【イベント報告】人道援助コングレス東京2023 プレイベント 人道援助を支えるのは私たち──SNS時代に一人ひとりができること

早稲田大学 井深大記念ホールとオンラインで開催 © MSF

4月6日、人道援助コングレス東京2023の開催に当たり、「人道援助を支えるのは私たち──SNS時代に一人ひとりができること」というテーマでプレイベントを実施した。日本で人道援助をめぐる諸問題を共に考える場をつくるため、国境なき医師団(MSF)と赤十字国際委員会(ICRC)が2020年から共催している同コングレス。プレイベントはそのキックオフとして、一般を対象に行った。

タレント/コラムニストの小原ブラス氏、グローバルな課題を取り上げるウェブメディア「with Planet」の編集長である竹下由佳氏、ICRCの里脩三氏、MSFの末藤千翔がパネリストとして登壇した。ファシリテーターを務めたのはタレントのパックンマックン。学生の皆さんを招き、オンラインでも200名を超える人の参加を実現することで、一人ひとりができることを考えていこうというメッセージが伝えられた。

セッション1部のテーマは、人道援助の現場でSNSがもたらす影響について。

ICRC駐日代表部で広報制作・デジタルコンテンツ担当の里氏は、2022年12月から3カ月間ウクライナに赴任。当地では、ICRCが「中立、独立、公平」という原則に基づき、国籍に関係なく支援を必要とする人々を助けた行動に対し、SNSも使ってネガティブキャンペーンが展開されたという。「なぜ侵略しているロシア人を助けるのか」という批判だ。その結果、人道援助の現場でも悪影響が出ている。里氏は「正当性や政治に関係なく、支援が必要な人がいれば助けるのが人道支援の意義であり、ICRCは国ではなく人こそ大切だと考えている」と訴えた。

MSFのプロジェクト・コーディネーターを務める末藤も、同様の例を提示。ロシア側でも活動すると発表したMSFをTwitter上で批判したジャーナリストの投稿について触れ、一般からMSFのスタンスに対して「それこそ中立だ」と擁護する意見が寄せられた、というエピソードを紹介した。末藤は「戦争や紛争は国と国など組織の戦いだが、その間には私たちと同じような人が常にいて、平等に医療や水などのライフラインを求めている」と話した。

竹下氏は、ロシア政府自身がフェイクニュースを流したことの重大性についてふれた。フェイクニュースが溢れ、誰もがSNSで情報発信する現在の社会で、私たち一人ひとりはどのようなことを意識すべきなのだろう。竹下氏は、自分がSNSで情報発信するときに気をつけていることを5つ挙げた。

・投稿を目にしたときに情報源を確認する
・誰かの投稿をコピーしたものか、本人の投稿なのか確認する
・画像はGoogleイメージなどを使ってフェイクでないか確認する
・投稿者が普段どんな投稿をしているか、どんな人をフォローしているか確認する
・自分がお酒を飲んでいるときは投稿しない

小原氏はタレントとして、情報発信の影響力が大きい一人。ロシア生まれの彼は、ウクライナ紛争のことをSNSで発信する度に、売名行為だと数え切れない批判を受けたという。そのような経験を経て、小原氏は「他人の意見に左右されるのではなく、自分が心から正しいと思えることだけを発信している」という。

パネリストたちの経験を通して語られた情報をめぐる問題に対し、教育は何ができるのだろう。学生の中から登壇した、東京学芸大学大学院で教育学を専攻する工藤大さんは、多面的にものごとを考えることの大切さについて述べた。

セッション2部のテーマは、人道援助が直面する課題とは。紛争地域で人道援助スタッフが直面する危険、紛争を終わらせる方法としての経済制裁の是非、テロリストという言葉が権力者により都合よく使われる現実など、さまざまな課題についてパネリストから意見が共有された。

最後に、登壇者から本日の感想が述べられた。上智大学の水野葉月さんは「まずは本日のイベントで感じたことを身近な友人たちに共有することから始めたい」と語り、小原氏は「戦争を起こさないために一人ひとりが意見を持ち、発信し、それをきっかけに自分が変わっていくことも人道支援につながるのではないか」と語った。会場やオンライン参加者からのコメントも含め、それぞれが「人道援助のため、SNSの時代に一人ひとりができること」について感じたことが、彼らの言葉を通して伝えられ、プレイベントは終了した。

トークイベントのアーカイブは以下より視聴できます。(再生時間:約100分)

登壇者プロフィール

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