バーベルで腰椎骨折…実は恐ろしい「パーソナルトレーニング」でのケガ事例

(写真:PIXTA)

「コロナ禍で消費者のニーズが多様化し、ジムでの集団指導とは異なる『パーソナルトレーニング』が新しいサービスとして注目され、今後も拡大が予想されています。いっぽう、利用者のケガや健康被害の増加が懸念されており、事故防止のために消費者安全調査委員会で調査を開始し、今後報告書をまとめようと考えています」

消費者庁消費者安全課事故調査室の担当者はそう話す。

パーソナルトレーニングとは、スポーツジムなどでトレーナーからエクササイズやストレッチ、食事管理などの指導を1対1の対面で受けられるもので、指導にあたる人はパーソナルトレーナーと呼ばれる。

経済産業省の特定サービス産業動態統計調査によると、コロナ禍の’21年度以降、利用者数は急増している。

「コロナ禍以降、新規顧客の確保と拡大でパーソナルトレーナーは前のめりになりがち。『3カ月で10kg痩せたい』などと過度な要求をされてむげに断れない場合、度を越えた指導でケガが起こりえます」(フィットネス関係者)

国民生活センターなどのデータベース「PIO-NET」には、「パーソナル筋力トレーニングでの危害に関する相談」が’17年度からの5年間で105件も寄せられている。同センター商品テスト部の担当者が話す。

「ケガをした人の約9割が女性で、およそ4人に1人が治療に1カ月以上を要しています。『骨折』『神経・脊髄・筋・腱の損傷』などの重傷を負った人もいました。パーソナルトレーナーには国家資格がなく、統括する事業者団体もありません。法整備されていないのが現状なんです」

同センターに寄せられた声から、私たちにも起こりうるケガやトラブルの事例を見ていこう。

【事例1:精神論指導で右肩損傷】

40代女性は、長椅子にあおむけになってバーベルを持ち上げるベンチプレスをしていた。重いバーベルを「持てない」と断るも、トレーナーに「メンタルの問題だから」と強引に持たされることに。胸に下ろした際に右肩から「パキン」と音がして痛みが走ったが、トレーナーは「大したことない。湿布を貼れば大丈夫」と取り合わなかった。

数日後には痛みの範囲が拡大し整形外科を受診。「右肩腱板損傷、リハビリが必要」と診断され、8カ月経過後もリハビリが続く。

【事例2:痛いと言えず骨に異常】

50代女性は、個室でのトレーニング中、うつぶせで上体そらしをした状態で、トレーナーから背中を押される動作を10回3セットおこなった。たいへん痛かったが「痛い」と言えず、我慢して指導を受け続けた。

終了後、腰の左側にしびれが出て、だんだん痛みが強くなった。1カ月後に整形外科を受診して投薬治療を受けたがよくならず、さらに1カ月後にMRI検査で「骨に異常がある」と診断された。

【事例3:腰椎・仙椎を骨折】

1回1時間で週2〜3回のトレーニングを始めた30代女性。初期の段階で、しゃがんだ姿勢からバーベルを持ち上げる「デッドリフト」を指示され、2カ月後には30〜45kgと急激に負荷を上げられた。だが、ある日急に軽い重量も上げられなくなってしまった。

整形外科を受診すると「腰椎・仙椎の骨折」が発覚。医師によれば「過負荷(重すぎる)と考えられるバーベルを、前屈位の状態でのデッドリフトにより持ち上げるのは大変危険な行為」で、やり続けたことで「疲労骨折」した可能性もあるという。事故から約2カ月後に別の整形外科を受診した際、「あと1カ月の治療期間が必要」と言われている。

【事例4:腿上げで肋骨骨折】

下半身のトレーニングをしていた30代女性。トレーナーが足首をつかんで負荷をかけた状態で腿上げをして、足を胸まで強く引き上げる動作を繰り返した。

胸に強い痛みを感じ、その後も痛みが治まらず、後日、整形外科を受診。「トレーニングが原因で肋骨が折れている」と診断された。

【事例5:極端な食事制限で湿疹】

20代女性はネットで見つけたジムと契約。トレーナーの指示で、食事は完全に糖質をカットした。

開始から3週間ほどで上半身に湿疹が出始めた。糖質を加えた食事内容に変えたが湿疹は悪化。医師の検査の結果、「糖質制限による色素性痒疹だろう」と診断された。約1カ月後には赤みやかゆみはなくなったが、茶色いアザのような痕が全体に残ってしまった。

なぜ、このようなトラブルが起きてしまうのだろうか。

「テレビやネットでは『パーソナルトレーニングなら確実に結果が出て、理想の体を手に入れられる』などと宣伝されています。その結果、利用者は即効性を求め、トレーナーの言うことをなんでもうのみにしてしまいがちです。いっぽう、トレーナーは短期間で成果が出れば口コミで評判が広がるので、『限界を超えろ』という昭和の体育会系のような指導もなかにはある。特に個室では密室状態で、歯止めがきかなくなります」(前出・フィットネス関係者)

そもそも私たちにとって「いいパーソナルトレーナー」とはどんな人なのだろう。

「まず、1回目できちんと体力測定をし、健康状態のヒアリングに時間をかけるトレーナーです。それから、『すぐに成果が出ますよ』などと言わず、『できるペースで継続しましょう』と、現実的な目線を忘れない人。『調子がよくないときは、休んでくださいね。回復したらフルで頑張れますから』と長期的な視点でじっくりと指導をしてくれる人も安心できます」(前出・フィットネス関係者)

最後に、パーソナルトレーナーと契約するときの注意点について、前出の国民生活センターの担当者がアドバイスをくれた。

「’22年に実施した『消費者へのアンケート調査』では、ケガや体調不良が起きたとき、『ジムやトレーナーが加入していた、または入会時に勧められたオプション加入による保険等で治療費等、十分な補償があった』と回答した人は、わずか11.5%でした。まずは入会、契約の際に、事故やケガの起きた際の説明をしっかり聞き、契約書や約款にも、きちんと補償の説明がされているかどうか確かめてください」

特に50代以降は「健康に生きるための体力維持、体力向上」がトレーニングの主目的と意識すべき。無理な負荷や目標でケガや体調不良を起こし、本末転倒になってしまわないよう、着実に継続できることを念頭に鍛えよう!

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