LGBT法案審議入り、法案づくりの陰に兵庫の当事者 自民党の会合に飛び込み、理解訴え

LGBT理解増進法案づくりに当初から関わってきた繁内幸治さん=神戸市内

 与野党が提出し、9日に3案が国会審議入りするLGBTなど性的少数者への理解増進法案。法案づくりの陰には、過去に兵庫の地方議会で相次いだ差別発言を受け、「共に学ぼう」と政治家に働きかけた地元のLGBT当事者がいた。今国会で成立する公算が大きい法案は本当に「理解増進」に寄与するのか。疑問の声もある中、その人は何を思う。

 始まりは、2014年5月の兵庫県議会。エイズウイルス(HIV)への理解を呼びかける県の啓発活動に関し、当時の自民県議が「行政が率先してホモ(セクシュアル)を指導する必要があるのか」と発言し、抗議が殺到した。

 HIV感染者への支援に取り組む市民団体「BASE KOBE」(神戸市中央区)の繁内幸治さん(62)は、その県議に連絡をとった。繁内さんはゲイだが、「発言をたたくだけでは恨みしか残らない」。話し合おうと考えたが、県議からは「もうええ」と断られた。

 1年後の宝塚市議会。今度は性的少数者支援に向けた議論で、当時の自民市議が「宝塚がHIV感染の中心になったらどうするのか」と述べた。「一緒に勉強しよう」。繁内さんの呼びかけに、市議は応じた。

 その縁で、繁内さんは当時の自民党政調会長、稲田朋美氏につながる。党本部の「性的指向・性自認に関する特命委員会」に呼ばれ、大臣経験者らが並ぶ中、思いを語った。

 強調したのは「(自身の性的指向や性自認を)カミングアウトしなくても生きやすい社会に」ということ。同性愛者の友人2人を自殺で亡くし、自身も偏見や言いしれぬ圧力の中で生きてきた。「差別や偏見があるのは社会が病んでいるから。政府が責任を持って変えてほしい」と訴えた。アドバイザー就任を依頼され、悩んだ末、最終的に引き受けた。

 「怖くて最初は何もしゃべれなかった」。それでも毎週、東京へ。どうすれば議員に協力してもらえるかを探り、官僚とも法案の言葉遣いなどで議論した。16年、最初の理解増進法案(自民案)ができる。だが、国会には提出されなかった。

 21年の東京五輪前には、超党派の議員連盟が自民案をたたき台に協議。文言を修正し各党に了承されたが、自民内の反発もあり、棚上げとなった。

 再び機運が高まり、今国会に提出されたのは超党派案を修正した与党案、修正される前の野党案、さらに別の野党案。性自認の表記、差別禁止の表現などで3案は異なる。性自認を巡っては「(法律ができると)女性を自認する男性が女子トイレや女湯に入ることが認められる」といった誤った懸念が一部で上がり、一方、与党案の「不当な差別」という表現にも不満が根強い。

 繁内さんはもうアドバイザーではないが、3案とも「言葉が違うだけで、法律的な内容は何も変わらない」。県会での問題発言から9年。まずは成立を、との考えだ。

 「審議入りへ与党は腹をくくったし、野党もよく応じてくれた。今の法律には性的少数者についての文言はなく、存在すらしない状態。足らずがあっても、法律をつくることが一歩。1があるから2も3もある」

 繁内さんとは異なる考えの当事者も多い。国会はどんな結論を出すのか。(高田康夫)

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