運転技能に特化した「脳トレ」アプリ 1日1分で改善 東北大など開発

高齢ドライバーが引き起こす交通事故や危険運転が社会問題となるなか、認知力を向上させることで運転技能を改善しようというサービスが始まっている。東北大学加齢医学研究所と仙台放送が共同開発した運転技能向上トレーニングアプリ「BTOC」(Brain Trainer On Cloud)は、認知力などの向上に効果的なクイズやゲームを出題するアプリで、同研究所が行った実証実験によると、1日わずか1分間のプレイで自動車運転技能や認知機能、感情状態が有意に向上する結果が得られたという。法人向けサービスとして展開し、タクシー業界や運送業界など運転業務を要する企業への導入が広がっている。

(Getty Images)※画像はイメージです

認知機能改善のポイントは「転移」

「クルクルヒョーシキ」「アブナイドーロ」「ストップコーサテン」などのユニークなネーミング。これらはBTOCでゲーム形式で出題されるトレーニングメニューだ。例えば「クルクルヒョーシキ」は左右の標識に現れる数字が大きい方をできるだけ早く答えることで認知速度を向上させるトレーニング。「ストップコーサテン」は左から右に移動する車両が壁から出る直前を予測することで、危険を察知するための能力を向上させる内容となっている。

左右の標識に現れる数字が大きい方をできるだけ早く答えることで認知速度を向上させる「クルクルヒョーシキ」(仙台放送)

BTOCのベースとなっているのは、東北大学加齢医学研究所が開発した「運転技能向上トレーニング・アプリ」。脳トレゲームや音読、計算や処理速度ゲームなどを行うことで高齢者の認知機能が向上したというこれまでの研究実績に基づき、新たに運転技能の向上に特化したトレーニングアプリを考案した。

精神疾患、脳疾患、高血圧の既往歴のない健康な高齢者60人を対象とした無作為比較対照試験で、1日20分の運転技能向上トレーニング・アプリを週5回以上6週間実施したグループは、同じ期間他のゲームアプリを実施したグループよりも、自動車運転技能と認知力(処理速度と抑制能力)とポジティブ気分(活力)が向上するという結果が得られた。

運転技能向上アプリ群と対照アプリ群の介入による変化量を現したグラフ(仙台放送提供)

実証実験を行った同研究所の野内類准教授によると、認知介入・脳トレゲームによる認知機能の改善のポイントは「転移」にある。転移とは、「AをするとAとは異なるBのパフォーマンスが改善する」という現象のことで、例えば「左手でキーボードのタッチ」を練習すると「右手のキーボードのタッチ」が改善するといった具合だ。運転技能向上トレーニング・アプリはこの転移の効果を応用したもので、様々な認知機能が要求されるゲームをプレイすることで、トレーニングをしていない別の認知機能(処理速度、注意や記憶力のような認知機能)の改善を促すという。

「脳トレ」の第一人者でBTOCの監修を務めた同研究所の川島隆太教授によると「脳科学の観点からすると、ドライバーの事故は脳機能の低下、主に大脳の前頭前野の知覚、予測の力が落ちることが原因と考えられる」とのこと。言い換えれば、前頭前野をトレーニングすることで、危険を察知する能力やそれを回避するための判断力など、運転に関わるほぼ全ての能力が改善されるという。

東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授(仙台放送提供)

AIでトレーニングレベルを最適化

この「運転技能向上トレーニング・アプリ」をベースに、主要な機能を抽出して法人や団体でも利用しやすいクラウドサービスへと進化させたのがBTOCだ。BTOCでは1日わずか1分で効果が得られる内容に再構築し、さらにAI(人工知能)を搭載した「運転技能向上トレーニング・アプリAI版」を採用することで、個々の利用者の脳のトレーニング状況に応じて難易度が最適化される仕組みになっている。成績や得点に応じたレベルアップ機能も追加するなど、利用者のモチベーションを高める機能を今後も拡張していくという。

BTOCを導入したタクシー会社大手の日本交通の仲進氏は、「乗務員の高齢化が進む一方で新卒者の採用も拡大しており、多様な人材をどう育成し安全運転につなげていくかが課題となっている。BTOCの活用は個々に応じた最適なトレーニングで予測力・危険予知能力を高められる点で新しいアプローチになる」と話している。

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