母さん、ついに日本一なったよ ベテランテニス父子、天国にささげる栄冠 年齢別ランキング同時首位に

ベテランテニスのランキングで親子による日本一を達成した大崎浩さん(左)と父一雄さん=神戸市西区神出町東、天王山倶楽部

 がん治療の末に逝った妻であり、母にささげる栄冠だ。神戸市西区の元同市職員大崎一雄さん(81)と公務員の長男浩さん(45)が、日本テニス協会が発表する5歳ごとの年齢別ベテランランキングで、全国1位を同時に達成した。それぞれの強みを存分に発揮して頂点に上り詰めた。テニスを共に楽しんだ一雄さんの妻繁子さんは4年前にがんのため72歳で死去。2人は「親子で日本一の姿を見せたかった」と話す。(笠原次郎)

### ■堀江さんが刺激に 一雄さん(81)

 一雄さんは同市長田区生まれ。高校でテニスを始めた。市職員時代も続け、市民大会で優勝するなど活躍。60歳で定年退職すると、2002年から全国レベルの大会に出始めた。06年から所属する同市西区の民間クラブ「天王山倶楽部」では、同じくベテラン最高峰の全日本選手権を目指す仲間と競い合い、実力をつけてきた。

 球を粘り強く拾う抜群の脚力が武器。ラケットを上から振り下ろして鋭い逆回転をかける「スライス」をフォア、バックの両方から繰り出し、相手の球をネットにかけさせる。21年、全国レベルの大会の75歳以上シングルスで準優勝して勢いに乗り、その後も80歳以上の大会で優勝、準優勝を重ね、今年4月末付で初の1位に輝いた。

 ヨットでの太平洋横断に83歳で成功した堀江謙一さんの「今が青春の真っただ中」という言葉に刺激を受けた。「年齢に負けず夢をかなえるには、続けること、諦めないことが大切と自分に言い聞かせてきた」と振り返る。

### ■40歳で再び挑戦 浩さん(45)

 浩さんは、兵庫県立のフリースクール「神出学園」(同市西区)の主任専門指導員だ。小学3年からテニスを始めた。高校、大学でも続け、四国の実業団で3年間プレーした。その後は競技から遠ざかった。

 6年前、同市西区で開かれた団体戦のシングルスで「勝てるはず」と思った選手にあっさり負けて衝撃を受けた。その選手から上級者サークルに誘われ、40歳で本格的に競技を再開した。練習は「全集中」で取り組み、生活面でも自分を厳しく律する。食事に気を使い、アルコールは一切飲まない。夕食は就寝3、4時間前には終える。

 「最大の武器は精神面の強さ」と自己分析する。昨年、公認心理師の資格を取り、物事の捉え方が前向きになった。「試合で大事なポイントを前にしても、気持ちをコントロールできるようになった」という。安定感のあるバックハンドを武器に昨年7月以来の1位に返り咲いた。

 40歳以上のランクでは浩さんより下位にプロ選手もいるという。「現役時代と比べても今が一番強い」と胸を張り、ストイックな姿勢を評価する仲間から「鉄人」と呼ばれる。

### ■遺影に、LINEに

 一雄さんはいつも遺影に「繁子とテニスをしたのが役に立ってるよ」などと語りかける。浩さんは無料通信アプリ「LINE(ライン)」で今も繁子さんに勝利を報告する。「もちろん既読にはならない。ただ報告したくて」

 偉業を達成した2人は「まだ通過点」と貪欲だ。「ベテラン最高峰の全日本選手権にそろって出場し、親子で優勝したい」とさらなる高みを目指す。

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