半年かけて再現…美しすぎる「鉱物スイーツ」に込められた情熱

神秘的な美しさを宿す、鉱物や動植物などの自然物。その魅力を伝えようと、これまでにも「水晶パフェ」や「ラピスラズリのオペラ」など、麗しすぎるスイーツを発表してきたショップ「ウサギノネドコ」(本店:京都市中京区)から、新作の鉱物スイーツ「結晶ロックケーキ」が誕生。あまりの再現度に、購入者から感動の声が上がっている。

ウサギノネドコの「結晶ロックケーキ」。どれが鉱物で、どれがスイーツ?(写真提供:ウサギノネドコ)

■ 透明感&母岩がリアル…!半年かけて自然の美しさを再現

「結晶ロックケーキ」のモチーフとなったのは、燐灰石、柘榴石、天藍石、紫水晶、蛍石の5つの鉱物。鉱物結晶はフランスの伝統的なフルーツゼリー「パート・ド・フリュイ」で、鉱物結晶を取り囲む「母岩」はイギリス発祥のロックケーキで再現されている。

近年、鉱物そっくりの砂糖菓子が登場し、さらには専門のカフェがオープンしたりレシピ本が出版されるなど、鉱物モチーフのスイーツが盛り上がりを見せている。そんななかでも「母岩」までも再現したものは珍しく、自然の姿をそのまま写しとったようなビジュアルはなかなか独創的。ただならぬ情熱と高い製菓技術が窺える。

このマニアックなお菓子を生み出したのは、同店のパティシエ・樋口成美さん。「本物の結晶に近づけるため、本来パート・ド・フリュイに使用されるフルーツピューレではなく、ジュースやリキュールを使用することで鉱物らしい透明感を再現したり、より鉱物感を出すために成形を工夫した」といい、開発には半年近くがかけられた。

常温で2週間ほど日持ちすることもあり、自宅用はもちろん、ギフトとしてのニーズも高いよう。客からは「見た目もさることながら、味もうっとりするほどおいしい」「食べるのが勿体ない」と好評のようだ。

■ 「オープンから1週間、誰も来なかった」

「ウサギノネドコ」代表の吉村紘一さん(5月24日・京都市中京区)

そもそも、「ウサギノネドコ」とはどんなお店なのだろうか。代表を務めるのは、自身を「自然物の広告屋」と称する吉村紘一さん。広告会社に勤めていた2006年、ふと目に留まったモミジバフウの実の美しさが転機になった。いつかはものづくりがしたいと考えていたこともあり、「これを超えるものを自分には作れない。だったら自然のなかにある美しいものを見つけてきて、魅せるものづくりをしよう」と決意。

2011年に会社を辞め、翌年に「自然の造形美を伝える」をテーマにした雑貨店「ミセ」と1日1組限定の宿泊施設「ヤド」からなる「ウサギノネドコ」をオープンさせた。店名は、地面に唐草模様を描くように這って伸びるシダ植物「ヒカゲノカズラ」の別名に由来し、築70年以上の京町家を改築したお店が、いわゆる「うなぎの寝床」であることに掛けている。ものづくりの際「掛け合わせを大事にしている」という吉村さんらしい。

「オープンから1週間、誰も来なかった。でも焦りはなかったですね」と吉村さんは振りかえる。「自分がグッとくることを大切にものづくりをしていれば、100人に1人くらいは深く共感してくれるはず。その人たちに届きさえすれば、きっと伝わっていく」と歩み続けた。今では親子で来店する客も多く、子どもが「わぁ!」と目を輝かせる場面に出合うことも。余分なものをそぎ落として魅せることで、自然物の美しさを本能的に受け取ってもらえたと感じたそうだ。

■ ここでしか出合えないカフェメニュー、遠方のファンも

水晶が別の鉱物を内包してできる「ガーデンクォーツ」を、ゼリーやマスカルポーネで再現した「ガーデンクオーツ・ティラミス」(1100円/カフェメニュー)

2015年には「カフェ」をオープン。その後、8種の鉱物に見立てた惣菜を標本のような専用什器に盛り付けた「鉱物料理」や「ガーデンクオーツ(庭園水晶)ティラミス」など次々と新作を発売し、いつしか自然物をモチーフにしたオリジナルフードは20種を超えた。

とりわけ鉱物スイーツを楽しめるカフェとして広く知られるようになり、取材時の店内は「ガイドブックで見て絶対に来たかった」という千葉県からの修学旅行生や、埼玉県から来たという鉱物好きの女性客などで賑わっていた。メディアでの露出も増え遠方からも注目されるようになり、「反響が大きくなればなるほどプレッシャーもあるが、期待に応えたい」と吉村さん。

10年、20年後も、自分たちらしいものづくりを続けていたいと話す吉村さんにとって越えるべきは、自分たち自身。近年の鉱物ブームは肌身で感じつつも、「ウサギノネドコ」を支えるスタッフたちと共に自然物が持つ美しさをまっすぐに見つめ、彼らにしかできない表現活動をこれからも実直に続けていく。

左から、「結晶ロックケーキ」(5個入・2160円)、植物や鉱物などを閉じ込めたアクリルキューブ「Sola cube」(4290円〜)

「結晶ロックケーキ」は、実店舗(京都・東京)と公式オンラインストアにて5種セット・2160円が販売されており、実店舗では単品・432円でも購入可能。

取材・文・写真/脈 脈子

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