釘を打つときのハンマーの強さは物理学でどのように計算できるの?【すごい物理の話】

ハンマーで板に釘を打つときの計算式

ハンマーを金かな鎚づちとかゲンノウやトンカチとかいいますね。標準的重さは375g(昔の単位なら100匁)です。このまま静かに釘の頭に乗せると、釘の頭にかかる力は0.375kg×9.8m/s2=3.7N(m/s2は毎秒毎秒メートル。Nはニュートンで力の単位)という力になります。ですが、ハンマーを乗せるだけで釘が木の板に刺さっていくとは誰も思わないでしょうね。ふつう、ハンマーを持てば、振りかぶってトントンカチカチと音を立てて、釘を打っていくと思います。

では、ハンマーで釘の頭を打てば、どうして釘が板に刺さっていくのでしょう?これにかかわるのは「撃力」で、打撃や衝突における物体間の接触力です。J ÷衝突するものどうしの接触時間Δtで表します。逆にJ=FΔtと書いたときのJを力積(インパルス)と呼びます。力積の単位はNs=kg・m/sなので、運動量を表すものと同じになります。

つまり、撃力というのは短い時間での運動量変化ということです。力積が同じであれば接触時間が短い(デルタティーΔtが小さい)ほど瞬間的にかかる撃力Fは、F=J/Δtとなって大きくなります。ハンマーヘッドの質量をmh、振り下ろし速度をvh1としましょう。釘そのものの質量は小さいのですが、板に刺さっていくときの摩擦力を加えた質量をmnとします。

その前提で「運動エネルギー保存則」と「運動量保存則」から衝突後のそれぞれの速度vh2、vn2を求めた結果、釘を打ったときにハンマーがほぼ止まっているので(vh2=0となる場合に相当)、釘はハンマーのうち下ろし速度と同じ速度で刺さっていくと考えられるのです。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』著/望月修

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』
著:望月修

物理学は、物質の本質と物の理(ことわり)を追究する学問です。文明発展の根底には物理学の考えが息づいています。私たちの生活の周辺を見渡しただけでも、明かりが部屋を照らし、移動するために電車のモーターが稼働し、スマートフォンの基板には半導体が使われ、私たちが過ごす家やビルも台風や地震にも倒れないように設計されています。これらすべてのことが物理学によって見出された法則に従って成り立ち、物理学は工学をはじめ、生命科学、生物学、情報科学といった、さまざまな分野と連携しています。……料理、キッチン、トイレ、通勤電車、自動車、飛行機、ロケット、スポーツ、建築物、地震、火山噴火、温暖化、自然、宇宙まで、生活に活かされているもの、また人類と科学技術の進歩に直結するような「物理」を取り上げて、わかりやすく図解で紹介。興味深い、役立つ物理の話が満載の一冊。あらゆる物事の原理やしくみが基本から応用(実用)まで理解できます!

© 株式会社日本文芸社