2040年までにプラスチック汚染をゼロへ 国際条約策定に向け世界の議論進展か――日本は「高い野心掲げる連合」に加盟も

パリで行われたINC-2に先立って、グリーンピース英国の活動家たちが世界的なプラスチック条約の締結を求めて、ロンドン議会の正面に投げかけたメッセージ(グリーンピース提供、オリー・ハロップ撮影)

プラスチック汚染対策に関する世界条約の策定に向けた第2回政府間交渉委員会 (INC−2)が5月29日〜6月2日まで、仏パリで開かれた。参加した約180カ国中135カ国が法的拘束力のある国際ルールの導入を明確に支持し、2040年までにプラスチック汚染を根絶することにコミットする国際条約の制定に向けて歩を進めた。ただし、すでに合意されたプロセスに意義を唱える国も多く、行先に懸念は残る。一方、日本は会議の直前に同条約の策定交渉に関する高野心連合(HAC)への参加を表明しており、今後、世界のルールメイキングにどう貢献していくかが注目される。(廣末智子)

2050年から2040年へ マイルストーンが引き上げられた広島サミット

世界の90%の海鳥がプラスチックを摂取するなど生物多様性を脅かすと同時に、石油からつくられるプラスチックは製造過程やごみとして焼却される過程で温室効果ガスを大量に発生させることから、プラスチック汚染を取り巻く問題は2015年ごろから国際的なアジェンダとして認識されるようになった。G7やG20の場でも議論され、2018年には2030年までにすべてのプラスチック資源を循環させることを目指す「海洋プラスチック憲章」が、さらに2019年には2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」といったマイルストーンが打ち出された。

そうしたこれまでの目標を書き換えたのが、先月、広島で行われた「G7広島サミット」だ。首脳コミュニケ(声明)の中で、プラスチック汚染については、「2040年までに追加的なプラスチック汚染をゼロにする野心を持って、汚染を終わらせることにコミットしている」ことを念頭に、原料の採掘から始まるプラスチックのライフサイクル全体にわたる既存および革新的な技術やアプローチを促進することを確認した。海洋汚染にとどまらない包括的なアプローチを示した点と、また期限をこれまでの2050年から「2040年」へと10年引き上げた点で前進したとされる。

「プラ汚染を終わらせる」 2025年までに国際条約の締結へ

―パリで第2回会合 180カ国中135カ国がルール導入を支持―

パリで行われたINC-2に先立って、グリーンピースがアーティストのベンジャミン・ヴォン・ウォンとともに世界のプラスチック汚染の根絶を求めてセーヌ川のほとりで公開した巨大アート作品の一部(グリーンピース提供、ノエミ・コワサック撮影)

もっともその前段として、2022年3月の国連環境総会でなされたのが「プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際約束に向けて」と題した決議であり、この条約を2025年までに締結するべく設置されたのが、INC(Intergovernmental Negotiating Committee on Plastic Pollution)と呼ばれる政府間交渉委員会だ。最初の会合(INC-1)は同年11月にウルグアイで開かれ、今回のINC-2では、条約に含める要素や、条約のゼロドラフト(たたき台)になる議論が行われることになっていた。

WWF(世界自然保護基金)などによると、結果として、INC-2には約180カ国が参加し、5日間の日程を経て、プラスチック汚染の根絶に向け、各国が行動を自主的に選択するのではなく、すべての国に等しく適用される義務的な国際ルールを導入することを、日本を含む135カ国が明確に支持した。さらに問題のあるプラスチック製品や素材、化学物質の禁止を優先させるよう94カ国が呼びかけ、今年11月にケニアで開催予定のINC-3までに、条約のゼロドラフトを策定することに各国が合意した。ただし、WWFは「複数の国々が既に合意された意思決定プロセスに異議を唱え、議論を遅らせることになる拒否権の導入を画策したことなどに懸念を示す」としている。

