ハイテクAI人形が殺人マシーンに!?『M3GAN/ミーガン』は恐怖と笑いの絶妙なバランスを搭載

『M3GAN/ミーガン』© 2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

ホラー“ならでは”の見せ方で差別化

物語を破綻させることなく、人々を怖がらせる物語を創造する――言うのは簡単だが、これは非常に難しい。恐怖を求めるあまり突飛な設定や構成をしてしまっては、一般層に振り向いてもらえずマニア向けの作品になってしまう。かといって破綻を怖がっていては、恐怖を得ることはできない。その点、『M3GAN/ミーガン』は絶妙なバランスで作られている。

基本プロットは、自動学習型知育ロボット“M3GAN”の暴走。正直かなり凡庸だ。しかし本作は、ホラー映画ならではの「見せ方」で差別化を行っている。

※注意:物語の内容に一部触れています

AI人形の“優秀すぎた”学習能力

玩具大好きな少女ケイディ。いま彼女が熱中しているのは、タブレットで操作して遊ぶ“ペッツ”だ。ケイディは片時も“ペッツ”を手放さず、車での移動中も熱心に遊んでいた。玩具に傾倒する彼女を巡って視界の悪い雪道で口論を始める両親。それが不注意へとつながり、車は除雪車と正面衝突。ケイティを残して両親は死亡する。

孤児となったケイディは、叔母のジェマに引き取られる。彼女は“ペッツ”の開発者だったが、売り上げが滞る“ペッツ”のコストダウンを強いられ、ケイティの面倒を見る暇などなかった。だが、彼女は自動学習ロボット“M3GAN”を秘密裏に開発しており、試験段階の“M3GAN”をケイディに与える。

ケイディの保護を優先するよう命じられた“M3GAN”は、その強力な学習能力を発揮。落ち込んでいたケイディは見る見るうちに元気になっていく。ここぞとばかりにジェマは“M3GAN”を上司にお披露目し、製品化の許可を得る。しかし“M3GAN”の高い学習能力によって、事態は思いもよらない方向へと進んでいく。

ケイディへの“違和感”が暗示させる暴力的な素顔

「思いもよらない方向」と書いたが、便宜上書いたのみで予告編や前評判通りの方向である。「大筋が予想できる」ことが、絶妙なバランスを持たせているのだ。

本作は、冒頭からバランスを保つための“撒き餌”を十分に行う。ケイディは車内で“ペッツ”に夢中になっているが、この時点で彼女が“まともではない”ことが示される。

“ペッツ”は往年の“ファービー”を彷彿とさせるキモさ満点のぬいぐるみ。しかもご飯を与えすぎると糞をする奇天烈な代物だ。そんな“ペッツ”に淡々と餌をやり続けるのだから、ケイディはかなり“変”ではないだろうか?

この違和感は中盤以降、寝食を忘れ“M3GAN”を溺愛し暴力まで振るうようになるケイディの姿を暗示させる(暴力を振るうのは“M3GAN”だけでなく、その影響下にあるケイディも狂暴な性格を露わにするのだ)。

もちろんジェマも同様だ。彼女は生粋の玩具開発ギークゆえに、幼いケイディの“教育”を忘れるどころか、彼女を実験材料とした“M3GAN”の開発に夢中になる。結果、誰も望まない“M3GAN”の暴走へとつながっていく。

勝手に作られ弄ばれた「フランケンシュタイン」のような存在

また『ミーガン』は、あえてミスリードを促すような宣伝を行っている。整っているけれど不気味な容姿、そしてあの奇妙なダンスが目を引く予告編は、“従来の人形ホラー”を思い起こさせる。しかし、タイトルに反して『M3GAN/ミーガン』の主役は、“M3GAN”の周囲の人々だ。あくまで“M3GAN”は狂言回しの立場にある。

彼女は最終的に無邪気な殺人マシーンと化してしまうが、それは技術力を過信したジェマ、利益を最優先した会社、そしてそれらに甘えたケイディがもたらした結果なのだ。つまるところ“M3GAN”は、勝手に作られ、いいように扱われてしまった「フランケンシュタイン」のようなものだ。

しかし、説教くさい社会派ホラーと思うなかれ。秀逸な表現で恐怖と笑いを行き来することで、小難しい雰囲気にならないよう配慮もしている。件のダンスがいい例だ。ほかにも「え?」と思わせるシーンがいくつもあり、非常に楽しめる作品に仕上がっている。残酷描写を抑えてPG-12指定にしていることもあり、ちょうどいい案配のホラーに仕上がっているのだ。

新鋭ジェラルド・ジョンストンの次回作は『M3GAN 2.0』

ちなみに米国版ソフトにはアンレイテッド版が収録されており、Fワード台詞と残酷描写が追加された、ホラーマニアも納得の内容となっている。

『マリグナント 狂暴な悪夢』(2021年)でタッグを組んだジェームズ・ワンとアケラ・クーパーの生真面目な脚本を遊び心を生かして演出したのは、日本ではまだ無名のジェラルド・ジョンストンだ。出世作『ハウスバウンド』(2014年)は、自宅軟禁処分で幽霊屋敷に滞在することになったヤンキー女のホラーコメディ。『M3GAN/ミーガン』同様、幽霊は狂言回しで、メインに描かれるのは一家のドタバタ劇となっており、非常に楽しい作品だ(『ハウスバウンド』は2023年7月〜8月に行われる<カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2023>で上映予定)。

ジェラルド・ジョンストンはバランス感覚に長けた監督。次作は『M3GAN 2.0(原題)』とのことで、今から楽しみだ。

文:氏家譲寿(ナマニク)

『M3GAN/ミーガン』は2023年6月9日(金)より全国ロードショー

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