ローブも「勇気づけられた」と新型ランチア・デルタにご満悦。実力派女性陣も続々とRX2e参戦へ

 WRC世界ラリー選手権”9冠”のレジェンドであり、2018年以来となるWorldRX世界ラリークロス選手権復帰参戦を果たしたセバスチャン・ローブは、今季ドライブする電動モデル『Lancia Delta Evo-e RX(ランチア・デルタEvo-e RX)』のパフォーマンスに関し「(開幕戦の)最終結果には失望しているが、その潜在能力とポテンシャルには勇気づけられた」と語り、遠くない将来の表彰台獲得に自信をみせた。

 また、第2戦ノルウェーのヘル戦より併催イベントとして開幕する電動ワンメイクのステップアップ選手権、FIA RX2e選手権に、ミカエラ-アーリン・コチュリンスキーとクリスティーナ・グティエレスの実力派女性ドライバー参戦が相次いで発表されている。

 WRC黄金期の伝説的なGr.A時代にインスピレーションを得た、象徴的でレトロなカラーリングをまとったスペシャル・ワン・レーシングの新型フルEV車両は、6月3~4日にポルトガル・モンタリグレで開催された2023年のWorldRX開幕戦で文句なしの注目を集めた。

 2台目のシャシーはイベント開始の数日前に完成したため、プレシーズンテストの機会をすべて逃して現地入りしたことになるが、初日はセッティングの調整に費やされ、ローブとしてもチームとしても「このハイレベルな世界選手権で、どの位置につけて戦えるのか」が見通せないまま競技に入った。

 しかし初日のヒート1でかつての“仇敵”マーカスの子息であるニクラス・グロンホルムと、観衆を喜ばせるホイール・トゥ・ホイールの対決を繰り広げると、続くヒート2ではランチア・デルタEvo-e RXの世界選手権初勝利をマーク。すぐにペースを把握したWRC“ナイン・タイムス・チャンピオン”は、このデュアルサーフェスの競技から約4年間も遠ざかっていたにも関わらず、全体で3番目の順位で初日を終えた。

 ヒート3こそ電気的な問題で出走を見合わせ、続くヒート4では8位と、セミファイナル進出が危ぶまれたが、なんとか最後のスポットを獲得してファイナル進出の扉をこじ開けると、雨が降り始める厳しいコンディションの中、最終決戦では5番手を走行。しかし残り2周の時点でパンクを喫し、デビュー戦は最後尾6位で終える結末となった。

「もちろん、決勝の結果には少しがっかりしている」と振り返った49歳のローブ。「とても良いリズムで、戦略も完璧だっただけに悔しいね。ただ我々はこの分野のスペシャリスト、つまり電動RX1e車両に関して断然経験豊富なチームと戦っているわけで、それを考えれば良いレベルのパフォーマンスを示せたと思う。現時点でヨハン・クリストファーソンは明らかにアンタッチャブルだが……表彰台はそう遠くないはずだ」

 同じく、このプロジェクトの発起人で、チームの母体となるGCKモータースポーツを率いるゲラン・シシェリも、新車には避けられない初期トラブルにもかかわらず、世界選手権デビューには「満足している」と続けた。

「週末の初めは、セットアップで完全に迷っていた。しかしその後、興味深いものを見つけて各ヒートで前進することができたんだ」と、周囲のライバルより短いホイールベース設定を敢えて選択したシシェリ。

「お陰でこのクルマのブレーキは非常によく効くんだ。それに対し、もっとも改善する必要があるのはダートでのバランスだね。ノルウェーで次のステップに進むことができるよう、今後10日間をかけてすべてを分析するつもりだ」

WRC黄金期の伝説的なGr.A時代にインスピレーションを得た、象徴的でレトロなカラーリングをまとった『Special ONE Racing』の新型フルEV車両『Lancia Delta Evo-e RX(ランチア・デルタEvo-e RX)』
「現時点でヨハン・クリストファーソンは明らかにアンタッチャブルだが……表彰台はそう遠くないはずだ」との手応えを語ったセバスチャン・ローブ
最終決戦では5番手を走行。しかし残り2周の時点でパンクを喫し、デビュー戦は最後尾6位で終える結末となった

