されましたし、私よりも周りがとにかく興奮してました(笑)。

──藤間さんの周りには野球好きの方も多そうですが、本作にはどのような反響がありましたか?

「毎話泣ける」とか、「最後の1話はもったいなくて見られない」と言う友だちもいます。漫画のポップな感じもありながら真面目に野球のことを描いていて、心地いいぐらいスピーディに物語が進んでいくので、野球を知らない方も楽しめる作品だと思います。

──役者さんたちによる野球のシーンはすごく本格的に感じました。

実際にプロ野球を目指していた方たちがキャスティングされているのも見どころのひとつだと思います。もう、掛け声がリアルなんです。台本にない声なので、そこにすごく感動しました。氷魚くんも野球の経験があるので、ユニフォームの着方で経験者かどうかわかると言っていました。私はどこが違うの!? と思ってましたけど(笑)。

──現場も部室みたいな感じだったんじゃないですか。

監督も野球の監督みたいでした。実に男らしい現場でしたね。

■「表現の仕方は舞台と映像で違う」(藤間)

──本作の主演を務めたムロツヨシさんとは、ドコモのCMでも共演されていました。実際にお芝居でご一緒された印象はどうでしたか?

CM撮影の前に本作でご一緒することが決まっていたので、初めてお会いしたときに「次もよろしくね」と言ってくださって。これはムロさんの魅力だと思いますが、初対面なのに初めてに感じない親近感があるんです。

CM撮影はたった1日でしたが、その時点で私のなかでは昔から知っている人のような感覚でした。現場でも、ムロさんがいろいろと気遣ってくださったので、緊張することなく臨むことができました。

藤間爽子演じるフリーライター・美嶋瞳 (C)クロマツテツロウ/集英社 (C)WOWOW

──そんなムロさん演じる凄腕スカウトマン・郷原と、藤間さん演じるフリーライター・美嶋の間には、何かあったんだろうなと第1話から感じさせられました。

そういうところがはっきりと描かれていない分、美嶋が感情を爆発させるシーンは、唯一彼女が感情をあらわにする場面なので、それまでの淡々と冷静に話す姿とは差をつけるように意識しました。

──確かに、それまでの美嶋はあまり感情を表に出さなかったですね。

監督からも、美嶋は内には熱いものを秘めているけど、そんなに熱いキャラクターではないと言われていたので、そこは意識していました。

──6月23日公開の映画『大名倒産』や今回のドラマなど、藤間さんのお芝居は短いシーンでも感情豊かに表現されていると感じます。映像のお仕事も増えていますが、そのあたりは日本舞踊の経験が生きているのでしょうか。

そう言われてみると、映像では過度に動いたりはしませんが、日本舞踊をやっている身体表現、身体性みたいなものが、もしかしたら映像のなかでも自然と表現できているのかもしれないです。ただ、自分でそんな風に感じたことはないです。

「映像作品は毎回緊張する」という藤間爽子

──女優のお仕事を始めて、違う世界に触れたことで、日本舞踊に対しての思いに変化はありましたか?

舞台の方は小さい頃からやっているので、舞台の方がしっくりきて、映像は毎回緊張するんですが、映像は瞬発力みたいなものが試されるように感じます。舞台はどちらかと言うと蓄積していく、積み木を積み上げていくような感覚ですね。表現の仕方は舞台と映像で違うものだと感じています。

──最初は戸惑われたのではないでしょうか。

戸惑いました。どこに神経を持っていけばいいのかわからなくて。舞台、特に日本舞踊では前にお客さんがいて、後ろは隠れているので、前に神経を使う一方、隠す部分を持っていられるんですが、映像は全部映されるので。どこに自分の思いをぶつければいいのかわからなくて、ふわふわした感覚に陥りました。

■ 「日本舞踊の世界にずっといたので」(藤間)

──どうやって落ち着くようになっていったのでしょうか。

やっぱり経験ですね。ちょっとずつ映像の現場が増えてきて、先輩たちのやり方を真似たり、気づくことがあったり。そういうことが解決につながりました。日本舞踊は逐一教えてもらうことはなく、芸は盗めという世界なんです。映像のお仕事でも、先輩や共演者の姿を見て、盗めるものは盗むというか、いいなと思うものを取り入れていくようにしています。

──今日は大阪での取材ですが、大阪と言えば、藤間さんは次期の朝ドラ『ブギウギ』(NHK大阪局制作)でヒロインの親友役を演じられます。もう撮影の準備などには入ってらっしゃるのでしょうか。もちろん関西弁ですよね?

先月入りました。関西弁が大変です(苦笑)。大阪の方はホントに関西弁に厳しい・・・。

次期朝ドラ『ブギウギ』にも出演が決まっている女優・藤間爽子

──やはり難しいのはイントネーションでしょうか?

主演の趣里さんも私も東京出身なんですが、そのほかのキャストは関西の方が多くて。方言指導の方がいてくださってますが、なにが難しいって、アドリブですね。誰かのアドリブに対して、咄嗟に関西弁で出てこないんです。それがすごくもどかしくて。

──確かに、それは難しいですね。

方言指導の方に聞いてもらって構わないと言ってくださるんですが、アドリブをあらかじめ聞くのってちょっと野暮じゃないですか。そこが難しいところだなと感じます。

──セリフだけじゃなく、関西弁のイントネーションも覚えないといけないんですよね。

方言で演技をすること自体が初めてなので、びくびくしながら方言で録音してもらった音声を聞いています。でも、相手の話し方によってこっちの受け応えも変わってくるのに、耳に入っているからと音声デモの通りに言うのもおかしいですし。方言って難しいんだなって・・・。

──三代目家元・藤間紫として活動しながら、舞台や映像作品でも活躍されていますが、そもそも女優にチャレンジしてみようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

日本舞踊の世界にずっといたので、別の世界を見たいという好奇心ですね。日本舞踊の家に生まれてその道に入るのと、自発的にその世界を選ぶのでは違うじゃないですか。ずっと自信がなかったので、周りが就職活動を始めたとき、違う場所で頑張ってみたい、認められたいと思ったのがきっかけでした。

認められたいという想いが女優へのきっかけとなった藤間爽子

──日本舞踊で早くから認められていた藤間さんが、自信がなかったというのは意外でした。

今でも自信があるかと聞かれると、すごく自信があるわけではないですが、当時はどこかに息詰まりを感じている自分がいました。そんなときに、女優のオーディションに挑戦したんです。

──女優を経験した後、日本舞踊の舞台に立ったときはどんな感覚でしたか?

舞台に上がって初めてセリフを言ったことで、すごく自分を解放できたというか。お客さんが自分自身を見てくれているように感じました。今はそんなことはありませんが、当時は日本舞踊の世界だとどうしても縮こまってしまっている自分がいて。

そこから、いろんなところで活動させていただいたことが自信に繋がって、相乗効果で日本舞踊でも自然と自信が出てくるようになりました。そんな風にいろいろチャレンジさせてもらえている環境にも、もちろん家族にも感謝しています。

連続ドラマW−30『ドラフトキング』(WOWOW)・・・プロ野球の剛腕スカウトを主人公とした漫画を原作に映像化。剛腕スカウトマン・郷原眼力(ムロツヨシ)は、元プロ選手で新米スカウトの神木良輔(宮沢氷魚)、部長の下辺陸夫(でんでん)らと激論を交わしながら、チーム強化に向け奮闘する。オーディションで選ばれた元高校球児たちのプレーにも注目。現在放送、配信中。

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