相席で全国ブレイクの予感…真面目が面白い、西川忠志に迫る

「なにわのロイヤルファミリー」と聞けば、関西で知らない人はほとんどいないのではないか。西川きよし、ヘレンの夫妻と3人の子どもたち。そんな西川家の長男で、吉本新喜劇座員の西川忠志が全国的に脚光を浴びつつある。

「祇園花月」の出番合間、インタビューに答える西川忠志(コロラド祇園店にて)

■ ロケ先で「ゾロ目」に異常な反応を示す忠志

きっかけは4月4日放送のバラエティ番組『相席食堂』(ABCテレビ)への出演だ。京都府舞鶴市へやって来た忠志はカメラの前で、このロケ日が「2月22日」であることに喜びを隠しきれずにいた。

なぜなら、かつて父・きよしが同番組のロケでMCである千鳥・ノブの実家を訪問した日が「2月22日」であり、しかもその日がノブの父親の誕生日だったからだ。さらに忠志の出演回の放送日は「4月4日」。忠志は「ゾロ目は縁起が良い」として、ロケ各所でゾロ目を見つけると大興奮し、逆にゾロ目を発見できなければ大きく落胆した。

何事にも真面目に取り組んで一喜一憂する忠志に、千鳥の「ちょっと待てぃボタン」を押す手が止まらず、大悟、ノブは「魅力的やなあ」「(リアクションが)5億くらい当たったときの顔やん」「なんでも撮れ高にする」など絶賛。これまで父・きよしの出演回が同番組の「伝説」とされていたが、千鳥は「それを超えた」と忠志のロケ術に驚がくした。

また放送後のSNSでは、「相席の西川忠志、おもしろすぎる 涙出るくらいわろてる」「神回」「こんなまっすぐに面白い人この世に存在するんだ」「西川さん強すぎてフワちゃんがかすんでてビックリしちゃったわ」と驚きの声があがっていた。

■ 「関係者のみなさんのおかげ、僕は普段通り」

「たしかに僕はロケへ行かせていただきましたし、ご覧になった方が『面白い』とおっしゃってくださるのであれば、それはカメラマンさん、ディレクターさん、編集の方、そして千鳥さんのツッコミなど、関係者のみなさんのおかげです。僕は普段通りでしたから。視聴者の方も含めて、チームワークであのときの番組が成り立ったと考えています」。

『相席食堂』のオンエアを振りかえり、複雑な表情を浮かべる西川忠志

そのように実直に語るのは、忠志本人だ。忠志は「あの日はほかにも、旅行中の母娘に話を聞き、学校を卒業して春から就職する娘さんがお母さまに感謝の言葉をおうかがいしたり、二葉百合子さんの曲『岩壁の母』にまつわる切ないお話を男性の方が聞かせてくださったり、感動的なことがたくさんあったんです。個人的にはやはり、そんなみなさんのお話をすべて放送してほしい気持ちでした。しかしそこはバラエティ番組ですから、『全部』というのは難しい部分があります」と、唇を強く噛み締める。

■ 座長・アキが証言「忠志さんはまるで先生」

取材開始からたった数秒で伝わってくる、忠志の真面目さ、一生懸命さ、そして真心。そんな彼について、吉本新喜劇座長のアキに話を訊くと、「忠志さんの言葉遣い、受け答えはまるで先生のようです。僕のなかでは、忠志さんと藤井隆くんがそういう存在。『こういうとき、忠志さんや隆くんはどういう対応をするんやろう?』と考えるんです。吉本のなかでもふたりはずば抜けて腰が低く、人柄が柔らかいんです」とリスペクトを口にした。

西川忠志について話をする新喜劇座長・アキ

同じく吉本新喜劇の座員・浅香あき恵は「どうやったらこんな風に育つんやろうって、不思議で仕方ないんです。忠志さん、弘志さん、かの子さんの西川家3兄妹が似たような性格なら、お父さま、お母さまがそのように育てたんやと分かります。でも、忠志さんだけあんな状態ですから(笑)。ご両親の要素だけではなく、忠志さん本人の資質もあると思います。どんな物事でも決して悪くとらえず、純粋に生きていらっしゃる。そういう生き方でいろんなことを乗り越えてきたのではないでしょうか」と、忠志の人間性を分析する。

■ 西川忠志が決まりごとを破れない理由

5歳の頃から役者をやっていた忠志。いくつかの芸能事務所を経て、吉本新喜劇に入ったのは2009年3月。当時、40歳だった。

忠志は「入団したとき、座長だった内場勝則さんが『新喜劇に入ったからって、今までのスタイルを変える必要はないよ。変に笑わせようとするとおかしな方向になるはずだから』とおっしゃってくださったんです。そのおかげで、役者として真面目に舞台に立つことができています。それに僕は、真面目な芝居でしか自分を生かすことができませんから。ただ、まわりのみなさんが『真面目か!』とツッコミをいれてくださることで笑いが起きるようになりました」と、14年前を振りかえる。

「祇園花月」での劇場合間は周辺を散歩するという西川忠志。途中、川沿いで綿毛を吹いていた

物心ついたときから真面目。忠志は「本当に小心者で、決まりごとを破るのが怖かったんです」と話す。特に大きかったのが両親の存在。「親に迷惑をかけてはいけないと、ずっと考えていましたから。警察沙汰なんてもってのほかですし、校則を破って親に迷惑をかけることもできません。ですから、校則に『下校時は寄り道をしてはいけない』とあれば、僕はそれを曲げられませんでした」と、ロイヤルファミリーの長男としての意識が強かったという。

