Dropbox Japan 植山周志さん:数字で世の中を見ると毎日が楽しい。数字思考力を上げるヒントはたくさん転がっている。

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データ分析というと「難しい数式やマクロが必要なのでは?」と身構えてしまう人が多いかもしれません。

ですが、Dropbox Japanの植山周志さんは「データは楽しいもの。数字で考えるクセをつけると新しい世界が見えてくる」といいます。今回、仕事で使える「数学思考力」のつけ方や、データから問題と解決策を発見する面白さを教えていただきました。

データとは、複雑な事象を整理するための材料

分析という2文字を見ると両方とも分けるという意味を持ちます。乱暴に言ってしまうと分析は分けることです。目の前のデータをあらゆる切り口で分解し、何か意味があるものを捻り出すことが分析を行う意味です。

誰もができて一番身近な分析は「仕事の優先順位をつけること」じゃないでしょうか。忙しいわりに成果が上がらないと悩んでいる人は、横軸に「成果の大小」を置き、縦軸に「やるのが大変かどうか」という指標を置いて日々の業務を考えてみてください。

やっぱり「成果がたくさん出て、やるのが楽な仕事」に時間を多く使いたいと思いませんか。このグラフでいうと右上の座標がくる仕事で、注力するとすぐ成果につながるおいしいところです。僕の上司からこのエリアの仕事をLow Hanging Fruits (木の低いところに実ってすぐ収穫できる果実=小さな労力で大きな成果を得られるもの)と呼んで、僕たちにまずこのタイプの仕事を探せと教えました。

Low Hanging Fruits だけ行うと焼畑農業のようになってしまうので、中期的に大きな成果を生み出す可能性がある「大変だけど、やったら成果が出る」という右下エリアの仕事にも手をつけるようにします。大変なぶん中期的なスパンで考えて、勤務中の2割くらいの力を使ってじっくり取り組む。やるのが大変なので競合他社に模倣されにくい施策も含まれます。この2エリアに集中すれば、仕事の密度と成果はずいぶん変わるはずです。逆に成果の小さなエリアはやらないと決めることも大事です。時間は無限にはないので、このように優先順位をつけて、やることとやらないことを分けるのです。

データを分解、整理して、こういった2軸や3軸を設定してデータを置いたあと「じゃあどうしようか」と考えることで初めてデータ分析に意味が生まれます。軸に売上や効果などの数値を代入できるようになると、仕事で使えるデータ分析につながります。

データを味方につければ、やりたい仕事がやりやすくなる

僕がいろんな人にデータを使ったマーケティングを勧めるのは、数字という根拠があれば自分がやりたい企画を通せる可能性がさらに上がり、物事を客観的に見る視点も磨かれるからです。20万円の投資をもらうなら熱意だけでいけるかもしれませんが、2,000万円の投資で2,000万円以上のリターンになる話であれば、ちゃんと説明しないと投資してもらえないですよね。ここで相手を説得するには数字を使ったロジックがいるんです。

僕は昔、広告制作会社にいて取引先に広告施策をプレゼンする立場でした。YouTubeを使った動画プロジェクトを企画したところ、担当者は「やりたい」と言ってくれる。でも決裁権のある上司は「うん」と言ってくれない。そのとき僕は企画書に数字を盛り込みました。

まず僕たちが運営しているYouTubeチャンネルの動画再生数はどのくらいか。全体から見て数万回再生される動画は上位1%だけれど、僕たちのチャンネルは上位5%に食い込める実績がある。これだけの訴求力がある動画を何本作るので、およそ何人へ情報が届きますよと、全部数字で見せたんですね。

最終判断をする上司からは「植山さん、私は正直言ってこの企画の何が面白いかわからない」と言われました。でも「この数字を載せたスライドがあるから、お願いする」と発注してくれたんです。内容を個人的に理解できなかったとしても、数字を信頼して会社として任せてくれた。数字にはそういう力があるんです。

ランチの間に数字思考力は鍛えられる

普段から数字を意識していれば自然とデータに対するセンスは身につくと思っています。

たとえば僕の場合、ランチでラーメン屋に入ったら「ああ、20席あるな」と確認します。「ラーメン1杯800円なら客単価は1,000円だ」と当たりをつけて、1人20分で食べるとするとこの席は1時間で3人座るはず。だから1時間で3,000円を売り上げるだろうと考える。席数でかけ算すると店のランチの売上が何となくつかめます。

これはフェルミ推定とよく似た方法で、いくつかの手がかりから短時間で概算を出す手法です。見える状況からどんどん要素を分解していって、肌感覚でわかる程度まで分解したら数字を当てはめてみる。細かく合ってなくてもいいんです。自分が30分で1杯食べるんだったら、30で計算しても全然問題ない。推定の桁が合っていればいいくらい。大事なのはいつも数字に置き換えて考えることです。

