ヒガシマルの醤油蔵を再生、人気のカフェに 夏はかき氷、冬はおはぎ 営むのは工務店の2代目

井上晴登建設社長・井上雅仁さん

 ヒガシマル醤油(しょうゆ)の創業家の一つ、「菊屋」の蔵を改修したカフェ「菊屋蔵」(兵庫県たつの市龍野町本町)を営む井上雅仁さん(52)。高い吹き抜けのゆとりある空間。夏はかき氷、冬はおはぎが売りだ。「インスタ映えする」と女性客も増え、今や龍野城下屈指の観光名所になった。

 数寄屋を得意とする工務店の2代目。家業から逃れようと高校卒業後、一度はヒガシマルに就職した。「大工を継げば給料が増える。秋祭りの時期はいくらでも連休をやる」。腕のいい父は交渉も巧みだった。修業に入ると約束はあっさり破られたが、技術は教えてくれた。顧客は資産家が多く、調度品などの美的センスも磨けた。

 菊屋蔵との関わりは、10年ほど前から。江戸後期の建築は老朽化がひどく、2015年の台風で主屋根が落ちた。「ヒガシマルには恩がある。蔵を守りたい」と龍野城下の住民団体に参加し、2年半かけて改修した。所有者から借り受けて18年に展示スペースを開放し、自社の営業所も設けた。

 「ここは古民家再生のショールーム。利益は出なくていい」と考えていたが、店舗改修を担当した姫路の和菓子店から「活用しないともったいない」と助言され、20年にカフェを開店。妻の和恵さん(46)が店長として取り仕切る。

 最近、近くの和菓子店にカフェ併設の改修工事を相談された。「妻のライバルになる」と苦笑しつつ、腕を見込まれたと喜ぶ。「住民にDIYを教える場もつくりたい。大工だけじゃ建物は守れない」。建物と同様に、太い信念の柱が自らの中心を貫く。(直江 純)

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