戦争の絵を描いてきた丸木夫妻 最晩年に6年をかけて取り組んだ「沖縄戦の図」のドキュメンタリー公開

「原爆の図」「南京大虐殺」「アウシュビッツ」と、40年に渡って一貫して戦争の絵を描いてきた水墨画で風景画家の丸木位里と人間画家の丸木俊夫妻が、最晩年に6年をかけて取り組んだ「沖縄戦の図」を紹介するドキュメンタリー映画「丸木位里・丸木俊 沖縄戦の図 全14部」が、劇場公開されることが決まった。

ノーベル平和賞候補になり、朝日賞や埼玉県民栄誉賞などを受賞した水墨画で風景画家の丸木位里(1901‐1995)と人間画家の丸木俊(1912‐2000)夫妻。「日本人側から見た記憶を残しておかなければいけない」と、1982年から沖縄戦の取材を始めた夫妻が最初に描いたのは、米軍でなく日本兵によって終戦後になって行われた久米島民の虐殺だった。しかし、「原爆の図」「南京大虐殺」「アウシュビッツ」と40年に渡り、戦後一貫して戦争の絵を描いてきた二人は、いつかは希望を描きたいと願っていた。1987年までの6年間で描かれた「沖縄戦の図」14部の制作の軌跡をたどることで、2人の思考を明らかにし、2人が出会った人たちを通して、沖縄戦以降の沖縄の歴史を振り返る作品となっている。

2023年6月17日より沖縄の桜坂劇場で、6月23日より宮古島のよしもと南の島パニパニシネマにて先行公開されたあと、7月15日から7月28日にポレポレ東中野、8月1日から8月6日に東京都写真美術館ホールほかにて全国順次公開される。

監督・撮影を務めた河邑厚徳のコメントも公開された。コメントは以下の通り。

【監督・撮影 河邑厚徳コメント】

2020年、はじめて「沖縄戦の図」の前に立った瞬間、金縛りにあったように言葉を失った。美術館を出た時には、一枚一枚の絵を貫いたアートドキュメンタリーを作りたい気持ちに火が付いていた。

映画公開を前に、G7広島サミットを見ていて、「沖縄戦の図」が宜野湾の佐喜眞美術館に収められている意義は想像以上に大きいと感じた。丸木位里、俊は「原爆の図」で世界に知られる画家である。二人の画家は、広島、南京大虐殺、アウシュビッツと第二次世界大戦の三大虐殺を描き上げ、強く望んで1982年12月に沖縄の土を踏んだ。40年間の沈黙がとけ体験者がようやく語り始めた時である。あの悲劇の歴史を伝え続けなければ、戦争はまた起きるという危機感を画家と沖縄住民が共有した。皆が丸木夫妻を応援し、いい絵を描いてくれと願い、協力した。

映画では、初めて沖縄戦の図・全14部をのこらず紹介した。個々の絵についての解説はあるが、それを積み重ねてみると画家の考えの軌跡が見えてくるのではないだろうか。絵に描かれていたのは「空爆」や「空襲」と違う様相を見せた地上戦の真実、愚劣な軍隊、嘘と洗脳で死んだ民間人。二人の画家は終戦後に起きた久米島の虐殺から描き始めたが、最後は読谷村の戦後を描ききって未来の沖縄へと希望を託した。

【作品情報】
丸木位里・丸木俊 沖縄戦の図 全14部
2023年6月17日(土)~沖縄・桜坂劇場にて先行公開
7月15日(土)~7月28日(金)ポレポレ東中野
8月1日(火)~8月6日(日)東京都写真美術館ホールほかにて公開
配給:海燕社、アルミード
©2023佐喜眞美術館 ルミエール・プラス

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