▲植山さんの手帳
休肝日を手帳上で、可視化。以前は、イラストで休肝日をビジュアライズ+SNSでシェアすることにより、モチベーションマネジメントをしていたそう。

自分の仕事だったらラーメン屋より実体に近い感覚で想像できるでしょう? プレゼンする前に、自分が立てた提案に沿って概算を出してみるといいですよ。事前に「これだけ売り上げると思ったらこんなに少ないようだ」とか「これだけお金をかけるのに成果はこれくらいか」とか、必ず数字上の改善点が見つかります。どこが悪いのか見つかれば自分の提案内容をプレゼンする前の段階でブラッシュアップしてより提案内容の完成度を上がることができます。

データから自分のLow Hanging Fruitsを探す方法

施策を考える段階で分析を取り入れると、企画の精度はもっと上がります。まず自分の会社のビジネスを数字に置き換えて、データを見ながら「どこから手をつければいいか」を考える。まだ見つかっていないLow Hanging Fruitsを探すんです。

下の例でいえば、会社として重要なのは「売上」で、分解すると「平均購買単価」×「注文数」で構成されている。「注文数」をさらに分解すると「webへの訪問者数」×「購買率」で構成されている。

物事には自分がコントロールできることと、できないことがあります。「売上」は直接コントロールできません。でも「web訪問者」を増やしたり「購買率」を上げたりするのはコントロールできる。だったら、この2つの要素に効果的な施策を仕掛けようと考えられるわけです。

この2要素の数値が上がれば結果として「売上」も上がります。自分が手を加えられる要素を見つけたら「自分が手っ取り早くインパクトを与えられる要素」を選びます。僕だったら「購買率」をコントロールする施策のほうが向いているし、自分にとってやりやすい。だから購買率を上げる作戦をいくつも立てるでしょうね。

実際にLow Hanging Fruitsを見つけてプレゼンした話

▲(図左)A’→Aに成長させた実績 ▲(図右)B群をB’に見立てたら施策Aが使えそう

縦軸は購買率、横軸は注文数、バブルの大きさが各国の利用者数を表すバブルチャートがあるとします。A国は、1年前はバブルA’の実績しかなく、僕が施策Aを行った効果で現在のバブルAの規模と数値が出るようになりました。

バブルB群について同様のグラフを見ていて、あることに気づきました。B1国、B2国、B3国の集合であるバブルB群は、一国当たりでは、購買率・注文数・利用者数とも少ないんですが、合わせるとバブルA’と似たような規模・環境のバブルB’になります。だったら施策AをB’のためにアレンジして同じように展開すれば、実績を伸ばせるのではないかと考えたのです。

これって少ない手間で大きな成果が得られることですよね。施策Aは一度試して成功へのルートがわかっている。アレンジして施策Bにするのは手間がかからないわりに、Aと同じくらいの利益と効果が見込める。まさに格好のLow Hanging Fruitsです。

施策Aを成功させるポイントは知っているので効果はAのときより早く出せます。ABの環境差を埋めて実施条件を合わせるコストを足しても、バブルB群が成長して生み出す利益のほうが大きく上回って会社にメリットがあります。僕はこの施策のために予算を獲得したいと考えました。

実現するには本社の上司に「この施策は効果がある、これだけの売上を生み出せる」と納得してもらわなければいけない。僕が説得に使ったのが上記のデータとロジックです。さらに数値データを追加して見込み利益についても詳しく提示しました。その結果、施策には無事ゴーサインが出ました。

僕は暇さえあればデータを取り出してこうやってLow Hanging Fruits を探しています。データから考える習慣をつけると数字に対する勘も磨かれて、自分ができそうなこと、やりたいことがどんどん見えてくる。そうなると毎日が本当に楽しいんですよ。

世界の共通言語は、英語・情熱・数字・ロジック

僕は世界で通用する共通言語が4つあると思っています。それは、英語・情熱・数字・ロジックです。英語はグローバル社会での文字通りの共通言語。情熱も人種を越えて伝わります。

数字とロジックは欠けていると突っ込まれる可能性が出てきます。たとえば以前、日本のブランドマネージャーがアメリカ人のCEOに「日本はこういう文化だから浸透しないだろう」と説明したんですが、CEOは「わかった、じゃあそれを証明する数字を見せて」と言う。数字とロジックに慣れていない人だと戸惑っちゃいます。

もしここで実際に調査して「日本では100人中80人が受け入れない」というデータがあったら、文化が違ったとしても一気に相手を説得できるんですよ。自分の感覚を数字に置きかえてあげる、わかるようにデータの形を変えてあげる。それだけでも仕事の質とスピードが上がります。

お話をお伺いしたDataLover:植山 周志(ウエヤマ シュウジ)

Dropbox JapanにてGrowth Marketingに従事。

2008年より、仕事の傍らビジネスマンに向けたExcelの使い方やプレゼン資料の作り方、数学思考力などのレクチャーを実施。2011年3月にグロ―ビス経営大学院を卒業し、MBAを取得。「世の中に価値あることを提供する」を目指して、日々努力中。1994年からの12年間で、BMX(自転車競技)の国内外の大会にて45回もの優勝経験を持つアスリートでもある。趣味は料理とホームパーティー。

著書に 『数字思考力×Excelでマーケティングの成果を上げる本』、『「あるある」で学ぶ忙しい人のためのExcel仕事術』がある。

植山周志のぶっ飛びブログ:

(PHOTO:Inoue Syuhei 企画・編集:野島光太郎)

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