“繊維” から犯人像に迫る 新発見 広島県警 科捜研の「物理博士」

広島県警の捜査をサポートする科学捜査研究所には、高度な知識を専門とする研究員が勤務しています。「物理博士」の一面を持つ研究員のある発見に、期待が寄せられています。

広島市にある、県警 科学捜査研究所、通称「科捜研」です。

広島県警 科捜研 研究員 多田野渉 さん
「こちらが、物理実験室の研究室になります」

研究員の 多田野渉 さん(32)です。科捜研では、DNA鑑定をする「法医」や覚せい剤や違法薬物の鑑定をする「化学」など5つの分野でおよそ30人の研究員が働いています。

専門的な知識を武器に、警察官のパートナーとして捜査の一端を担います。例えば、特殊詐欺で電話をかける「かけ子」の声を分析することがあります。

声の分析(サンプル)
「警察に言うな」「警察に言うな」

科捜研 研究員 多田野渉 さん
「特徴を2つの声紋で見比べて、どういうところが似ているかを比較していく作業になります」

物理学が専門の多田野さんは、科捜研で勤務しながら広島大学の大学院で研究を続け、この春、ある論文で博士号を取得しました。

「繊維」に関係するその研究は、科捜研の鑑定と大きく関わりがあります。

広島県警 科捜研 研究員 多田野渉 さん
「事件が起きたときに現場に犯人が無意識に現場に残していくものの代表例の1つとして『繊維』がある」

科捜研では、現場に残された繊維を鑑定し、犯人像に迫ることもあるといいます。

広島県警 科捜研 研究員 多田野渉 さん
「被害者など、なにか物に残っていた繊維が、ある工業製品の繊維と同じ種類のものかどうかというのを識別する鑑定を科捜研では行っている」

繊維の断面には、ポリエステルやナイロンなど繊維の種類によって、さまざまな特徴があります。現場で採取した繊維を刃物で裁断して断面を確認していますが、小さな繊維を壊さないように裁断するには熟練の技術が必要です。

多田野さんは、数年前に属していた研究室で使われていた「ある装置」に着目します。

もともとは工業製品の開発過程で使われる機械ですが、採取された貴重な資料の断面を調べることもできるとひらめいたのです。

科捜研 研究員 多田野渉 さん
「繊維は粘着シートにペタッと鑑識の警察官が採取して、それを科捜研に持ってくるんですけど、(機械に)粘着シートごと繊維を入れるだけで、こういった形で断面を見ることができるという方法になります」

わずかな証拠を傷つけることなく、採取したままの状態で鑑定できることは大きな進歩だといいます。

容疑者のツメの間から採取した繊維を、現場の物と比較する…。被害者の体に付着した繊維から犯人像を浮かび上がらせる…。「繊維」の鑑定は、捜査を進展させる可能性を秘めています。

広島県警 科捜研 研究員 多田野渉 さん
「これまで学んできた物理学を使って社会の安心安全に少しでも貢献できる仕事がこれまでもこれからもやっていけるなら…。専門性を高めて、これからもがんばりたい」

捜査での実用化にはもう少し研究が必要だそうで、多田野さんの試行錯誤は続きそうです。日々、進化を続ける技術と向き合う専門家が、犯罪捜査を支えています。

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