薬師丸ひろ子 初主演!青春映画「翔んだカップル」は相米慎二にとっても初監督作品!  6月9日は薬師丸ひろ子の誕生日!

「野性の証明」でスクリーンデビューした薬師丸ひろ子

スクリーンデビューとなった作品『野性の証明』で知った自分と同学年の少女。雑誌で初めて見たのは、映画のオーディションでヒロイン役に選ばれてから本名の “薬師丸博子” で載った少年チャンピオンの小さな記事だった。

それからほどなく、撮影現場の様子を毎号紹介していた角川書店の雑誌『バラエティ』の愛読者となる。映画、テレビ、音楽などエンターテインメント全般を押さえた良質の雑誌であったが、最たる目的としては薬師丸ひろ子の情報を得るために毎月購読するようになったのだった。

哀しき男子校生だったので、クラス全員が薬師丸ひろ子の動向に注目していた。『野性の証明』が公開されたのは1978年で、薬師丸も僕らも中学2年の秋。翌1979年、中学3年になると高校受験を控えた彼女は女優業を休止する。しかしながら、『バラエティ』誌のグラビアをはじめ、夏の角川文庫キャンペーン「時間がないんだ青春は」のポスターに登場したり、写真集『薬師丸ひろ子フォトメモワール』の発売、さらには12月に公開された角川映画『戦国自衛隊』にワンシーンだけ出演するなどといった話題が連なり、僕らの薬師丸不足は補われていた。

高倉健からのアドバイス? 初主演作「翔んだカップル」で女優復帰

とはいえ気になるのは本格的な女優業への復帰なわけで、次の映画を心待ちにしていたところ、1980年になってから届いたのが『翔んだカップル』に主演決定の報せであった。前年から水面下で交渉され、本人の意思を尊重しながら慎重に進められていたそうで、最終的に出演を決断したのは『野性の証明』で共演した高倉健からのアドバイスだったという話もある。

意外だったのは角川映画ではなく、東宝とキティ・フィルムの提携作品であったこと。本作の主題歌で歌手デビューという線も考えられていたのかもしれない。それは結局、次の主演作となる『ねらわれた学園』でも叶わず、1年以上先の『セーラー服と機関銃』までおあずけとなってしまうのだが。『翔んだカップル』は少年マガジンに連載されていた柳沢きみおの漫画が原作で、映画公開当時には単行本も既に10巻まで刊行されて人気を呼んでいた。

映画制作中に16歳となった薬師丸ひろ子の豊かな表情

薬師丸演じる山葉圭は、都内有数の進学校に通うことになった高校1年生。つまり実年齢と一緒の役であった。不動産屋の手違いから圭と一つ屋根の下で同居生活を送ることになる田代勇介役には、『3年B組金八先生』で注目された鶴見辰吾が抜擢された。

ほか、まだ14歳だった尾美としのり、新人の石原真理子らが出演。監督の相米慎二はこれが第1回作品となる。石原が杉村秋美役に決まるまでには劇的なストーリーがあったのだが、それはまた別の話。

公開直前に出された雑誌『バラエティ』でも特集が組まれて士気が上がり、封切り日を心待ちにした。当初7月12日に公開される予定だったのが2週間遅れの26日となったのはまだいいとして、併映作がアニメ『まことちゃん』というのはミスマッチだったのではなかろうか。

東宝映画では、1963年に『ハワイの若大将』と『マタンゴ』が同時上映されて以来、いや、1974年の『ノストラダムスの大予言』と『ルパン三世 念力珍作戦』以来の不思議な二本立てであった。

ともあれ、初主演や初出演、初監督など初もの尽くしだった青春映画は実に瑞々しく、新鮮な輝きに満ちていた。映画制作中に16歳となった薬師丸ひろ子の豊かな表情を見るだけでも充分価値のある作品である。パンフレットに寄稿された相米監督の文章でも、

「この映画は15・16歳の俳優たちの素晴らしい資質に支えられていたのです。ひろ子君は魅力的だ。肉体が自由に躍する時の緊張感はすごい。俺のどんな言葉もひろ子君の肉体のまえに無力になってゆく感覚は恐ろしい程でした。」

―― と絶賛されている。

1982年には、ディレクターズカット版「翔んだカップル オリジナル版」がビデオ化

主題歌は4人組のバンド、ルイスの「BOYS」、挿入歌はH2Oの「ローレライ」で、前者は東芝EMIのイーストワールドレーベル、後者はポリドールのキティレーベルからシングル発売。H2Oはこれがデビュー曲となる。

その後『うる星やつら』の一連の曲などを手がけることになる小林泉美が音楽を担当したサントラLPもキティからリリースされた。「ローレライ」はジャケットに薬師丸と石原の写真がしっかり使われたことも含めて、それらすべてを迷わずに購入したことは言うまでもない。

映画のあと、10月からはフジテレビ系でドラマ版の放映も始まっている。映画とは雰囲気が全く異なるドタバタコメディーながら、H2Oが歌った主題歌「僕等のダイアリー」は名曲だった。桂木文の山葉圭も抜群に可愛いかったが、自分にとっての『翔んだカップル』といえばやはり薬師丸ひろ子ということになる。

1982年には長尺のディレクターズカット版『翔んだカップル オリジナル版』がビデオ化され、翌1983年には劇場でも公開された。

等身大に近い高校生役を演じた「翔んだカップル」

次作の『ねらわれた学園』ではSF、さらに次の『セーラー服と機関銃』ではヤクザの組長と、かなり非日常な設定が展開されてゆく中で、極めて等身大に近い高校生役を演じた『翔んだカップル』は、初期からの薬師丸ひろ子ファンには絶対に忘れ難い映画なのだ。

あれから40年以上経ってしまった今でも、たまに作品を観ると、毎日がなんとなく閉塞的でせつなかった青春期の記憶が甦る。それにつけても男子校に通ってしまった自らの6年間がつくづく悔やまれてならない。

カタリベ: 鈴木啓之

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