愛しい妻に会いたい気持ちを抑えきれず、イザナキノミコトが向かった先とは?【古事記】

イザナミに会うため黄泉の国へ

イザナキノミコトはイザナミノミコトに会いたい気持ちを抑えきれず、黄泉(よみ)の国(くに)へ向かいました。イザナミノミコトが固く閉じた御殿の戸を開けて現れると、イザナキノミコトは、

「愛しい妻よ。私たちはまだ国づくりを完成させていないではないか。どうか一緒に帰ろう」

と語りかけました。

「残念です。私はもう黄泉の国の食べ物を口にしてしまったので戻れません。けれども、愛しいあなたが訪ねてくださったのですから、叶うならば一緒に帰りたい。黄泉の国の神に相談してまいりますので、その間、決して私を見ないでください」

イザナミノミコトは、そういい残して御殿のなかへ戻っていきました。イザナキノミコトはいわれたとおりに待ち続けたものの、イザナミノミコトはいっこうに姿を現しません。待ちきれなくなったイザナキノミコトは、髪にさしていた神聖な櫛(くし)の歯を一本折ると*一つ火をともし、真っ暗な御殿のなかへ入っていきました。

そこでイザナキノミコトが目にしたのは、変わり果てたイザナミノミコトの姿でした。

*一つ火は、古代において不吉なものとされ禁忌だった。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 古事記』
監修:吉田敦彦 日本文芸社刊

執筆者プロフィール
1934年、東京都生まれ。東京大学大学院西洋古典学専攻課程修了。フランス国立科学研究所研究員、成蹊大学文学部教授、学習院大学文学部日本語日本文学科教授を経て、同大学名誉教授。専門は、日本神話とギリシャ神話を中心とした神話の比較研究。主な著書は、『日本神話の源流』(講談社)、『日本の神話』『日本人の女神信仰』(以上、青土社)、『ギリシャ文化の深層』(国文社)など多数。

古典として時代を超え読み継がれている『古事記』。「八岐大蛇」、「因幡の白兎」など誰もが聞いたことがある物語への興味から、また、「国生み」「天孫降臨」「ヤマトタケルの遠征」など、壮大なスケールで繰り広げられると神々の物語の魅力から、最近では若い層にも人気が広まっている。本書は神話・物語を厳選して収録し、豊富な図と魅力的なイラストで名場面や人物像を詳解した、『古事記』の魅力を凝縮した一冊!

© 株式会社日本文芸社