乗り物には物理があふれている!新幹線はどうしてあのような形状をしているの?【すごい物理の話】

新幹線の先頭形状の遷移

新幹線の0系、100系の先頭形状はまるで飛行機のようですね。速く走るということで飛行機の流線形状をイメージしたものでしょう。ただし、本来の流線形というのは後尾部の形状が重要で、これは空気が形に添って流れ去る形状のことをいいます。そのためには後尾部が滑らかにすぼまっていく必要があります。

ところが、新幹線の場合、先頭部は復路になると後尾部になる。そうすると0系の形状では、鼻先の丸みや運転席の切り立ったフロントガラス部からの空気の流れが壁から剥はがれてしまう(剥はく離り流れという)。こうなるともはや流線形ではなく、空気抵抗も大きくなります。

そこで100系では、後尾部への切り替えを考慮し、鼻先を少し尖らせやや長めにしましたが、それでもまだ運転席のフロントガラス部は角度がついていて剥離します。次の300系ではフロントガラス部は滑らかにつながる設計に変更しました。さて、この段階までは空気抵抗を考慮した設計でした。その後の700系以降となると鼻先がやたらと長くなりました。トンネルに入るときの気圧変化を緩慢にするためです。

トンネルという筒の空気を、たとえばピストンのように平らのもので急に押すと、その押し込んだ部分の空気密度が急に上昇し、衝撃波のようになってトンネル出口からドーンという音として放出されます。そうした衝撃を和らげるようにトンネルに入るピストンの断面積がゆっくりと増加するように鼻先を長くしたわけです。設計基準が根本的に違うんですね。ですから、先頭形状は水に飛び込むカワセミのくちばし形状を模倣した形なっています。トンネルの多いところを走るリニアモーターカーも同じなので、機会があれば見比べてみるのも面白いでしょう。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』著/望月修

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』
著:望月修

物理学は、物質の本質と物の理(ことわり)を追究する学問です。文明発展の根底には物理学の考えが息づいています。私たちの生活の周辺を見渡しただけでも、明かりが部屋を照らし、移動するために電車のモーターが稼働し、スマートフォンの基板には半導体が使われ、私たちが過ごす家やビルも台風や地震にも倒れないように設計されています。これらすべてのことが物理学によって見出された法則に従って成り立ち、物理学は工学をはじめ、生命科学、生物学、情報科学といった、さまざまな分野と連携しています。……料理、キッチン、トイレ、通勤電車、自動車、飛行機、ロケット、スポーツ、建築物、地震、火山噴火、温暖化、自然、宇宙まで、生活に活かされているもの、また人類と科学技術の進歩に直結するような「物理」を取り上げて、わかりやすく図解で紹介。興味深い、役立つ物理の話が満載の一冊。あらゆる物事の原理やしくみが基本から応用(実用)まで理解できます!

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