出産間近の夫婦 家の壁に突然大きな穴 日常と戦争が隣り合わせ 「世界が引き裂かれる時」本編映像

2023年6月17日より劇場公開される、ウクライナのマリナ・エル・ゴルバチ監督作「世界が引き裂かれる時」から、出産を間近に控えた夫婦が住む家の壁に、突然大きな穴が空いてしまう、本編冒頭映像が公開された。

静寂に包まれた明け方の寝室。出産を間近に控えた妻イルカと彼女を心配する夫トリクの夫婦が何気ない会話を交わす。本作の舞台は、ロシアとの対立・紛争が続く2014年のウクライナ・ドンバス地方。妻を気づかい、戦争のない平和な場所で子供を産んでほしいと考えるトリクは、イルカを病院に連れて行こうとしている。しかし次の瞬間、穏やかな風景が一変。突如、轟音と爆風が襲うと、家の壁が崩壊し、大きな“穴”が空いてしまう。何気ない日常と戦争が隣り合わせにある不条理さを切り取ったシーンとなっている。

「世界が引き裂かれる時」は、2014年7月にウクライナのドネツク州で実際に起こったマレーシア航空17便撃墜事故を背景に、ウクライナで懸命に生きる女性の姿を描いた作品。ロシアとの国境付近にあるウクライナの小さな家で暮らす、出産を間近に控えた妻とその夫。明け方、夫婦の住む家が襲撃され、壁に大きな穴があいてしまう。壁の修繕に取り掛かろうとする二人をよそに、親ロシア派と反ロシア派双方の対立は次第にエスカレートし、事態はさらに混乱を極めていく。

軍事的な衝突そのものではなく、ウクライナで懸命に生きる女性の姿を描き出したのは、本作が長編5作目となるウクライナ人女性監督のマリナ・エル・ゴルバチ。長回しのワンカットや遠近法を効果的に用い、ワイドスクリーンの広い空間を舞台にしながら、逃げ場のない閉塞感を生み出している。ロシアのウクライナ侵攻が始まる直前の2022年1月に、第38回サンダンス映画祭ワールドシネマ部門で監督賞を、続く第72回ベルリン国際映画祭でパノラマ部門エキュメニカル賞を受賞するなど、多くの賞を受賞している。

一足先に本作を鑑賞した著名人によるコメントも公開された。コメントは以下の通り。

【コメント】

■加藤登紀子(歌手)
言葉が見つからない。ただもう凄い映画です。
農家の夫婦の普通の暮らしの真っ只中に戦争が飛び込んでくる。
その普通さと異常さが見事に描かれている。2014年にウクライナの東部、ドンバスで本当に起こったこと。
それから9年、今がどんなことになっているのか、ただもう胸が痛いです!

■片渕須直(アニメーション映画監督)
どんな結末ならばこの物語の人々にとっての救いとなるのだろうと考えながら見続けて、自分たちの非力さを痛く感じた。
映画を見終えてもまだ本当の結末を知ることはできない。描かれるのは、2014年ウクライナ東部ドンバスなのだから。
今もなお矛盾のただ中にある。

■児玉浩宜(写真家)
平穏な暮らしに、にじり寄る狂気に満ちた現実。
広大な土地をとらえた詩的映像のなかで、人々の心に静かに巣食う虚しさと主人公・イルカの情動が見るものの心に突き刺さる。
これらの物語の続きが、いまある『世界』なのだと痛感する。

■上田洋子(「ゲンロン」代表)
ウクライナの田舎の、だだっ広い風景。空と大地のコントラストがとても美しい。
人間の愚かさが調和を乱し、風景は不安定になる。
世界を乱すのは決まって人間だ。寓話的なタッチが、しみじみと恐ろしい映画である。

■速水螺旋人(漫画家)
普段の生活は多様な彩りでできあがっている。
それをたったふたつに分けてしまうのが戦争だ。敵と味方、生と死。
乱暴にも土足で、断りもなく。そのとき僕は彩りを守ることができるだろうか。
崩れた部屋を掃除し、レンガを積み直すように。

【作品情報】
世界が引き裂かれる時
2023年6月17日(土)~シアター・イメージフォーラムにてロードショー、全国順次公開
配給:アンプラグド

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