<書評>『日本の憲法 最初の話』 「自由と人権」やわらかに解説

 詩人の白井明大さんによる、憲法の詩訳。もともと法律を学んでいて、日本国憲法を全部暗記していたとのこと。

 さて法律(憲法)用語は漢字が多く、難解きわまりない。それを白井さんはやわらかな言葉で、わたしたちに語り掛ける。「第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」は「国家権力が特定の思想を取り締まるのは、だめ。一人一人の心の中のことを聞き出すのも、だめ。教えたくないことは教えない。黙っている権利もある。私の心に勝手に土足で立ち入らないで。」となる。

 とりあげた条文は主に、「自由と人権」にかかわることにしぼっている。また、日本の憲法だけでなく、国連が定める、人種差別撤廃条約、障害者の権利に関する条約、核兵器禁止条約、気候変動に関する国際連合枠組条約、なども詩訳していることが、この本を幅広いものにしている。

 核兵器禁止条約については「私の国は、たとえどんなことがあっても、約束する。核兵器を、開発しない、実験しない、この条約で禁じた活動のために、誰にもどんな支援も求めない、受けない。すべての国が条約に参加して、核兵器の禁止が、人類普遍の約束になる日をめざして」(長い条約だがその一部を紹介)。条約は2017年に国連総会で採択、21年に発効。しかし、日本は23年の現在まで条約に参加してない、と白井さんは書き加えている。今年5月19日から広島で先進7カ国首脳会議が開催されたが、「広島ビジョン」で発表されたものは「核兵器はそれが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、戦争と威圧を防止すべきとの理解に基づく」であり、元広島市長の広岡さんは「歴史に汚点を残した」と批判。また、コラムには「0.6%の島に73%の基地」があるとし、国連の人種差別撤廃委員会は日本政府の政策にくり返し勧告しているとも。

 本書は憲法で定められている、基本的人権が、沖縄ではいかにないがしろにされているかを浮き彫りにし、日本の政治が「平和憲法」から大きく逸脱していることを、知らせてくれる。

(安里英子・ライター)
 しらい・あけひろ 1970年東京都生まれ、詩人。詩集に「心を縫う」「生きようと生きるほうへ」など。その他「旧暦と暮らす沖縄」の著書もある。

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