<農家の特報班>その苗、違法かも… フリマアプリに登録品種のサツマイモ

多数取引 病害拡大の懸念も

ネット上で物を売買できるフリーマーケットアプリで「べにはるか」など、登録品種の自家増殖とみられるサツマイモの苗が多数取引されている。種苗法違反の可能性があるだけでなく、出どころが不確かな苗の流通はサツマイモ基腐病など病害拡大にもつながりかねない。本紙「農家の特報班」が探った。

「べにはるか」切り苗10本900円――。6月上旬、大手フリマアプリのメルカリで「サツマイモ 苗」と検索すると、こんな出品が数え切れないほど見つかった。平日の正午ごろ、わずか1時間で10点前後の苗が出品され、うち3点は1時間以内に売れていた。

無許可で販売か

出品が目立つのは、人気の「べにはるか」と「シルクスイート」だ。どちらも登録品種で、自家増殖した苗の無許可販売は種苗法で禁止。だが商品説明に、許可を得ていると書かれた苗はほとんどない。農家を名乗る出品者が多いが、許可は得ているのだろうか。

「自分の家で使うために栽培した苗です。多い分だけ出品しています」。千葉県の農家だというある出品者に問い合わせると、こんな返答があった。自家増殖の可能性が高いが、販売許可を得ているかとの質問に回答はなかった。この出品者は「べにはるか」などの苗を1カ月で約300点販売。出品履歴から計算すると、売上高は約80万円に達した。

農水省で種苗法を担当する知的財産課によると、フリマアプリ上の説明だけでは販売許可の有無の判断は難しい。だが種苗法で、登録品種の苗を販売する際には品種名と登録品種であることを表示する義務がある。「少なくとも制限表示義務等の違反には該当する」(知的財産課)

特報班は、この出品者の苗を購入した。送られてきたのは、品名に「野菜」とだけ書かれた、A4用紙大の段ボール箱。中にはむき出しの苗だけが丸めて納められ、表示や説明書きはなかった。苗は写真撮影後、適切に廃棄した。

農家も注意喚起

取材を進めると、ツイッターでこの問題を提起している農家がいた。千葉県成田市でサツマイモを2・5ヘクタール栽培する富岡優人さん(26)。品種保護の必要性を指摘するとともに「病気が入り込むきっかけになりそうで怖い」と話す。サツマイモ基腐病などの病害は、感染苗を通じて広がるためだ。家庭菜園用であっても、そこから農家の畑に広がる恐れもある。

一般にJAや種苗店では、病原菌に感染していないことを保証する「ウイルスフリー苗」を販売する。フリマサイトでは、誰がどのように生産したか、出品者の説明に頼るしかない。匿名配送が主流で、病害発見時の対応が遅れかねない。

同省も問題視しており「フリマアプリで苗は買わないでほしい」(同課)と呼びかける。事態の改善に向け、運営会社と意見交換もしているという。(岡部孝典、金子祥也)

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