トヨタ総合2位でル・マン6連覇ならず。激走で魅せたハートレー「すべてを出し切ったが、届かなかった」

 6月10~11日、フランス・ル・マンのサルト・サーキット(ル・マン24時間サーキット)でWEC世界耐久選手権第4戦『第91回ル・マン24時間レース』の決勝レースが行われ、TOYOTA GAZOO Racing(TGR)は8号車トヨタGR010ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮組)が総合2位表彰台を獲得したが、今大会の目標であったフェラーリに並ぶ大会6連覇は惜しくも達成できなかった。

 また7号車トヨタGR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ-マリア・ロペス組)は、夜間に発生した不運なアクシデントに巻き込まれたことによりマシンが走行不能となり、レース前半で無念のリタイアとなっている。

 2018年から5年連続でル・マンを制してきた世界チャンピオンであるTGRは、昨シーズンからWECに加わったプジョーをはじめ、“ニューカマー”のフェラーリ、キャデラック、ポルシェといったライバルメーカーが加わり、過去最多となる16台のハイパーカーが競い合うことになった伝統のル・マンで大会6連覇を目指した。

 ディフェンディングチャンピオンであるブエミ/ハートレー/平川組8号車は、天候の急変や多発するアクシデント、トラブルなどで次々に参加車両が脱落していくサバイバル戦となった今年のル・マンで最後までトップ争いに生き残り、レース終盤に51号車フェラーリ499P(フェラーリAFコルセ)との一騎打ちを繰り広げた。

 夜が明ける頃には首位に立っていた8号車だったが、動物との接触によってフロントスプリッターにダメージを負うとともにリヤタイヤのパンクにも見舞われ、修復のためにピットへ向かい2番手に後退してしまう。

 しかしコースに復帰した8号車とフェラーリ51号車のギャップはわずかで、2台はその後も数時間にわたって接近戦を演じる。スタートから20時間を過ぎた時点で2台の差はわずか3秒。この間、ハートレーは4連続スティントをこなしながら予選のようなスピードを発揮し続け、首位を走る51号車に絶えずプレッシャーを与えた。

 最後の2時間、8号車はハートレーから平川へと最後のステアリングが託される。この時点でのトップのとの差は約16秒。平川はこのギャップを詰めるべく全力でアタックに入ったが、ピットアウト3周後のアルナージュコーナーで痛恨のコースオフを喫し、コース脇のバリアにクルマをヒットさせてしまう。

 修復作業のため8号車は緊急ピットインし、メカニックの迅速な作業によって2位のポジションを守ったままコースへと復帰することに成功するも、トップとの差は3分20秒まで広がってしまった。

 その後8号車は着実に順位を守ってファイナルラップを迎え、最後はトップと1分21秒793の差で2位フィニッシュ。優勝を逃したが8号車の3名は、リードするWECドライバーズタイトル争いでランキング2位との差を25ポイントに拡げることとなった。

 一方、コンウェイとロペス、チーム代表を兼務する可夢偉が乗り込んだ7号車は、スタート8時間後の深夜0時を過ぎたところで不運なアクシデントに見舞われ、勝利への望みは絶たれてしまった。可夢偉がドライブしていた7号車はスロー損へと向かう直前、後続車から追突されたことで修復不能なダメージを負い、その場でリタイアとなっている。

 今季初の敗戦、そしてル・マン6連覇を逃したチームは、WECマニュファクチャラーズタイトル争いでもドライバーズランキングと同様に首位を維持しているが、2位フェラーリとの差は今大会終了時点で18ポイントに迫られることとなった。WECのシーズンは残り3戦。次戦は4週間後7月7~9日にイタリアで開催される第5戦モンツァ6時間だ。

アクシデントに巻き込まれリタイアとなった7号車トヨタGR010ハイブリッド 2023年WEC第4戦ル・マン24時間レース

■TOYOTA GAZOO Racingドライバー:ル・マン24時間後コメント全文

●小林可夢偉(7号車トヨタGR010ハイブリッド) リタイア

「残念ながら、このル・マン100周年記念大会は我々のレースではありませんでした。7号車は私がドライブしているときに信じられないような不運に見舞われてしまいました。スローゾーンへ入る前の準備エリアで、前の車両が速度を落としたので、ペナルティを避けるためにこちらも速度を落としたところ、後方から追突されました」

「車両のダメージは大きく、ガレージに戻る術はありませんでした。それまで力強くレースが戦えていただけに、本当に厳しい結果となってしまいましたが、8号車は最後まで全力で戦い、2位でフィニッシュしてくれました」

