「持ち家へのこだわり」「中古品への忌避」「小銭貯金」昭和のお金の価値観が身を滅ぼす

持ち家へのこだわりが破綻への道(写真:zon/PIXTA)

「昭和のころは5~6%の金利が珍しくなく、10年預けたら元本が2倍になる養老保険などもありました。今の超低金利時代とはまったく違いますから、お金の常識も変わって当然です」

そう話すのは30年以上マネー情報を発信し、時代の変遷を見てきたファイナンシャルプランナーの坂本綾子さん。

「消費税が初めて導入されたのが1989年、平成元年です。つまり昭和のころに消費税はありませんでした。もちろんスマホも生まれていませんし、Suicaなどの交通系ICカードもありません。

クレジットカードは特別な買い物にだけ使うものでした。日常の支払いは、現金以外の選択肢がほとんどなかったのです」(坂本さん、以下同)

昭和、平成、令和と時代が移るなかで、日本はバブルが崩壊し、リーマンショックや大震災を経てきた。今ではキャッシュレス決済が浸透し、銀行や証券会社もネット上の取引が盛んだ。

「これほど時代が変わっていますから、昭和のころは妥当な判断だったとしても、当時の常識をそのまま令和の今に当てはめるのは無理があります。大きな損失につながることもあるでしょう。また、昭和の常識を若い世代に話すと、反感を買うこともあります。前時代的な間違った常識を押し付けてしまうのも問題です」

そこで、今はもう古くなった昭和の常識を教えてもらおう。

【資産形成のために積み立て保険に加入する】

昭和の保険は年5~6%という高金利を背景に、万一に備えつつ、資産形成できる“積み立て型”が人気だった。だが、この低金利時代に資産を増やす効果はさほど期待できない。さらに払い込み満了前の早期に解約すると、払ってきた保険料より、解約返戻金は少なくなる。保険はあくまで万一に備えることを目的に、掛け捨てタイプも検討しよう。そして資産形成は保険以外の方法で。

【資産運用を銀行に任せてしまう】

昭和の銀行が扱っていたのは預金が中心だった。当時は5年もの定期預金の金利が5%などという時代で、預金だけで十分お金が増えた。今の銀行は投資信託や外貨建て保険などを扱う“金融商品の小売店”と化している。他社が運用する金融商品を販売し手数料を稼ぐ仕組みで、銀行は資産運用のプロではない。「銀行なら安心」と思い込んでリスクの高い商品に手を出し、老後破綻する人も。

【妻が財産を夫名義の口座に集約してしまう】

昭和時代は世帯主の夫名義の口座を妻が管理する家庭が多かった。今も夫名義の口座の管理を妻が行うことは容認されているが、年々本人確認が厳格になっている。自分の稼いだお金も夫名義の口座に集約してしまうと、自分の口座にお金を戻そうとしても、贈与税が発生する可能性がある。さらに、離婚時にもめるリスクも。それぞれが稼いだ資産は、それぞれの名義にするのが令和時代の正解だ。

【コツコツと小銭貯金をやっている】

大きな貯金箱につり銭などを貯め、いっぱいになったら郵便局で貯金口座に入金する。家計を助ける貯蓄術として昭和のほとんどの家庭で実践された。だが今は、小銭の預け入れに手数料がかかる。たとえばゆうちょ銀行の場合、窓口で51枚以上の硬貨を預けると550円の手数料が。硬貨の数が増えるほど手数料も増える。せっかく貯めても目減りする小銭貯金はおすすめできない。

【国公立大学だからお金はかからないと考える】

「うちの子を国立大学に入れさえすれば、学費はかからない」と言えたのは昭和まで。デフレで給料が増えないなか、教育費の高騰は続いている。国立大学の年間授業料は1975年度の3万6000円から、2023年度は53万5800円と約15倍に。東大生の42.5%が、年収1千万円超の親を持つというデータもある。私立大学は文科系学部で年100万円ほど。国公立だろうが私立だろうが、大学にはお金がかかる。

【給料は年次に従い、右肩上がりに増えていくはず】

昭和の会社は終身雇用制で、給料は年次に応じて増えていくものだった。だが、バブルの崩壊、リーマンショックなどを経て、日本経済は“失われた30年”といわれるほど低迷し、給料が上がらないように。2023年の春闘は30年ぶりの水準の賃上げに沸いたが、物価の高騰は賃金の上昇を上回っており、実質賃金の低下は続く。成果型の賃金体系も増え、年功序列の給与制度は崩壊しつつある。

【「いずれはマイホーム」持ち家にこだわっている】

昭和のころは地価高騰で、全国で購入価格より高く売れた物件も多かった。しかし、今は二極化が進み都心の地価は高騰する一方、地方の地価は低迷している。今は住宅ローン金利が低いことから、高額のローンを組んで虚栄心を満たす大きな住宅の購入も可能だが、今後の経済状況次第で金利の引き上げも否定できない。立派な住宅に暮らす、住宅ローン破綻予備軍はたくさんいるのだ。

【中古品を買うなんて恥ずかしいと考えている】

昭和のころは、他人が一度でも使った中古品は新品より劣るという認識が一般的で、「新品を買い、使い倒して、最後は捨てる」ものだった。今では若い人を中心に中古品への抵抗感も薄れ、リユースはエコで環境に優しく格好いいことに。さらに「中古品を買う」だけでなく、「使い終わったものを売る」流れもできて、メルカリなどが大人気。所有の意識、ものの価値が変わっている。

【家族でお金の話をしない。話すのはみっともないと考えている】

昭和のころは「お金、お金」とあくせくする人は「みっともない」とする風潮があったが、今は堂々と「お金を稼ぎたい」と言う人が多い。また節約なども家計の管理者だけでなく、家族で話し合って一丸となって取り組んだほうが効率的。相続についてもオープンに話し合うことが大切だ。学校でも、2022年度から高校の家庭科で「投資信託」を教えるなど、お金を公に語るのは当たり前の時代に。

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