事故に巻き込まれた小林可夢偉とセバスチャン・ブルデー、ル・マンの『スローゾーン』見直しを主張

 小林可夢偉とセバスチャン・ブルデーは、先週末のル・マン24時間レースで他車から巻き込まれた事故を受けて、スローゾーン制度の「大きな見直し」が必要だと考えている。

 可夢偉の7号車トヨタGR010ハイブリッドは、9時間目にテルトル・ルージュ手前のネクスト・スローゾーンで、JMWモータースポーツの66号車フェラーリ488GTE Evo、アルピーヌ・エルフ・チームとグラフ・レーシングのLMP2車両と絡み、車両にダメージを負ってリタイアを強いられた。

 一方、3号車キャデラックVシリーズ.Rをドライブするブルデーは、2時間目にダンロップブリッジでユリス・デ・ピューのAFコルセ21号車フェラーリ488に接触され、同じく複数台が絡むアクシデントに巻き込まれた。

 両ドライバーは、フルコースイエロー(FCY)やセーフティカー(SC)を導入する代わりに、インシデントが発生した場合にサルト・サーキットの一部区間で時速80kmに減速するこの処置について、意見を述べている。

 このシステムはサーキットを9つのゾーンに分け、事故等が起きた当該区間のみ80kmm/hとする仕組み。入り口のひとつ前のマーシャルポスト(MP)で『ネクスト・スロー』ボードが提示され、そこから追い越しが禁止となる。

WECが発行しているル・マン24時間サーキットのコース図

 ブルデーは「レースコントロールは、スローゾーン1から僕らを解放した。だから、スローゾーン2がまだ有効であることを示す『ネクスト・スロー』がなかったんだ。そして、(後続の)GT勢はノーズ・トゥ・テイルの状態だった」

「彼が何をやっていたのかわからないが、次のゾーンがまだイエロー(スローゾーン)であることを忘れていた。彼はただ、僕らに突っ込んできた」

「ブレーキを踏んでスピードを落とすと同時に……それもあまり急にはやらなかったんだけどね。マーシャルがグリーン、イエロー、スロー、と言っていたから、ちょっと恐かったんだ」

「僕たちだって、誰があのポルシェに乗っていたのかわからないけど、僕たち自身も少し混乱しているのがわかった。そして、後ろのヤツが僕に突っ込んできたんだ」

セバスチャン・ブルデー/レンガー・バン・デル・ザンデ/スコット・ディクソンがドライブした3号車キャデラックVシリーズ.R

 ブルデーの3号車キャデラックはボディワークの損傷だけで走り続け、結局4位でフィニッシュしたが、可夢偉のトヨタは走行不能となり、ルマン6連覇を目指す日本メーカーにとって大きな打撃となった。

「自分には何ができたのか? もっといい方法があったのなら、知りたいところです」と可夢偉はSportscar365に対し語った。

「夜間は光が眩しくて見えにくいのです。ネクスト・スローなのか、スローゾーンなのか、判断をするのは難しい」

「結局のところ、オーバーテイクしてしまったらペナルティを受けてしまいます。だから、たとえタイムを失うと分かっていても、絶対にそれを避けようとしました。ルールを尊重しようと思い、ブレーキをかけたのです。後続のクルマは驚き、止まれませんでした」

「この状況で、どのように操作すればいいのか、知りたいです」

■「FCYは、より安全な方法だと思います」と可夢偉

 ブルデーは、ル・マンにおいてはシステム全体を再検討する必要があると考えている。

「とても事故が起きやすいと思う」とブルデーは語る。

「とても退屈だし、ゾーンも長すぎるんだ。最初の年は完璧だった。(スローゾーンは)コーナーごとの走行で、ストレートはコーナーから切り離されていたからね。でもいまや、1分半も続くスローゾーンがある。何のために?」

「テルトル・ルージュから第1シケインに入るまでがひとつのゾーンなんだ。そんなの必要かな? もし事故が起きるなら、テルトル・ルージュか、ストレートか、シケインで起きるだろう。なぜ、3つを通したスローゾーンが必要なのか?」

「特に、複数のスローゾーンを設けて、そのうちのいくつかをオフにし始めたら、大きく見直す必要があると思う。みんなにとって複雑すぎるんだ」

 一方可夢偉は、将来的にFCYの使用を増やすことを提案する。FCYは、コース上のどの位置にいても、すべてのクルマが即座にスピードを落とすよう強制するものだ。

「FCYは、より安全な方法だと思います。なぜなら、すべての人が同じように減速するからです」と可夢偉。

「どんな位置、場所、距離でも80km/hにする必要があります。この状況は、無線が使えないと難しいシナリオですが、そうしなければ、このような(アクシデントの)発生はなくならないでしょう」

「僕らは61台のマシンとコースを共有しており、多くの新人ドライバーと、経験豊富なドライバーが混在しています」

「僕らは、何をしなければならないかは正確に分かっていましたが、ル・マンに初めて出場するドライバーがこのような照明を目にすることを想像してみると……正直言って、混乱しますよ」

トヨタGAZOO Racing・WECチーム代表兼7号車ドライバーの小林可夢偉

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