社員さんがMBA留学
総費用は、なんと!2800万超え
この2800万円、社員と会社のどちらが負担すべき?
が争われた事件を解説します。
留学から帰国して、わずか2か月後・・・。
社員さんは退職します。はやっ!
ーーー 会社さん、お怒りのようですが
会社
「この社員に2800万円を貸してますからね」
「5年以内に退職したら全額返すって約束だったんです」
舞台は法廷へ。
裁判所
「Xさん!2800万超え、返しなさい」
Q.
そら当たり前でしょ!
A.
いや、過去には裁判所が「これは業務だから社員さんは返さなくていいよん」と判断したケースもあるんです。
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▼ ポイント
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ポイントは留学や研修が【業務かどうか】です。そのあたりも交えて分かりやすくお届けします(双日事件:東京地裁 R4.8.30)(弁護士・林 孝匡)
※ 裁判を一部抜粋し簡略化、判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています
登場人物
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▼ 会社
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・いわゆる総合商社
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▼ Xさん
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・社員さん
・入社9年目くらいで留学
どんな事件か
この会社では、社員のMBA留学を支援する制度を設けていました。(外国ビジネススクールの経営学博士)
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▼ ザックリこんな制度
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・選考を通過した人だけが留学できる
・留学中は仕事しなくてもいい
・留学費用は会社が貸す
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★ 問題となった条件!
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最後の、留学費用は会社が貸す。
コレは以下の条件つきでした。
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留学終了後、5年以内に自己都合退職する場合には全額返す(退職日までに)
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会社からしたら、ソッコー辞められたらたまったもんじゃないですからね。
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▼ Fly High
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Xさんは2回留学します。
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・H28.7〜8
米国ボストン大学のPre-MBAサマースクール
・H29.9〜R1.5
米国ハーバード大学のハーバード・ビジネス・スクール
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そして、MBAを取得しました(なんかよく分かりませんがチョー頭よくないですか?)
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▼ 2500万超えの振り込み
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会社は4年くらいにわたって、Xさんにお金を振り込みました。その額、2500万超え。
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▼ お帰りなさい
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Xさんがハーバードから帰ってきた、その2か月後!
Xさんは退職します。
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▼ はやっ!
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と会社はブチギレたんでしょうね。さて、以下の約束の登場です。
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留学終了後、5年以内に自己都合退職する場合には全額返す
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会社はXさんに対して「貸した2850万円返せ〜」と訴訟を提起しました。
ジャッジ
会社の勝ちです。裁判所は「2847万円返せ」と命じました。
ーーー 裁判所さん、会社が勝ったポイントは?
裁判所
「この留学は、会社の指示命令に基づく業務じゃないからです」
裁判でXさんは、こんな反論をしていました。
Xさん
「今回の留学は会社の事業のために行われたものです(アフリカでの事業の最前線に私を配置するという目的)。なので留学費用は会社が負担すべきものです」
しかし裁判所は、
裁判所
「いや、今回の留学は業務じゃないですね」
〈理由〉
・留学の目的はアフリカで事業を行うための人脈形成
・これ自体、Xさん個人に帰属する事実上の利益
・留学先の選定や履修科目について会社の具体的指示はなかった
・会社とXさんが交わした誓約書には「本留学は貴社業務として行われるものではなく、派遣者本人の希望と自由意思に基づき、私自身の能力の向上を目的としたものである」と書かれていた、など
ーーー Xさん、不服そうですが
Xさん
「この合意のせいで辞めにくくなっています(労働者の退職意思を拘束しています)」
(合意前の借金額が明示されてない、などの理由を挙げてます)
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「業務〈上〉の行為についての貸付ならそうなるかもしれないんだけどね。今回の貸付は業務【外】だから。業務【外】のことについて会社が社員にお金を貸して、その時の条件として【5年以上在籍したら免除、5年以内に自己都合退職したら全額返してね】という条件をつけることは、退職の自由を不当に制約してるとはいえない」
ーーー 本件をシンプルにまとめると、ウルフルズの「貸した金返せよ♪」ってヤツで
裁判所
「閉廷します」
っと・・・いうわけで、裁判所は会社の主張をほぼ認めて、Xさんに対して「2847万円返せ」と命じました。
ポイントは業務かどうか
同じようなトラブルは過去にもたくさんあります。留学のほかに研修のケースもあります。「辞めるなら研修費用返せよ」ってヤツが多いですね。
裁判所が着目する大きなポイントは【これ、業務かな?】です。今回のように【業務じゃない】と認定されれば社員さんはほぼ負けます。
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▼ この留学費用は返さなくていいよ
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逆に裁判所が「この留学費用は返さなくていいよ」判断したケースもあります(富士重工業事件:東京地裁 H10.3.17)
こんな事件です。
会社
「チミ、帰国して5年以内に辞めたよね」
「海外研修の費用を払ってね、338万円」
「ウチの規則ではそうなってるよね」
裁判所
「払う必要なし」
「そんな規則は無効だ」
「だって会社の業務命令で留学してんじゃん」
で、社員が勝訴しました。裁判所が【コレは業務だよね。会社のために行ってるよね】と認定すれば、社員は勝ちます。返さなくてOKです。以下の条文があるからです。
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労働基準法 16条
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
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業務で行ってるのに「辞めたら金返せ」と突きつけると、社員は辞めにくくなるからです。社員を違法にしばっているので無効になるんです。
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▼ ほかの裁判例
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これまでの裁判例を一部あげます。
○ 従業員の勝ち
・新日本証券事件:東京地裁 H10.9.25
・和幸会事件:大阪地裁 H14.11.1
・徳島健康生活協同組合事件:高松高裁 H15.3.14
× 従業員の負け
・長谷工コーポレーション事件:東京地裁 H9.5.26
・野村證券事件:東京地裁 H14.4.26
・東亜交通事件:大阪高裁 H22.4.22
気になる方は事件名でググってみてくださいね。
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▼ 相談するところ
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もし会社から「辞めるなら研修費用ぜ〜んぶ返してね」とオラつかれてる方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!