LGBT法案 迷走する自民党の内幕|和田政宗 特命委員会の役員は「懸念点は国会で十分な審議をし、払拭する」と党内の会議で我々に述べていたが、衆院内閣委員会での質疑は、10分×8会派で1時間20分、修正案についても約40分の計2時間だった――。

これまでのルールに反しないのか

「LGBT理解増進法」をめぐり我が党が迷走している。昨日9日、自民党は突如、維新・国民案を取り入れる法案修正をし、衆院内閣委員会で採決を行った。賛成多数で法案は可決し、来週以降、衆院本会議で採決される見込みだ。

この修正について、『維新の国会対策委員長のもとには、自民の保守派から「ありがとうございます」とお礼の電話が相次いだという』(6月10日朝日新聞)と、保守派も賛同しているかのような報道があるが、立憲・共産案に近づく修正にもなっており、法案に対する考え方は修正されても変わらないという衆参の同僚議員たちの意志は固い。こうした議員たちと現在、断続的に協議している。

今回の修正において重大な点は、自民党案の「性同一性」が「ジェンダーアイデンティティ」となったことである。自民党の会議において、法案推進派である「性的マイノリティに関する特命委員会」の役員は、一昨年の超党派議連案の「性自認」を「性同一性」にするので、「性自認」の定義などから生まれる様々な懸念は払拭できると主張した。

しかし、今回の修正の「ジェンダーアイデンティティ」の言葉の意味には、「性自認」も含まれ、自民党内での説明と完全に異なる内容の修正を行ったことになる。この場合ルール上、自民党内に持ち帰り、もう一度党内で議論するはずなのだが、今回それもなされていない。

そもそもこの法案の党内手続きは、反対者が多いなかで「部会長一任」と一方的に主張して進めた前代未聞のことであるが、党内での説明と違う大幅な修正を行っても党内手続きにかけないということはこれまでのルールに反しないのか。

そして、そもそも維新・国民案は、自民党内で強引に「部会長一任」を取り付けようとした会議の前に、自民党の保守系議員や特命委員会の役員のもとに届いていた案が原案となっている。これはある学者の方が提案したもので、自民党の会議で複数の議員がその提案に沿った修正を主張したが、その際に特命委員会の役員は「一字一句修正しない」と突っぱねている。

それなのに同様の修正を今回、維新・国民側としたということは、自民党所属議員の意見を否定したこととの整合性はどうなのか。我が党議員は自民党の支持者からの投票で選ばれており、自民党支持者の意見を無視したことにならないなのか。

自民党の部会で猛抗議する和田政宗議員(左)(画像は高鳥修一議員Twitterより)

性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案に対する修正案 対照表

十分ではない衆院内閣委員会での質疑

特命委員会の役員は「懸念点は国会で十分な審議をし、払拭する」と党内の会議で我々に述べていたが、衆院内閣委員会での質疑は、10分×8会派で1時間20分、修正案についても約40分の計2時間しか審議していない。これのどこが十分な審議なのかという意見が党員や支持者から多く寄せられている。

今回の修正においては、条文に「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」との文言が入ったので、女性のスペースなどは守られるようになったと述べる方もいるが、具体的には担保されていない。

「女性もマイノリティであり権利を守ってほしい」との主張に、私はしっかりと耳を傾けて施策を講じなくてはならないと考えており、今回の法案ではそれをどのように担保できるか、いまだに不明である。

また、今回の法案では、学校において、性的指向及びジェンダーアイデンティティについて児童等への教育に努めるということになっている。こうした内容が法案に盛り込まれていることについて、国民はどれくらい知っているのだろうか。内容を知った方々からは懸念の声が私のもとに寄せられている。

なお、米国・フロリダ州においては、公立学校で性自認や性的指向などについて議論することを禁じる法律が昨年成立し、当初の対象年齢は小学3年生までであったが、今年になって高校生まで拡大された。どの年齢からどこまで教えるのか、そもそも学校教育で教えるのかが米国などで議論になっているなか、このような内容が国民にほとんど知らされないまま盛り込まれ、実施されるということで果たして良いのだろうか。

維新の議員は法案に絡め同性婚の推進を主張

昨日の維新などとの修正案の共同提出では、自民党は虎の尾を踏んでしまったことに修正協議を進めた方たちは気付いているのだろうか。

昨日の衆院内閣委員会の審議では、維新の議員は法案に絡め同性婚の推進を主張した。自民党内には同性婚について反対の声が多く、党内のコンセンサスも全く取れていない。「LGBT理解増進法」を推進する特命委員会の役員も「法案と同性婚の話は全く別で、この法案が成立したから同性婚が進むわけではない」と説明してきた。

しかし、今回の修正案は自民や維新などの共同提出であり、維新は強力に同性婚を推進しており、自民党も同性婚に賛成したとの話にならないだろうか。

このような懸念や課題山積の法案である。党執行部はこのままこの法案を進めるのだろうか。先週の自民党の代議士会では中村裕之衆院議員が、法案への反対の声が多いなか進めた党内手続きの問題を指摘した上で、「内心に関わる問題であり、党議拘束はかけないでほしい」と述べた。

過去、臓器移植法案などにおいて自民党が党議拘束を外した例があるが、執行部はどのように判断するか。法案反対の声は多くの自民党員や支持者から寄せられているし、法案に賛成できないとの考えを持つ議員は何人もいる。私も信念をもって行動したい。

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和田政宗

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