■エクストリームEにも参戦するミカエラ-アーリン・コチュリンスキーがRX2e開幕戦に登場

 6月17~18日に、その2023年WorldRX第2戦と併催されるノルウェー・ヘルでのFIA RX2e開幕戦には、STCCスカンジナビアン・ツーリングカー選手権の優勝経験者で、現在は電動ワンメイクのオフロード選手権、エクストリームEにも参戦するミカエラ-アーリン・コチュリンスキーが、新設のチームEからニルス・アンダーソンとのタッグで出場することがアナウンスされた。

 開幕3戦への出場契約にサインしたコチュリンスキーは、2017年から2021年まで参戦したTCR規定時代のSTCCで、ポールポジションと複数回の勝利を記録。最終年にはランキング2位でシーズンを終えた。

 さらにエクストリームE初年度にはケビン・ハンセンとペアを組んで4回の表彰台を獲得して年間4位、翌年にはニコ・ロズベルグのチームに移籍し、クリストファーソンとのコンビで5戦2勝、ランキング2位に戦績を上げている。

 カールスタッド出身で現在30歳の彼女は、今季もランキング3位につけるエクストリームEでの活動と並行し、新たな電動ワンメイク選手権への挑戦を決意。すでにスペインのカラファト・サーキットで『ZEROID X1』をテストしており、初戦から結果を残すと意気込む。

「今年の初めにRX2eをテストする可能性が生じたとき、間違いなく試してみたいと思った。昨年いくつかのラリークロス・イベント(北米のNitorRXでクロスカーをドライブ)に参加したから『もう一度やりたい』という衝動を感じたとき、この”Team E”との計画がまとまったの」と続けたコチュリンスキー。

「世界選手権と同じ週末に開催され、シリーズのトップレベルのドライバーとともに走れるから、ラリークロスのスキルを向上させるのにこれ以上の場所はないわ。今の私の目標は、段階的に学ぶことね」

「カラファトでは素晴らしいテスト日を過ごせたし、周りの素晴らしいチームが毎回速く走れるようにサポートしてくれた。ニルス(・アンダーソン)も現場にいたし、すぐに良い関係が築けたと感じている。カラファトはアスファルトのトラックで、私にとってはより経験がある路面だから、その他のトラックはより挑戦的であると確信してる。でも、それが私がここにいる理由よ。経験を積み、可能な限り限界でドライブするために挑むのだから!」

 同じくラリーレイドでは歴史的偉業を達成してきたスター、クリスティーナ・グティエレスも、ノルウェーとスウェーデンで開催される開幕2ラウンドでFIA RX2eのグリッドに加わる予定だ。

 2017年にダカールラリーで完走した初のスペイン人女性ライダーとして脚光を浴びた彼女は、その4年後には早くもステージ勝利からクラス表彰台を獲得。2021年には椎骨を3箇所も骨折しながら第2戦のカザフスタンで勝利し、晴れてクロスカントリー・ラリーで“FIAワールドカップ”タイトルを獲得した初の女性となった。

 そしてコチュリンスキーと同様にエクストリームEにも初年度から参戦し、ルイス・ハミルトン率いるX44で初年度はランキング2位に。引き続きセバスチャン・ローブとのペアで挑んだ2年目には、悲願の総合優勝を果たしてワールドチャンピオンに輝いた。

「新しい分野で競争する機会を持つことは、私がつねに探していることのひとつよ」と続けたスペイン北中部ブルゴス出身の31歳。「どんなクルマでもつねに多くの距離を重ねることが私にとっては重要であり、長い間このシリーズに参加することに興味があったの。目的はホイール・トゥ・ホイールのレースを学び、より快適に感じることに他ならない。経験豊富なドライバーたちと時間を共有し、この素晴らしい機会からできる限り多くのことを学ぶチャンスが得られて、本当にうれしく思っているわ」

電動ワンメイクのステップアップ選手権『FIA RX2e Championship』に参戦するミカエラ-アーリン・コチュリンスキー(右)
彼女はすでに、スペインはバルセロナ近郊のカラファトで『ZEROID X1』をテスト。初戦から結果を残すと意気込む
クリスティーナ・グティエレスも、残りわずかな日数ながら同じくカラファトでのテストを予定している

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