交際相手殺害の罪に問われた女に懲役8年の判決 正当防衛は認めず 広島地裁

おととし、広島県呉市のアパートで交際相手の男性を包丁で刺して殺害した罪に問われていた女の裁判員裁判で、広島地裁は女に懲役8年の判決を言い渡しました。

判決によりますと、住所不定無職の 井上由利恵 被告(37)は、おととし12月、呉市八幡町のアパートで、この部屋に住む交際相手の男性(当時39)の背中を殺意を持って包丁で2回突き刺し、殺害しました。

これまでの裁判では、交際相手の男性から暴力を受けた井上被告の目や頬が大きくはれている写真や、井上被告が自ら通報した際に「彼氏ともめてしまって、包丁出してきたけん、やり返したら死んでしまったんです」と涙声で話した音声が明らかにされていました。

そして、▽井上被告の殺意の有無と、▽正当防衛が成立するかどうかの2点が争点となっていました。

検察側は、「井上被告は犯行当日も男性から暴力を受けていたことは否定しないが、安易に殺害に及んだ点は短絡的。座った状態の男性の背中を包丁で2回刺していて、正当防衛は成立しない」として懲役10年を求刑。

一方、弁護側は、「壁やソファに残った被害者の血こんは2人が立ってもみ合いになっていた証拠。井上被告が密室で男性から暴行を受け、このままでは殺されると考えたのはやむをえず、正当防衛は成り立つ」として無罪を主張していました。

12日の判決で広島地裁の 石井寛 裁判長は、「井上被告はわざわざ台所に包丁を取りに行った後、座っていたか中腰状態だった男性の上半身をめがけて包丁を振り下ろしていて、それなりに強い殺意があったと認められる」と指摘。

また、正当防衛が成立するかどうかについては、「井上被告が包丁を取りに行って部屋に戻るまで、男性が追いかけてきたこともなく、その後、2人がもみ合いになったりするような状況はなかった。井上被告が部屋に戻った時点で男性からの攻撃は終了していたと言え、正当防衛も過剰防衛も成立しない」としました。

そのうえで、「犯行の引き金となったのは男性からの暴力であり、井上被告のみを大きく責めることはできない」「犯行後に通報をして自首している点は井上被告のために相応に考慮するべき」などとして、懲役8年の判決を言い渡しました。

判決を聞いた井上被告は、裁判長から「わかりましたか?」と聞かれると、「はい」と小さくうなづきました。

弁護側は、「主張が認められず、事実誤認の認定があった」として即日控訴しました。

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