日本、条約に消極姿勢から一転、「高い野心掲げる連合」に加盟

また日本は今回、INC-2の開催直前の5月26日に、2040年までにプラスチック汚染を終わらせるとする目標を掲げ、「持続可能な水準のプラスチックの生産・消費、資源循環の促進、プラスチックごみの適正管理などを追求する国家グループ」である高野心連合(HAC:High Ambition Coalition to end plastic pollution)への加盟を表明。問題のあるプラスチックの禁止を含む義務的拘束力のある条約を目指す合同声明に署名した。

HACは、上述の国連環境総会による「プラスチック汚染根絶のための国際条約決議」を受け、プラスチック対策に積極的なノルウェーとルワンダの呼びかけで、2022年8月に発足。現時点での加盟国は欧州やアフリカ、中南米など日本を含む55カ国で、例えば新品の素材だけでつくられるプラスチック生産に規制をかけることを明確に支持するなど野心的な内容に基づき、国際条約に向けた確固とした行動をより多くの国に呼びかける。

日本はこれまでどちらかというと、各国の事情に即したプラスチック削減を進める立場から条約に消極的な姿勢を見せてきた経緯があり、今回、この高い野心を掲げるグループに参加したことは、WWFやグリーンピースなどの環境団体にも驚きを持って受け止められた。日本はなぜこのタイミングで積極姿勢に転じたのか。

これについて環境省はHAC参加を表明した同日のリリースで、日本が「プラスチックの大量消費国及び排出国を含むできるだけ多くの国が参加する実効的かつ進歩的な条約の策定を目指し、議長国を務めたG7サミットや気候・エネルギー・環境大臣会合等においても、関連の議論をリードしてきた」こと、そして「HACの中でしかるべき議論に参画し、できるだけ多くの国が参画する実効的かつ進歩的な条約の策定に貢献をすることが重要であると考えた」ことなどを理由として挙げている。

国際バリューチェーンに関わる主要企業も義務的ルールや規制求める

プラスチック削減を巡る各国の状況としては、欧州連合(EU)が包括的にプラスチックを法規制の対象とするなど、政策面で大きくリードする。一方で、世界最大のプラスチック生産国である中国も廃プラスチックの輸入規制を導入するなど各国が取り組みを進め、日本でも昨年4月、プラスチックを使用する製品の設計から廃棄物処理に至るライフサイクル全般での“3R(リデュース・リユース・リサイクル)+Renewable(再生可能)”を促進し、サーキュラーエコノミーへの移行を加速する、いわゆる「プラスチック新法」が施行された。しかしながら、国によって取られる対策が大きく異なるのでは公正な競争環境も整わないことなどから、WWFによると、プラスチックの国際バリューチェーンにかかわる多くの主要企業は、プラスチック条約の企業連合(Business Coalition for Global Plastics Treaty)として、世界規模で変革を推進するために、義務的な国際ルールや規制を強く求めている。

気候変動、生物多様性の喪失、汚染と廃棄物。地球は三重危機に

INC-2に現地で参加し、議論を目の当たりにした国際環境NGOグリーンピース・ジャパンの政策渉外担当、小池宏隆氏は、「地球は、気候変動、生物多様性の喪失、汚染と廃棄物という三重危機に瀕しており、プラスチックはこのどれにも大きく影響を与える国際課題だ」とした上で、今回HACに加盟した日本のINC-2での動きについて、「アジア太平洋地域の代表として地域会合を主催し、2040年の年次目標を条約に入れるよう提案するなど、全体的にポジティブな動きが多かった」と評価。一方で、「日本からは『条約は国別行動計画(NAP)を中心とし、循環経済の構築や持続可能なデザインの促進をすべき』という主旨の発言があるなど、プラスチックの生産規制に真正面に向き合う姿勢はみられなかったのが残念だった。NAPや循環経済の構築はそれぞれ重要な施策であるものの、加速的に拡大するプラスチック生産に制限をかけなければ、プラ汚染は止められない。日本政府には今後、プラ生産の規制を含めたより実行的なプラスチック条約実現のために、より高い目標を掲げて行動していくことを求めたい」と話している。

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