勇み足の揚げ句

 7年前のサラリーマン川柳の上位作にある。〈球拾いだったオレにも背番号(マイナンバー)〉。番号を受けた複雑な心持ちを表したらしい。この少し前、配達によるマイナンバー通知がかなり遅れ、国民は少しだけやきもきした。ご記憶だろうか▲「少しだけ」と書いた。通知が遅れたところで誰も困らないからであり、国の見切り発車と国民のあきれ顔は、この頃から“定番”だった▲国が勇み足の揚げ句、立ち往生するのは今も変わらない。マイナンバーとひも付ける給付金の受取口座が本人以外の名義で登録されたケースが13万件ほどに上ることが分かった▲家族に限らず、他人の口座が誤って登録された場合もあるという。健康保険証をそのうち廃止してマイナカードと一体化します-と一方的に義務化を進めるが、「口座も保険証もひも付けられて大丈夫か」と国民の不安は強まる▲いろいろな手続きが簡単になる、と触れ込みはいいことずくめだが、マイナ保険証といい、住民票の写しといい、個人情報が「別人情報」にすり替わるミスがこれだけ続けば、地に落ちた信用は地下に埋もれるしかない▲国が普及、普及とせかすあまり、地方自治体が応じきれなかったともいえる。国民の渋面を直視する。地中の信用を掘り返す。勇み足以外にやることがある。(徹)

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