<レスリング>【2023年沼尻直杯全国中学生選手権・特集】開花を続ける一貫強化、2階級制覇の大阪・大体大浪商中が、今年も世界へ飛躍する!

 

 国内で唯一、大学・附属高校・附属中学にレスリング部があるのが、大阪体育大学の系列校。2021年の創立100周年を機に、運営する学校法人浪商学園による一貫強化「DASHプロジェクト」がスタートし、世界にはばたく選手育成に挑んでいる。昨年のこの大会では、大体大浪商中から75kg級で2年生の小林賢弥が優勝。今年は小林が2年連続優勝し、48kg級で古澤大和も優勝。2階級制覇を成し遂げる好成績を挙げた。

 今大会の男子は、東京が5階級を制し(ロータス世田谷2選手、グロリア1選手、WRETLE-WIN 1選手、高田道場1選手)、埼玉2階級(花咲ジュニア2選手)、千葉1選手(チームリバーサル)と圧倒的な「東高西低」を示したが、同チームが“関西の意地”を見せた形(残る1階級は福岡・北九州クラブ)。

 同時期にキルギスで行われたU17アジア選手権には大体大浪商高から2選手が出場しており、一貫強化は順調に開花中。来年以降、どれだけ関東の牙城を崩すか期待される勢いを示している。

▲世界へ飛躍する大体大浪商中チーム。後列左が姫路文博顧問、前列右が西尾直之監督=撮影・矢吹建夫

小林賢弥は4試合を圧勝して2連覇

 2連覇を達成した小林は、初戦の2回戦から4試合連続テクニカルフォール勝ち。試合時間は順に20秒、15秒、30秒、24秒。合計89秒で、総スコアは40-0。

今大会だけではない。昨年のこの大会も全5試合を1分以内で圧勝。11月の全国中学選抜大会は、決勝こそ上級生相手に5-1の判定勝ちだったが、準決勝までの3試合は第1ピリオドのフォールかテクニカルフォール勝ち。今年3月のU15アジア選手権予選は2試合を計56秒、20-0。これらの数字を示すだけで、その強さが伝わるだろう。

 小林は決勝の“秒殺劇”を「日々がんばってきて、その力を出し切った結果だと思います」と振り返る。相手は3月のU15アジア選手権予選の決勝でも闘った相手であり、そのときと同じ圧勝を目指したようだ。4試合を振り返り、「結果、内容とも満足です」と言う。

▲決勝を含めて4試合に圧勝した小林賢弥

 実は、この大会に臨む前に“つまずき”があった。4月のJOC杯ジュニアオリンピックU17-71kg級の準決勝で、高校2年生の神谷樹生(三重・いなべ学園高)に敗れたことだ。体格とパワーの違いはやむをえないとしても、「自分の攻撃がワンパターンしかないことも知りました。強い選手は多くの攻撃パターンを持っている」ことも実感。それは、体力アップと攻撃の幅を広げる練習につながった。その経験が生きた圧勝V2であったことは間違いない。

 U15のアジア選手権(7月、ヨルダン)に出場することも決まっている。国際大会は初めて。高校生相手に新たな発見があったように、ここでも新たな発見があるだろう。「緊張しています」と話しながらも、自分の力を試したい気持ちが満ちあふれていた。

今夏、U17世界選手権へ挑む古澤大和

 古澤は昨年、そのU15アジア選手権41kg級に出場し、優勝を勝ち取っている。今年は4月のJOC杯ジュニアオリピックU17-48kg級で高校生4選手を破って優勝。今大会の優勝は当然とも言える実績の持ち主だ。

 今大会は、3回戦までは圧勝だったが、準々決勝から決勝の3試合は6分間闘っての勝利。手堅く闘って勝利を目指した。「がぶってからバックを取るという攻撃がしっかりできたので、よかったと思います」。小林ほどの圧勝続きではなかったが、収穫は多くあったようだ。

▲今年夏にはU17世界選手権へ挑戦する古澤大和

 飛躍の源は、やはりU15アジア王者に輝いたこと。「あのときは本当にうれしかった」。今年は、ワンランク上のU17世界選手権(7月、トルコ)への出場が内定している。昨年同様、国際舞台での闘いを大きな転機としたい腹積もりだ。一番必要なことを聞くと、「勇気を持って攻めることだと思います」と語気を強めた。

世界への飛躍がミッション(使命・任務)…西尾直之監督

 西尾直之監督は「去年も2人優勝させるつもりで来ましたが、(小林の)1つに終わってしまいました。今年こそは2階級優勝ができると思っていました。きっちり勝ってくれました」とうれしそう。小林については「全試合、30秒以内(の勝利ですよね)。この世代では圧倒的な差を見せられましたね」と評価。

 その原動力になったのは、やはり古澤のU15アジア制覇だったと言う。「他の部員も『やれる』という気持ちになっています。今年も、U17アジアに2人の高校選手が参加し、小林がU15アジア、古澤がU17世界に出ます。世界への飛躍をミッション(使命・任務)に掲げていますが、みんなそういう気持ちになってくれていると思います」と期待した。

 中学チームでは顧問を務めている大体大の姫路文博監督は、浪商学園が「DASHプロジェクト」をスタートさせた2017年、「10年計画で考えている。東京オリンピック以降の大会に代表選手を送り出せるように頑張りたい」と話していた(関連記事)。来年のパリ大会への代表派遣は厳しい状況だが、若い世代の躍進により、その目標は順調に進んでいると言えるだろう。

▲今大会の優勝を弾みとし、国際舞台へ挑む小林賢弥(左)と古澤大和

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