トヨタ、ル・マンで『2台同時リタイア』の危機があったと明かす。オーバーヒートに「最善の方法で対処」

 トヨタは、ル・マン24時間レースの深夜0時30分頃、7号車が脱落した事故とほぼ同時に8号車のエンジンがオーバーヒートを起こし、2台を同時に失う可能性があったことを明かした。

 6月10〜11日に行われたWEC世界耐久選手権第4戦ル・マン24時間レースの決勝では、小林可夢偉がドライブする7号車トヨタGR010ハイブリッドが『ネクスト・スロー』ゾーンで起きた多重事故によりダメージを受け、レース開始から8時間後にリタイアを喫した。

 一方、前年のル・マンウイナーであるセバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮の8号車は、コース上のデブリに接触し、独自の問題を抱えることになっていたという。

 トヨタのWECテクニカルディレクターであるパスカル・バセロンは、「あの瞬間、8号車のエンジン温度が急上昇したため、2台のマシンを失うことになると思った」と明かした。

「何が起きているのか、まったく分からなかった。外から見えるものは何もなかったんだ」

「エアロの数値は良好だった。我々はフロントエンドを取り外し、交換し、見てみることにした」

「サスペンションの内側に(カーボン)ケブラーの大きな破片が刺さっていて、クーリングの流れを妨げていた。それを取り除いて、走行を続けることができた。それは、大きなパーツだった」

「可夢偉のアクシデントの際に8号車が遅れたのは、温度の問題を調査するために何度かストップしていたからだ。何が起こったのかを調べるために、かなりの時間をロスしてしまった」

レース序盤など、リードを取る場面もあった8号車GR010ハイブリッド

■「亮はリスにぶつかってしまった」

 このあと8号車は平川がドライブしていた午前7時頃、バセロンいわくリスを轢いてしまい、トラック上のデブリと2度目の遭遇をすることになってしまう。

 なお、このようなアクシデントでダメージを受けたLMHマシンはトヨタだけでなく、50号車フェラーリ499Pも10時間目にラジエーターのひとつを石が貫通し、冷却水漏れを起こして表彰台への望みを絶たれていた。

「我々がフェラーリを圧倒していた時間帯もあった」とバセロンは振り返る。

「そんな競争力を発揮した直後に、亮はリスにぶつかってしまったんだ」

「フロントエンドに大きなダメージを与えたことから、それは小さなリスではなかったはずだ。そのスティントの終わりのフロントエンドを交換できるタイミングまで、彼はトラブルを抱えていたのだ」

 ケブラーや動物にぶつかりながらも、8号車は首位の51号車フェラーリに挑戦し続けた。51号車はピットからの発進時にパワーサイクル(再起動)を行う必要があり、この際は8号車トヨタが一時は先行したが、51号車のアレッサンドロ・ピエール・グイディはユノディエールの第2シケインでブエミをオーバーテイクした。

 その後、トヨタのドライバーたちは終盤になって後輪のロックの問題に悩まされ、平川はアルナージュへのブレーキングでリヤロックからコントロールを失ってしまう。このインシデントにより、51号車フェラーリは安全圏へ逃げ切った。

「レース終盤、ブレンドンが4スティントをこなしたことで、我々はマシンのパフォーマンスが発揮される領域に入った」とバセロン。

「残念なことに、アルナージュで軽い接触があった。クルマは、明らかに後輪がロックしていた」

「それをマネージすることは難しい。プッシュしなければならないときは、リスクのレベルを上げることになる」

「フラストレーションのリストがとても長くなってしまった。というのも、私は終盤にはチームのデブリーフィングのことをいつも考えているのだが、気の毒な亮を除けば、我々にはミスがなかった。彼は難しい状況に追い込まれてしまったのだ」

「クルマはホイールをロックさせていた。チーム側の残りの仕事は、すべてうまくいった。信頼性の問題もなかった」

「8号車の冷却の問題については、このようなことが起こった際の、可能な限り最善の方法で対処した。本当に、後悔はない」

2023年ル・マン24時間で2位フィニッシュしたトヨタGAZOO Racingの(左から)小林可夢偉チーム代表、平川亮、ブレンドン・ハートレー、セバスチャン・ブエミ

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