「チームとしてできることはすべてやりましたし、クルマから最大限のパフォーマンスを引き出し、ドライバーもベストを尽くしてくれました。このル・マン100周年記念大会では、チームが今までにないほど団結して、みんなで勝利を目指し、ともにレースを楽しみました。この無念を晴らすためにも、もっと強くなって戻ってこなくてはなりません」

「応援してくれたすべての方々に感謝いたします。本当にたくさんのメッセージを頂き、皆様の大きな支えがあることを感じました。これからもまた一緒に戦いましょう」

●マイク・コンウェイ(7号車トヨタGR010ハイブリッド) リタイア

「8号車は100%の力を発揮し、本当によく頑張ったと思う。このレースウイークを通して素晴らしい仕事をしてくれたチーム全員に感謝したい。残念ながら我々のレースは早めに終わってしまったが、序盤の難コンディションのなかでも健闘し、ミスもなく、上位争いに加わり続けた。最速ではなかったかも知れませんが、できる限りのことはした」

「あのようなアクシデントでレースを終えることになってしまったのは残念だが、スローゾーンなどではアクシデントが多発していた。悲しいことだけど、あの時点で我々のレースが終わってしまったんだ」

「シリーズチャンピオンの可能性はかなり低くなってしまったけれど、残りのレースでは幾つか勝ちたいし、次のレースへ向けて頑張るよ」

●ホセ-マリア・ロペス(7号車トヨタGR010ハイブリッド) リタイア

「またも我々7号車にとっては残念なル・マンとなってしまった。僕のスティントだけ振り返れば、ステアリングを受けとったときはトップ10の最後尾あたりにいたけれど、3番手まで順位を上げて戻ってこられたので、その部分では満足している」

「スリックタイヤのまま雨の中を走らねばならず、リスク管理が肝となるサバイバル戦となっていた。厳しいレースだったが、我々は全力を尽くしたし、起こったことに対し可夢偉の責任はなく、また、彼のあの状況での判断にミスがあったわけでもない」

「もちろん今日の結果はとても残念だけど、我々はリタイア後もそばに残り、8号車を応援していた。彼らは全力で素晴らしいレースを戦い、我々にとって誇りだ。毎回のことですが、ル・マンでは何が起こるかわからないので、最後までレースに留まることが重要だと教えてくれた。またここに戻ってくることを楽しみにしているよ」

総合2位表彰台を獲得した8号車トヨタの平川亮、ブレンドン・ハートレー、セバスチャン・ブエミ 2023年WEC第4戦ル・マン24時間レース

●セバスチャン・ブエミ(8号車トヨタGR010ハイブリッド) 総合2位

「タフなレースだった。レース序盤には、コンディションの急激な変化によりコース上に留まることすら容易ではなかったよ。我々には勝てるだけの圧倒的な速さはなかったが、全力で戦い続け、最後までライバルを追い詰めた」

「フェラーリは我々よりも速かったので、彼らを追随するためにハードにプッシュする必要があり、それはマージンなしでのアタックを意味した。勝つためにできることはやり尽くしたので、後悔はないよ」

「優勝したフェラーリ、おめでとう。彼らは予選の時から印象的な速さを見せていた。ここからはチャンピオン争いへと切り替え、次戦へ向け、さらに強くなって戻ってくるべく努力していくつもりだ」

●ブレンドン・ハートレー(8号車トヨタGR010ハイブリッド) 総合2位

「今はさまざまな感情が渦巻いている。すべてを出し切ったので、何も残っていないかのようだ。パフォーマンスが明白だったわけではなかったけど、我々はフェラーリとの一騎打ちで最後まで彼らにプレッシャーをかけ続けた」

「最後は、流れが少し我々の方に向いたときにエキサイトしてしまった。亮はもっとも大変な状況でのドライブだった。彼は首位フェラーリとのギャップを詰めるために最大限に攻めろと言われてコースへ向かい、リスク覚悟でアタックしたので、責められることはない」

「今となっては、あそこまで追い詰めたが届かなかった、という気持ちだ。フェラーリには最大の祝福を贈ります。彼らは速かったし、ミスをすることもなく、良いレースを戦ったと思う」

●平川亮(8号車トヨタGR010ハイブリッド) 総合2位

「まず本当に頑張ってくれたセバスチャンとブレンドンに感謝します。また、レースウイークを通して素晴らしい仕事で支えてくれたチームと、応援してくれたすべてのサポーターの皆さま、ありがとうございました」

「フェラーリとのバトルは本当に大変でしたが、決して諦めることなく、またル・マンで勝つために全力で戦いました。今日のレースを分析し、改善すべき点を見出さなくてはなりません」

「個人的には、自分自身のミスから学び、さらに強くなって戻って来たいと思います。シーズンはまだ3戦残っているので、ここからは世界チャンピオン獲得に集中します」

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