第44回「歪んだ事実」

Text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

どう考えても殺すのはおかしいと思うのが“常識がない”ということなら、常識がなくて良かったと心から思う

マザー・テレサとジェフリー・ダーマーが生命について話すのと同じかどうかはわからないが、殺すなと訴える人間と、殺すことを支持する人間は話が噛み合わない。 死刑弁護人という映画にもなった、死刑囚たちを国選弁護人として弁護する弁護士の安田好弘氏が、世間でバッシングされているのも、殺すか殺さないかという争いのひとつだと思う。 殺したのだから死んで当たり前。そういった意見が世間の大半を占めているし、自民党や公明党、維新の会の議席が多いのも、世間の大半がこの政党たちを支持しているから選挙で受かる。これが現実だ。 なんで自民公明維新のような政治が支持されるのかが、俺にとっては甚だ理解ができず、殺してはいけないという人として当たり前の感覚が、殺して当たり前という考えになるのも理解が及ばない。 ジェフリー・ダーマーにも殺人の理由があるように、殺すのが正しいと信じている理由はあるのだろうが、理由があることは理解できても、理由そのものは理解ができない。

(ジェフリー・ダーマー:1978年から1991年にかけて、17人の青少年を殺し、その後、屍姦、死体切断、人肉食を行なった、アメリカの連続殺人鬼)

なぜそこまで「殺す」という行為を、自分の中で正当化できるのだろうか。統一教会などのカルト宗教を支持する、洗脳された人々が陥る感覚や思考と、大差がないように感じてしまう。 「連続殺人鬼やカルト宗教と一緒にするな!」 と聞こえてくるとしたら、俺の幻聴ではないと思うが、実際に殺す行為を支持する考えの人々は、狂信的に思える反応と、判子をついたように同じ答えばかりだ。 俺はどうしても、殺す行為を理解したいとは思えないし「殺していいわけがない」というシンプルな理由で、ものごとを考えてしまう。まぁ頭が悪いだけなのかもしれないが、殺すよりも殺さないほうが絶対にいいと思っている。 殺さないほうがいいと思うので戦争は支持しないし、無くなればいいと思っている。 実際に戦争へ行って殺してしまったために、その悲惨さを知るからこそ戦争に反対する人も存在するので一概には言えないが、実際に殺す行為を支持しながら、戦争に反対している人がいるとしたら、かなり不思議だと思ってしまう。 差別には反対なのに、見た目や論理的思考の有無や違いで、自分の欲望のために殺して罪悪感のかけらもない人物がいるとしたら、それもやはり、かなり不思議に感じる。 表現を生業としているので、「世の中は不思議なことだらけだな」などと言って、のほほんとしていられないので、やはりおかしいものにはおかしいと言ってしまう。 するとネットの上で「ネット情報ばかりで言っていて、頭が悪い」と、俺をネット情報で判断した人に言われたりするので、やはり不思議なことだらけだ。 噛み合わない者同士が、どうやったら歩み寄れるのだろう。別に歩み寄る必要はないのだろうか? そうだよな。どうしたって殺したい思考の人間に、歩み寄る必要はないよな。 しかしなぜそこまでして殺したいのか、理由は聞いたほうがいいとは思う。その中には、本当は殺したくないという純粋な思いもあるかもしれない。殺されたら嫌だという、生き物としての本能もわかっているはずだ。それならば歩み寄れる方法が、見つけ出せるかもしれない。 方法なんかいくらでもある、きっかけだってなんでもいい。どうにかして殺す行為を、極力やめられるようにならないのだろうか。 原因や理由がわかれば、繰り返さないように対策は取れるはずだ。 死刑囚だって殺した理由がある。その理由が解明されれば、同じような事件は防げる可能性がある。 差別する奴にも理由がある。その理由が解明されれば、この先差別が少なくなっていく可能性がある。 戦争にも理由がある。その理由が解明されれば、戦争が減っていく可能性がある。 全てはなくならないかもしれない。しかし、なくならないからといって指をくわえて見ているだけでは、今より減ることはない。 時代は変わりつつある。というか、明らかに変わっていっている。情報の取捨選択が難しい現代ではあるが、今まで当たり前だと思っていた常識の中でも、旧時代のままアップデートされていない情報や習慣、感覚もあるはずだ。 自分が生きてきた時代に、世の中では何が行なわれていた? その時代に生きた人間だからこそ、変えなければならないものがわかるはずだ。 うちの親父が言っていた。「戦後は何も食べ物がなかったから、なんでも美味しく食べられる」 戦後は何もなかったため本当に苦しかったという話は、何度も聞かせてくれた。しかし今の時代、なんでも美味しく食べられるなら、何もかも食べるのではなく、身体に良いものや環境を破壊しない食べ物を選べばいいじゃないか。俺の感覚がおかしいのだろうか。 変わるのは悪いのか? 誰が好き好んで悪いほうに変わろう・変えようと思うんだ? 自分自身の中にある、刷り込まれた間違った常識を守るためや、欲望を満足させるために自分を正当化しても、死んでしまうものたちは世界中で増えていく一方だ。 それって、腹の立つ許せない奴らがやっていることと、一体どこが違う? それって、自分が一番腹の立つことをやっていないか? 自分への裏切り行為にはならないのか? 責めているわけではなく、俺は自分にこう問いかける。するとやはり世の中は、心の底から本当に不思議なことだらけになってしまう。 死にたくないし、殺したくない。その思いを極力実践していく中には、希望が存在している。生命に対する希望を求めて生きているだけで、俺にだって欲望はあるし、欲望に弱い人間ではあるが、生命の搾取は間違っていると思う。 どう考えても殺すのはおかしいと思うのは、俺に常識がないからなのだろうか。それなら常識がなくて良かったと心から思う。そんな常識は洗脳と変わらない。 真実を攻撃するような、歪んだ事実に相槌は打てない。殺すのをやめろ。

WARHEAD『TO PUBLISH THE TRUTH NOW!!!(今すぐ真実を出せよ)』

狂った事実と吊るし上げ すり替わる訳などない

嘘で固めた歴史振り返り 一体何が解る?

古びた神話が アホな常識が 崩れ去った 今も

平気な面で繰り返す戯言を…

TO PUBLISH THE TRUTH NOW!!!

TO PUBLISH THE TRUTH.

犯され続ける 今 生き続ける現実

広がり続ける腐敗と諦め そいつが常識

歪んだ事実に相槌打ってるクソったれ共AAAAARGGH!!!常識なんかいらない!!!

TO PUBLISH THE TRUTH NOW!!!

TO PUBLISH THE TRUTH.

奪われた思考の自由 未来

失った言葉 溢れ出る感情

変わり果てた 今と 変わらない日常

今こそ奪い返せ 怒りをよ!

TO PUBLISH THE TRUTH NOW!!!

◉WARHEADは1990年に京都で結成されたハードコア・バンド。親交の深いイギリスのCHAOS U.K、FUKのギタリストGABBAに“HARDEST CORE”と表現されたこともある。「TO PUBLISH THE TRUTH NOW!!!」は、2014年12月にBloodsuckerより発表されたアルバム『WARHEAD』に収録。

【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。

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