コロナ禍で受注減、本業厳しいままだけど…キッチンカー「あだちのたこ焼き」きょうも快走 丹波

たこ焼きを焼く井本亮子さん(左)と足立遥紀さん親子=丹波市氷上町賀茂

 自動車部品を製造する「足立産業」(兵庫県丹波市氷上町賀茂)がたこ焼きのキッチンカー「あだちのたこ焼き」を始めた。新型コロナウイルス禍などによる受注生産減少をきっかけに、空いた時間を活用し異業種に挑戦。本業を維持しつつ、熱々のたこ焼きを届けに車を走らせる。丹波市商工会によると、コロナ禍を機に、起業や新規事業に乗り出す人が増えているという。(伊藤颯真)

 足立産業は1961年創業。代表の井本亮子さん(62)と、息子の足立遥紀さん(38)ら社員4人で会社を営む。

 コロナが感染拡大した2020年4月から徐々に受注が減り、生産は3分の1に。社員3人が辞め、残った4人の勤務日数は週5日から3日に減らすなどした。受注減を悔やむ話が増え、職場の雰囲気も暗くなっていた。

 井本さんは「社員に休んでもらい、給料も少なくなる状態を受け入れてもらった」と下を向く。

 2年半がたったある日、親子で仕事の話をしていたところ、足立さんが「たこ焼きでも焼こうかな」とつぶやいた。大阪市に住んでいた頃、たこ焼き屋でアルバイトしていた。

 井本さんは「すぐにピンときた」といい、直後の22年11月に「たこ焼き事業部」を立ち上げた。レシピやキッチンカーなどについて社員とも相談し、23年3月にオープンした。親子2人で調理接客し、市内を中心にまろやかでクリーミーなたこ焼きを販売している。

 たこ焼き事業部長に就任した足立さんは「本業が落ち込み、気持ちも沈んでいた。本当にやることがなくて。今は打ち込むことができて、不安になることも少なくなった」とはにかむ。イベントなどで販売後は、充実した疲労感があり、社員とも笑顔で会話するようになった。

 今年5月、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「5類」に移行したが、本業の自動車部品の受注件数はほとんど変わらない。

 井本さん、足立さん親子は「経営状況は厳しいままだが、精神面の負担は少し軽くなった。今後も本業とともに、多くの人にたこ焼きを食べてもらい、会社を存続させたい」と話した。

 味はソースとねぎ塩のみ。いずれも8個で税込み400円。月、火、木、金の午後3~6時は同社で販売。水、土、日はイベントなどで販売する。依頼があれば、自治会の集まりなどにも向かう。注文は公式インスタグラムから。

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起業や業態転換が増加 丹波市商工会の相談窓口

 丹波市商工会の相談窓口「Bizステーションたんば」を介した起業者数が増加傾向にある。窓口が広く知られるようになった上、新型コロナウイルス禍でチャレンジを決心する相談者が目立つ。

 窓口は2019年5月に設立。中小企業診断士が常駐し、無料で会員の相談に乗る。窓口を経由した起業者数は19年度に11件、20年度に15件、21年度に36件、22年度に28件と実績を積み重ねる。

 「コロナ禍や物価高で、資金繰りや集客に不安を感じて、相談に来る人も多い」と経営支援課の丸山卓也課長(44)。窓口は二人三脚で経営ビジョンを具体化していく「伴走型」のサポートをし、「相談者からの紹介で訪れる人が増えるなど、窓口の周知が進んでいる」と手応えを感じている。

 コロナ対策で経済産業省が21年4月に、業態転換や事業再編などの後押しを目的に新設した「事業再構築補助金」に応募する事業者もおり、同商工会関係分で23年1月までに50件にのぼる。農業による食料品製造業への参入や、飲食店の宿泊業への挑戦などが実現した。

 丸山課長は「コロナ禍をきっかけに、時間を有効活用して働こうという意識が強くなり、自分のペースを大事にした働き方が定着してきている。コロナが収束してもこの流れは続くだろう」と話した。

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