『ジョンベネ殺害事件の謎』(2017年)で知られるドキュメンタリー映画作家のキティ・グリーンが、ハリウッドを発端に巻き起こった<#MeToo運動>を題材に、今日の職場における大きな問題を掘り下げた『アシスタント』が2023年6月16日より公開となる。
このたび、主人公ジェーンの絶望的な表情が、全画面に映し出されたパソコンのメール画面と共に、観る人の心をざわつかせる本編映像が解禁された。
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「憧れの映画業界、のはずだった」
名門大学を卒業したばかりのジェーン(ジュリア・ガーナー)は、映画プロデューサーという夢を抱いて激しい競争を勝ち抜き、有名エンターテインメント企業に就職した。業界の大物である会長のもと、ジュニア・アシスタントとして働き始めたが、そこは華やかさとは無縁の殺風景なオフィス。早朝から深夜まで平凡な事務作業に追われる毎日。常態化しているハラスメントの積み重ね……。
しかし、彼女は自分が即座に交換可能な下働きでしかないということも、将来大きなチャンスを掴むためには、会社にしがみついてキャリアを積むしかないこともわかっている。ある日、会長の許されない行為を知ったジェーンは、この問題に立ち上がることを決意するが――。
「君に厳しく当たるのは、立派に育てたいと思ってるからだ」
映像に映し出されるのは、<ある出来事>によって立場を追い詰められたジェーンが、理不尽な言葉と感情を飲み込み、ボスへの謝罪メールを打ち続ける姿を切り取ったもの。「私が大げさでした」「出しゃばったマネをして」「二度と失望させません」――自分が、職場に必死にしがみつくしかない<底辺>であることを理解しているジェーンは、先輩スタッフの親身な(?)アドバイスに従い、淡々と必要な文言を打ち込んでいく。
やがて「君に厳しく当たるのは、立派に育てたいと思ってるからだ」というボスからの返信が到着するが――。<現実>を受け止めきれないジェーンの絶望的な表情が、全画面に映し出されたパソコンのメール画面と共に、観る人の心をざわつかせる本編映像となっている。
「やむを得ず手を貸している、最も力の弱い人物に焦点」
組織のヒエラルキーの下にいるジェーンのような人物に焦点を当てた理由について、監督は「#MeTooの問題を考えるとき、権力の構造を見つめる必要があると思った」と語る。「誰が頂点にいて、誰が一番下にいるか。不正行為を行いつつ、なぜトップに居座ることができるのか。どのような構造が彼らを守っているのか」を解明するため「上司である悪者に目を向けるのではなく、やむを得ず手を貸している、最も力の弱い人物に焦点を当てることにしました」と、本作の独特の物語構成を明かしている。
誰も無関係ではいられない87分
24時間のあいだ、まるで透明な存在のようにさまざまな暴力の矛先になるジェーン。自分の意見はほとんど述べず、寡黙に状況を見つめる彼女の目を通じて、観客は自分が同じ立場ならどうするか? と考えさせられる。また同時に、本作は『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(2022年)にも連なる、職場のパワハラや性的虐待を許容し蔓延させているシステムへの痛烈な告発とも言える。
一つの確信によって、自らも気づかぬうちに組織のシステムに加担していることを知ったとき、ジェーンはどのような選択をするのか? 架空の映画会社の1日が、目に見えない<闇(しくみ)>を明るみに出す……。すべての人に問いかける、87分の静かな衝撃だ。
『アシスタント』は2023年6月16日(金)より新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデンシネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開