■ 浅香あき恵も驚く、公演初日の暴走ぶり

しかしアキは、そんな忠志に秘められた「怪物ぶり」についてこのように語る。「忠志さんは真面目だけど、ヤバいものも持っている。『相席食堂』で映っていたのはそのほんの一部。それなのに、同じ回でロケに出ていたあのフワちゃんが普通に見えたじゃないですか。あれはフワちゃんではなく誰がやっても、忠志さんの前ではそうなるんです」とアキ。

続けて「やっぱり持って生まれた血、DNAなんですよ。小さいときからエグい教材を近くで見ていたわけだから。だって、やすし・きよし師匠ですよ? しかもヘレンさんもいる。だから忠志さんは、あれでもまだ力を押さえている。あの人は重しを外していません!」と話す。

「役者としてあそこまで暴走できる人は珍しい」と話す新喜劇座員・浅香あき恵

浅香も同感のようで、「新喜劇の舞台でも、役として時にとんでもない暴走を始めることがあるんです。それは決して悪い意味ではなく、忠志さんは自分が思ったことをまずやってみるタイプということなんです。そして、そこからいろんなものを削ぎ落としていかれます。だから公演初日の暴走ぶりはすさまじく、公演最終日はものすごく洗練されている。役者として、あそこまで暴走できる人は珍しいです」とベテランもうなるほど。

たしかにそれは出演するテレビ番組などを見ていても感じられる。たとえば『発見!仰天!! プレミアもん!!! 土曜はダメよ!』(読売テレビ)でレポーターをつとめるときも、前触れもなくいきなりクイズを出すなどし、VTRを観ている出演者を困惑させることが多々ある。

散歩中、「鳩ってなんで通電せえへんのでしょうね?」と疑問を持つ西川忠志

忠志自身は「僕はそれを意識したり、演じているわけではないんです」と、わきあがってくるものをそのまま出しているだけだと話す。

「ですからバラエティ番組の出演をいただく際、スタッフの方から『あの番組でやっていらっしゃったようなことを、お願いしたいです』と言われるとすごく難しいんです。それを無理なく自然体でやるにはどうすれば良いのか、と考え込んでしまいます。バラエティ番組に出演していらっしゃるタレントのみなさんは自然にやっていらっしゃいますから。いろんなものを見聞きして、本当に勉強、勉強の日々です」。

■ 西川忠志「『芸人』という肩書きは名乗れません」

バラエティ番組での注目度が上がってきている忠志だが、本職は役者である。

アキが「忠志さんは本もたくさん読んでいらっしゃるから、持っている引き出しが多い。ちゃんと芝居ができるうえに、アドリブが求められるときものびのびとやっていらっしゃる。普通の人だったら『これ、30分もちますか?』という台本であっても、忠志さんとだったら1時間以上やっても時間が足らんくらいいけるんです」と言えば。

浅香も「新喜劇に入ってきた時点で役者経験も豊富だったし、本来なら『ちょっと違うな』とやり方などが受け入れられないこともあるはず。でも忠志さんは『この場合はどうしたらええんでしょうか』とみんなに尋ねていました。イチから人の話を聞いて、そのなかで自分でチョイスしながら役者としての自分を作り上げていかれました」と、芝居との向き合い方を高く評価。

「祇園花月」出演時はよく行くという喫茶店「コロラド祇園店」。お気に入りはサンドイッチとバナナジュースだそう

忠志は「吉本興業には、漫才、落語などいろんな芸をされる方がいらっしゃいます。僕はお芝居をする人も『芸人』だと思っています。ただ、父をはじめ多くの芸人さんを見ていたこともあって、『芸人』という言葉をリスペクトしすぎて自分に使うことはできないんです。ですから、吉本興業に所属はしていますが自分は『役者』『俳優』と述べています。もちろん、その肩書きが下だという意味では決してございません」と、ずっと「芸人」とは名乗れないのだという。

「森繁久彌さん、杉村春子さん、森光子さん、山田五十鈴さん、藤山直美さんなどは根本に喜劇性を持ち合わせていながら、シリアスな作品、コメディの作品、いずれであってもお芝居に重みが感じられます。僕が新喜劇に入れていただいた理由はそういう技術をもっと磨きたかったから。そのためにこれからもお芝居に真摯に取り組みたいですし、バラエティ番組のお話をいただいたときも、一生懸命、感謝の気持ちを忘れずにお役目をつとめたいです」と殊勝に話す忠志。

これからさらに活躍の場が広がったとしても、そのまっすぐな姿勢が変わることはなさそうだ。

西川忠志出演の「吉本新喜劇」は、6月6日〜12日のアキ座長公演、20日〜26日のすっちー座長公演、27日〜7月3日の酒井藍座長公演(すべてなんばグランド花月)。

忠志のロケは『ゴエと忠志のDEEP関西』(eo光テレビ ※ネットでも視聴可能)や『土曜はダメよ!』(読売テレビ・不定期)で見ることができる(『相席食堂』出演回は『Amazon Prime video』にて)。

取材・文/田辺ユウキ 写真/木村華子

© 株式会社京阪神エルマガジン社